12日の日本経済新聞朝刊企業2面に中村直文編集委員が書いた「アサヒVSスーパードライ ゼロが焦点(上) 微アルコール 脱マッチョへ」という記事は問題が多かった。中身を見ながら具体的に指摘していく。
耳納連山に沈む夕陽 |
【日経の記事】
1都3県では新型コロナウイルスの感染対策で緊急事態宣言が再延長された。感染拡大からおよそ1年。内食志向が強まるなど食生活スタイルは変化し、企業の戦略にも影響を与えている。不振のビール業界では、新たな競争が勃発した。松本清張氏の小説タイトル風に言うならば「ゼロが焦点」だ。
アサヒビールが3月末に発売するのはアルコール度数0.5%の微アルコールビール「ビアリー」。これまでのノンアルコールビールでは味の面で物足りない。そこでアルコール摂取をできるだけ抑えながら、おいしさも追求する目的で3年前から開発がスタートした。
◎「ゼロが焦点」?
「ノンアルコールビールと言ってもわずかにアルコールが入っていた。しかしアサヒの新商品では完全なアルコールゼロを初めて実現…」といった話ならば「ゼロが焦点」でいいだろう。しかし「アサヒビールが3月末に発売するのはアルコール度数0.5%の微アルコールビール」。「ゼロが焦点」とは言い難い。
続きを見ていく。
【日経の記事】
「ローアルコール、ノンアルコールなど脱・アルコールは日本が先行していたが、今は海外の方が進んでいる」。2020年9月にアサヒビールが立ち上げた「新価値創造推進部」の梶浦瑞穂部長はこう説明する。民間調査会社の試算では16~19年のアルコール度数0~0.5%の酒類市場の伸び率は6.3%と全体の0.5%を大きく上回っているという。
◎なぜ「試算」?
まず、なぜ「試算」なのか。「16~19年」ならば実績が出ているはずだ。実績値を用いていないということか。ならば注釈が要る。
「16~19年」の「伸び率」という説明も分かりにくい。「16」と「19年」を比べているようにも見えるし「16~19年」とその前の4年間を比べている気もする。
「日本」の市場規模について書いているのだろうが「今は海外の方が進んでいる」とのコメントが直前にあるので世界全体の動向のようにも感じる。この辺りは明確に書いてほしい。
続きを見ていこう。今回の記事で最も問題を感じた部分だ。
【日経の記事】
このためアサヒは「スマートドリンキング」(スマドリ)と呼ぶ新たなキャンペーンを開始。25年までにアルコール度数3.5%以下の商品構成比20%を目指す。ビアリーはその第1弾。同社は日本の20~60代の人口約8千万人のうち、約4千万人が「酒を飲めない」、あるいは「飲めるけど飲まない」層と分析する。微アルコールという新たなカテゴリーを創出し、停滞するアルコール市場の裾野を広げたいという野心的な取り組みだ。
もっともこれは簡単ではない。イノベーションあるいは新市場の形成とは「習慣」を提案し、なじんでもらうことに他ならない。しかもアサヒがこれまで消費者に印象づけてきたイメージの刷新も必要で、経営風土の見直しも要するからだ。
◎「新たなカテゴリーを創出」?
「微アルコールという新たなカテゴリーを創出し、停滞するアルコール市場の裾野を広げたいという野心的な取り組みだ」と中村編集委員は言うが、本当に「新たなカテゴリー」なのか。例えばアルコール度数0.8%のホッピーは「微アルコール」ではないのか。0.5%のノンアルコールビールも輸入品は売られているようだ。そもそもノンアルコールビールも当初は「微アルコール」のものが多かった。「新たなカテゴリーを創出」という説明は違う気がする。
ついでに言うと「25年までにアルコール度数3.5%以下の商品構成比20%を目指す」という書き方も引っかかった。これだと0%を含むので「微アルコール」の目標にはならない。それに現状がどの程度かを見せないと「商品構成比20%」がどのくらい「野心的」なのか分からない。
「中村編集委員に記事を書かせるならば周囲の強力な支援が必要」と訴えてきたが、今のところできていないようようだ。
※今回取り上げた記事「アサヒVSスーパードライ ゼロが焦点(上) 微アルコール 脱マッチョへ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210312&ng=DGKKZO69912280R10C21A3TJ2000
※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html
「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html
スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html
「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html
「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html
キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html
分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html
「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html
「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html
「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html
「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html
日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html
「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html
「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html
渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html
早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html
日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html
「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html
野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html
「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html
平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html
拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html
「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html
データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html
「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html
「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html
「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html
問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html
「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_30.html
記事自体評価に値しないレベルであるからにはDではなくEランク。文意と平仄のあった格付けをしていただきたい。
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