2020年7月20日月曜日

「人も設備も過剰で『超短納期』」の説明が苦しい日経ビジネス

日経ビジネス7月20・27日合併号の特集「危機に強い ぽっちゃり企業」の中の「『余剰人員は悪』を疑え エーワン精密~人も設備も過剰で『超短納期』」という記事は理解に苦しむ内容だった。記事を見た上で具体的に指摘したい。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

⼭梨県中央部の甲府盆地。南アルプスの⼭々を望む⼟地に、⼯作機械向け部品を製造するエーワン精密の5棟の⼯場が建っている。第1⼯場には、近く、2億円規模の最新鋭の機械設備数台が⼊る予定だ。第1⼯場は面積の約3割しか埋まっていなかった。その空いている場所に新たな設備が設置される。

「すでに空きスペースがあったから、すぐに機械設備を発注できた。それに、不況のときに購⼊した⽅が、価格も安くなるし、機械メーカーのエンジニアも時間をかけて作業をしてくれる」。半世紀にわたり、エーワン精密を率いてきた梅原勝彦相談役はこう話す。

実は、第1⼯場⾃体も景気が悪化したリーマン・ショック直後の2009年に建設した。設備や⼯事の費⽤は2〜3割程度抑えられたという。

不況期でも設備量を「やや過剰」にしているのは、急な注文にも対応し、超短納期で製品を提供するのがエーワン精密の最⼤の強みだからだ。例えば、主力の「コレットチャック」という製品は、他社なら納⼊まで1〜2週間かかるが、エーワン精密なら早ければ翌⽇に納⼊できる。他社との競争で優位に⽴てるし、顧客とも対等な価格交渉が可能になる。

「もう少し価格を下げてもらえませんか」。顧客である売上⾼数千億円規模の⼤⼿企業の担当者が頼むと、エーワン精密の担当者はためらいなくこう⾔って電話を切った。「それはできません」

今から⼗数年前のこと。相⼿先の⼤⼿は、あの永守重信会⻑が率いる⾼成⻑企業の⽇本電産である。エーワン精密は、その値下げ要求に毅然とした態度を取った。

「短納期や品質など相⼿に与えられるメリットがあるから顧客は価値を認めてくれる」と梅原⽒は⾔う。同社は不況期でも値下げには⼀切応じない姿勢を貫いてきた。

受けた注⽂のうち6割程度は、エーワン精密側の⾒積価格が通っている。⾔い換えれば、残りの4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかったということだ。典型例が、機械を構成する「カム」と呼ぶ部品で、もう50年以上、価格を変えていないという。

同社は⼈員も「やや過剰」。不況期の人員整理は珍しくないが、エーワン精密の考え⽅は正反対だ。好況になって需要が戻ったときのために⼈員を抱えておく。さらに、約100⼈の従業員は全員が正社員である。「せっかく育てた社員たちを雇い続けなければ会社にとってマイナス」がエーワン精密流の考えなのだ。値下げをしない収益性の高さが雇用を守る“原資”となる。

好不況の波にも左右されず、どんなときにも柔軟に対応する「やや過剰」の経営がエーワン精密を⽀えている。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)なぜ「相談役」?

半世紀にわたり、エーワン精密を率いてきた梅原勝彦相談役はこう話す」と書いてあると、今も「梅原勝彦相談役」が「エーワン精密を率いて」いるような印象を受ける。だが、会社のホームページを見ると社長もいるようだ。「相談役」に語らせるなとは言わないが、なぜ社長などではなく「相談役」が前面に出てくるのかの説明は欲しい。社長はお飾りで「相談役」が実質的な経営トップと理解すればいいのだろうか。


(2)なぜ「超短納期」にできる?

人も設備も過剰で『超短納期』」というのは記事の柱だ。しかし「超短納期」を実現できる仕組みがよく分からない。「他社なら納⼊まで1〜2週間かかるが、エーワン精密なら早ければ翌⽇に納⼊できる」のであれば、圧倒的な差だ。「人も設備も過剰」にすると、これを実現できるだろうか。

過剰」と言っても、あくまで「やや過剰」だ。「他社」の設備稼働率が100%だとしたら「エーワン精密」も90%程度はあるだろう。他の条件が同じだとして、なぜここまで「超短納期」にできるのか謎だ。

人も設備」も「やや過剰」にするだけで、これだけ圧倒的な差を付けられるならば「他社」も追随しそうなものだが…。

やや過剰」がどの程度の「過剰」なのか明確でないのも残念だった。できれば具体的な数値で示してほしい。


(3)「取引が成⽴しなかった」?

受けた注⽂のうち6割程度は、エーワン精密側の⾒積価格が通っている。⾔い換えれば、残りの4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかったということだ」という説明には矛盾を感じる。

受けた注⽂」であれば、「受注」しているはずだ。価格面でも合意ができていると見るのが普通だ。しかし「4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかった」と書いている。価格で折り合わないのに「注⽂」を「受けた」のか。

「商品供給の要請10に対し、価格面で合意して実際に供給したのが4」と言いたかったのではないか。だとしたら記事の説明は間違いだと思える。


(4)実質値下げだが…

ついでにもう1つ。「もう50年以上、価格を変えていない」ことを「値下げには⼀切応じない姿勢を貫いてきた」例として挙げている。間違いではないが「50年以上」も価格を据え置いているのならば、昭和期のインフレを考慮すると実質的には「値下げ」をしている。



※今回取り上げた記事「『余剰人員は悪』を疑え エーワン精密~人も設備も過剰で『超短納期』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00513/?P=4


※記事の評価はD(問題あり)

1 件のコメント:

  1. 2020年7月20日月曜日
    「人も設備も過剰で『超短納期』」の説明が苦しい日経ビジネス
    を参照させていただきました。下記Websiteに掲載してあります。
    https://www.tocken.com/wordpress/index.php/2021/05/15/senmonka_yori_genbanohito/
    ご意見、コメント等ございましたら、お寄せください。

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