2020年6月28日日曜日

週刊ダイヤモンド塙花梨記者「コーヒーの経済学」に感じる市場への理解不足

週刊ダイヤモンドの塙花梨記者は市場に関する理解が不十分だと思える。7月4日号の「コーヒーの経済学~コロナ禍でウチ豆需要急増!」という特集の中の「誰が価格を吸収するのか? 売れるほど困窮する生産者の悲劇」という記事で、コーヒー市場に関して色々と解説しているが、ツッコミどころが多過ぎる。
鮎川港(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

需要が増えていても、近年豆の価格は停滞気味だ。そして、実は「コーヒー」という大きなエコシステムの中で、生産者が割を食っている。なにしろ、コーヒーの小売市場が450億ドルもの巨大市場になっている一方で、生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない。生産者が困窮する構図を説明していこう。


◎「100分の1」は少ない?

コーヒーの小売市場が450億ドルもの巨大市場になっている一方で、生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない」からと言って「生産者が割を食っている」とは限らない。「100分の1」が「生産者」と比べて少な過ぎるかどうかも、上記の説明だけでは何とも言えない。

例えば1杯100円のコーヒーで、コーヒー豆のコストが全体の1%だとしたら「生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない」からと言って、不当に少ない「利益しか得ていない」とは考えにくい。また得ている「利益」が少ないからと言って「困窮」しているとも限らない。

そもそも「小売市場が450億ドル」というのは売上高の話だ。ならば比較するのは「生産者」の売上高が適切だ。「利益」と比べれば、その比率が小さくなるのは当然だ。

記事の続きを見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

コーヒーの価格形成の基準は米ニューヨーク先物取引価格にある。そのため、現実の取引の前に投機家の動向や思惑でコーヒーの売り買いの価格水準が決まってしまう。価格が大きく動き始めると投機家の取引が急激に増え、現実の需給関係とは関連しにくくなる

一方で、予測が外れると需給関係とは逆方向に動く可能性もあるほど大き過ぎる変動を招く。また、予測にばらつきがあると、価格の動きが複雑になっていくのだ。

大き過ぎる変動の一つが2001年から2年間続いたコーヒー危機だ。世界のコーヒー貿易量の約3割を占めるブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし、大暴落。逆に08年のリーマンショック以降は、コーヒーの価格は高騰した。株の取引でもうけられなくなった投機家がコーヒーなどの先物取引に流れ込んできたためだ。


◎辻褄が合わないような…

価格が大きく動き始めると投機家の取引が急激に増え、現実の需給関係とは関連しにくくなる」と書く一方で「大き過ぎる変動の一つが2001年から2年間続いたコーヒー危機だ。世界のコーヒー貿易量の約3割を占めるブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし、大暴落」とも説明している。

ブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし」たのならば「現実の需給関係」ときちんと「関連」している。先物市場に関しては、投機的な動きによって需給を無視したような値動きが見られることもあるが、基本的には需給に基づく相場形成を期待できる。

さらに続きを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

11年は「13年ぶりの高騰」で1ポンド当たり2ドル超、そして18年以降は「12年ぶりの暴落」で1ドルを下回ることが増え、低迷し続けている。世界のコーヒーの40%を生産するブラジルの生産量が伸びていることと、レアル安が要因だ。


◎色々と疑問が…

まず「13年ぶりの高騰」と「12年ぶりの暴落」が引っかかる。書いてある通りならば「13年ぶりの上げ幅」と「12年ぶりの下げ幅」を記録したのだろう。だが、塙記者は「13年ぶりの高値」「12年ぶりの安値」と伝えたかったのではないか。この辺りに未熟さが見える。

さらに言えば、記事に付けた「コーヒー相場の推移」というグラフが18年までなのも感心しない。せめて19年は欲しい。「米ニューヨーク先物取引価格」を使えば、20年前半の価格動向も入れられたはずだ。今回のグラフでは「1ドルを下回ることが増え」ているようには見えない。

さらに続きを見ていく。今回の記事で最も問題を感じたところだ。

【ダイヤモンドの記事】

このように豆の相場は乱高下している一方、一杯のコーヒーの値段の変化は微々たるものだ。18年以降、「コーヒーが極端に安くなったなあ」と感じている人はいないだろう。なぜなのだろうか。

実は、この価格の暴落はそのまま、生産者の生活水準の暴落になっているのだ。需要が増えているからといって、価格アップという形で生産者に還元されることはない。生産者たちは取引力が弱く国際価格の動向に疎いため、仲介業者などの中抜きの被害に遭っている(左ページ図参照)。


◎さらに色々と疑問が…

この価格の暴落はそのまま、生産者の生活水準の暴落になっている」としよう。だからと言って、それが「一杯のコーヒーの値段の変化は微々たるもの」となる理由にはならない。

コーヒー豆の価格が下がっているのならば「生産者の生活水準」がどうであろうと「コーヒーの値段」の下げ要因にはなる。例えば「コーヒーの値段に占める豆のコストがわずかしかない」「豆の仕入れ価格が下がっても、コーヒーチェーンなどが利益を得てしまい、小売価格に反映されない」といった話ならば分かる。なのになぜ「生産者の生活水準の暴落」で説明しようとするのか。

需要が増えているからといって、価格アップという形で生産者に還元されることはない」との説明もおかしい。「需要が増えて」いても供給が増えたりすれば相場は下がる。「(市場)価格の暴落」が起きているのに「価格アップという形で生産者に還元」する方が不自然だ。

生産者たちは取引力が弱く国際価格の動向に疎いため、仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」という説明も納得できない。そもそも「生産者」が「国際価格の動向に疎い」というのが疑問だ。常識的に考えれば「生産者」にとって大きな関心事だろう。

仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」とも考えにくい。記事に付けた「コーヒー豆の価格と商流」という図を見ると「農園」は「精製所」に豆を販売している。そして「仲介業者」が介在しているのは「精製所」と「輸出業者」の間だ。この図の通りならば「中抜き」は起きていない。

そもそも「中抜き」は「被害」なのかという疑問が湧く。メーカーが問屋に販売して、問屋が小売りに卸す場合、問屋の「中抜き」が起きる。この時にメーカーは「中抜きの被害に遭っている」のか。物流や営業などの面で問屋を使うメリットがあるから取引をしているのではないか。

その辺りを考慮せずに「仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」と書いているとすれば、やはり市場への理解が不足していると言われても仕方がない。



※今回取り上げた記事「誰が価格を吸収するのか? 売れるほど困窮する生産者の悲劇
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29749


※記事の評価はD(問題あり)。塙花梨記者への評価も暫定でDとする。

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