2020年11月3日火曜日

日経 山下真一氏の「一目均衡~ESGマネー導く条件」に感じた「ないものねだり」

3日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~ESGマネー導く条件」という記事でシニアライターの山下真一氏は「ESG(環境、社会、企業統治)」投資に関して「企業の情報開示や評価の改善を急ぎ、投資マネーの力を正しく発揮させる必要がある」と訴えている。しかし、これはないものねだりだと感じた。

有明海(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

勢いを増すESG投資が広く深く支持を得るには時間がかかりそうだ。日本の商社やカナダの金鉱山会社について、ESGを重視する欧州の一部年金基金は投資対象外のリストに載せている。一方で、米著名投資家バフェット氏はまさにこれらの企業に投資したばかり。まるで孤高のバフェット氏が、気候変動対策は大切だがリターンは重視しないのかと、疑問を投げかけているかのようだ。

米労働省もESG投資をけん制し、「年金運用は金銭的な利益のみを考慮すべきだ」との案を示した。運用会社は労働省案に批判的だが、個人を中心に、老後資金の運用は金銭的利益を優先してほしいと一定の賛成もある。

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件。そのためには、ESGマネーが企業の開示や評価にもとづき、正しく優良企業へと向かう流れを確立することが前提になる。開示基準の統一化や評価のルール作りを急ぎ、ESG投資という「仏」に、選別眼のある「魂」を入れる必要があるだろう


◎「選別眼のある『魂』を入れる」?

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件」という説明はやや分かりにくいが「ESG投資がさらに浸透するには、ESG投資によって市場平均を上回る確率が高まると示されることが条件」との趣旨だとしよう。この場合「ESG投資という『仏』に、選別眼のある『魂』を入れる」ことを求めるのは酷だ。

仮にある評価機関が「ESG投資」の対象企業を正しく選べるようになったとする。結果として、この評価機関の選んだ銘柄でポートフォリオを作れば市場平均を上回るリターンを得られると「示され」、山下氏の望む状況が作れたとしよう。

そうなると当然に「ESG投資」に資金が流れ込み株価の割高感が強まる。結果として「正しく」選んだ銘柄から市場平均を上回るリターンが得られにくくなる。

安定的に市場平均に勝てる必勝法は基本的にない。あったとしても、多くの人に知られてしまっては持続性がなくなってしまう。「ESG投資」も「さらに浸透」した上で市場平均を上回るリターンを安定的に得る術はないと考えるべきだ。

そもそも「CO2削減量に応じて株価が形成される」ような状況になれば「CO2削減量」ゼロの高収益企業の時価総額が破綻寸前の企業を下回ってもおかしくない。果たしてそれが株式市場のあるべき姿なのか。

ESG投資」をやるのは勝手だが「応援したい企業にしか投資しない。結果としてリターンが悪くても構わない」といった類のものであるべきだ。「リターンにも旨みを」と言い始めるとおかしな話になってくる。


※今回取り上げた記事「一目均衡~ESGマネー導く条件」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201103&ng=DGKKZO65783520S0A101C2DTA000


※記事の評価はC(平均的)。山下真一氏への評価も暫定でCとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿