2020年12月22日火曜日

「女性も働くことで幸福度は上がる」と日経に書いた出口治明氏の誤解

21日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう」という記事に「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏が書いている。この説明は正しいのだろうか。

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これを考えるために3月6日付の東洋経済オンラインに載った「『働く妻』が働けば働くほど不幸になる深刻理由」という記事を見ておこう。筆者の橘木俊詔氏は自分たちの研究結果を以下のように記している。

【東洋経済オンラインの記事】

第1に、既婚女性に関しては、本人の家計負担率が高くなる(すなわち本人がもっと働く)と、本人の生活満足度が低下するのである。すなわち自分が働けば働くほど家計所得は増加すれど生活満足度(幸福度)は下がるのが、既婚女性で働く人の気持ちなのである

一方で既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない。女性と男性とでは自分がもっと働くことの効果に関して、異なる評価をしているとの発見は興味深い。


◎出口氏の話とは合わないが…

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の解説とは逆に、女性の場合は「自分が働けば働くほど生活満足度(幸福度)は下がる」というのが橘木氏らの結論だ。

既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない」のだから、夫婦の「幸福度」を最大化するためには「男は仕事、女は家庭」という分業制が合理的だ。もちろん全ての夫婦に当てはまる訳ではないが「女性も働くこと」を社会全体で推進していけば、女性の「幸福度」は低下していくだろう。

もう1つ材料を提示しよう。「2億円と専業主婦」という本で著者の橘玲氏は「第6回世界価値観調査(2010~2014)」の内容を以下のように紹介している。

【「2億円と専業主婦」の引用】

ニュージーランドは、「とても幸せ」な専業主婦の割合が55.4%なのに対し共働きは38.7%で、その格差は16.7%と専業主婦の方が幸福度が高くなっています。こうした「専業主婦の幸福度が高い国」は59カ国中35カ国(約6割)です。

日本(格差13.8%)はそのニュージーランドに次いで「専業主婦の幸福度が高い国」ですが、「#MeToo」運動発祥の地で共働きが当然とされるアメリカも19位(格差5.1%)ですから、世界的にも「専業主婦は幸せ」という傾向があることがわかります。


◎願望と現実は別なのに…

世界の中でも日本は「専業主婦の幸福度が高い国」のようだ。「共働き」の女性よりも明確に「幸福度が高い」らしい。「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の説明はますます怪しくなってくる。

ここで取り上げた情報がそろって間違っている可能性も当然にある。出口氏は何らかの確固たる根拠を持って「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と断言したのかもしれない。しかし少なくとも記事中では根拠を示していない。

推測だが「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに思い込んでいるのだろう。なぜそうなるかと言うと「そうでなくては困るから」ではないか。

出口氏の書いたものを読んでいると「女性も男性も同じように働き、家事を平等に分担するのが好ましい。ついでに言えば国会議員の数も企業の管理職の数も男女同数が理想」という価値観を感じる(明確にそう出口氏が言っている訳ではない。しかし方向としては合っていると思う)。

こうした「あるべき社会の理想像」を持つのは悪くない。しかし「自分の理想に近付く」のと「世の中が良くなる」のは別だ。「仕事も家事も男女が同じようにやる社会」では社会全体の幸福度が上がるのか。経済成長率が高まるのか。企業価値が向上するのか。少子化に歯止めがかかるのか。これらは個別に検証する必要がある。

自分の思い描く理想に近付けば、社会全体が好ましい方向に動くとの前提を出口氏には感じる。だから「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに言い切ってしまうのだろう。

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになるが、女性の幸福度は下がる」という調査結果があっても、出口氏がそれを受け入れて考えを改めるとは考えにくい。不都合な情報として無視していくのではないか。読者としては「出口氏の話は信用しない」という姿勢で臨むしかない。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67458140Y0A211C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_20.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

人生100年時代は60歳で「残り半分」だと出口治明APU学長は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/10060apu.html

「男性と女性の差は筋力だけ」と日経ビジネスで語った出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/apu.html

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