2020年10月15日木曜日

最適な「投資資金の待機場所」は「普通預金」と文藝春秋に書いた橘玲氏に異議あり

文藝春秋11月号に作家の橘玲氏が書いた「臆病者のための『資産防衛術』」という記事には同意できない解説が目立った。特に気になったのが「普通預金」に関する記述だ。当該部分を見ていこう。

彼岸花(久留米市)※写真と本文は無関係です


【文藝春秋の記事】

財務省が発行する個人向け国債は元本が保証され、1万円から購入可能で、直近2回の利子を放棄することでいつでも中途換金できる。これは将来、金利が上がって(債券価格が下落して)損失が生じても国が補填してくれるということで、機関投資家ではあり得ない大盤振る舞いだ。

問題は、利率が0.05%ときわめて低いことだ。もちろんこれは財務省が悪いのではなく、日銀のゼロ金利政策によるものだが、100万円投資して1年間で得られる利息が500円なら、わざわざ手間をかけても仕方がないと思うひとも多いだろう。

そんなときに勧めたいのが普通預金だ。こういうとたいてい「なにをバカなことを」という顔をされるが、普通預金はじつはきわめてすぐれた金融商品だ。

まず、タダでお金を預かってもらえるうえに、出し入れも無料だ。当たり前だと思うかもしれないが、これらはすべてコストがかかる。現状では、それをぜんぶ銀行が負担している(金融機関から見れば小口の預金口座はすべて赤字だ)。貸金庫を借りるにはお金がかかるが、それよりずっと便利なサービスをタダで提供してくれているのだから、これを使わない手はない。

そのうえ普通預金は元本が保証されていて、金融市場がどれほど混乱しても損失を被るおそれがない(金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる)。

ゼロ金利では債券価格が上限いっぱいまで上がっているのだから、あとはそのまま横ばいか、価格が下がる(金利が上がる)しかない。将来、金利が上昇に転じるようなことがあれば、投資家はクリックひとつで普通預金からより有利な金融商品(定期預金や国債、外貨預金など)に乗り換えることができる。この流動性の高さが普通預金の大きな魅力だ。

「普通預金ではお金が増えない」のは確かだが、デフレで物価が下落していれば実質利回りはプラスになる(そのぶんだけ生活に余裕ができる)。未来が不確実なとき(いまがまさにそうだろう)に、投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが普通預金なのだ。


◎個人向け国債の方が「ふさわしい」ような…

投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが普通預金」だとは思えない。橘氏も触れている「個人向け国債」(「変動10年」との前提で話を進める)の方が「ふさわしい」。

まず「利率が0.05%」と高い。絶対的な水準としては確かに「きわめて低い」。しかし、ここで問題となるのは「普通預金」との比較。0.001%の「普通預金」よりは魅力的だ。

さらに言えば「個人向け国債」にはキャンペーンでキャッシュバックが得られる場合がある。これを利用すれば「普通預金」に対する優位性は決定的になる。

投資資金の待機場所」として「普通預金」を選ぶとすれば、「利率」の低さを補えるメリットが必要になる。

普通預金は元本が保証されていて、金融市場がどれほど混乱しても損失を被るおそれがない(金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる)」と橘氏は書いているが、これも「普通預金」の優位性を示すものではない。

国が支払いを保証しているから「金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる」と言える。「個人向け国債」の場合は「1000万円まで」という上限がない。国の信用力を絶対だと見なす場合、「損失を被るおそれがない」のは「普通預金」では「1000万円まで」だ。1億円でこの安心を得ようとすれば10以上の口座が必要となる。しかし「個人向け国債」ならば1つの口座で10億円でも20億円でも安全に「待機」させられる。「待機」資金が大きい場合は「個人向け国債」の方が「普通預金」よりも特に優れている。

普通預金」に優位性があるとすれば「出し入れ」のしやすさか。「待機」資金が同時に日常的な生活資金でもあるならば「普通預金」を選ぶ合理性はある。

ただ、橘氏も書いているように「個人向け国債」でも「中途換金」はできるし、元本を棄損する恐れもない。

個人の場合「投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが個人向け国債」と見てよいのではないか(国債購入も「投資」に当たるとの考えは成り立つが…)。


※今回取り上げた記事「臆病者のための『資産防衛術』


※記事の評価はD(問題あり)

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