2020年6月15日月曜日

バランス型ファンドに否定的な週刊ダイヤモンドの特集に高評価

週刊ダイヤモンド6月20日号の特集2「どうなる? 景気・市場 どうする? 投資 投信・ETF全ガイド」は投資初心者にも薦められる内容だ。まず「バランス型ファンド」に否定的なところがいい。
臼杵石仏(大分県臼杵市)※写真と本文は無関係です

そのくだりを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

この異常事態に投資信託(ファンド)の関係者は大いに翻弄された。中でも真っ青になったのは損失を限定するタイプのファンドだった。代表格は三井住友銀行、地銀など33金融機関が販売した「アムンディ・ダブルウォッチ」(アムンディ・ジャパンが運用)だ。

このファンドは「リスクとうまく付き合いながら安定的に資産を育てる」とうたい、純資産はピーク時には1500億円にせまった大型ファンドである。

ところが3月26日、ファンドの時価である基準価額が前もって定められていた下限(フロア水準、基準価額の最高値の90%)の9562円まで下落し、繰り上げ償還があっけなく決まった。

繰り上げ償還というのは、ファンドのいわば“白旗”だ。運用を途中で中止して財産を清算、投資してくれた個人に、口数に応じて返還する。ファンドの設定からわずか4年のことだった。

他にも、りそなアセットマネジメントが運用する「りそな・リスクコントロールファンド(みつぼしフライト)2020-02」などは、2月17日の運用開始からわずか1カ月ちょっとで、基準価額が下限(確保ライン)の9500円に達し、繰り上げ償還が決定した。

こうして白旗を揚げたファンドはいずれもバランス型だ。バランス型というのは、国内外の株式や債券など、値動きの異なるカテゴリーに分散投資することで、リターンの変動幅(リスク)を抑えようというものだ。

『買ってもいい投信・ETFリスト付き リスクとコストで投資に勝つ』で詳述するように、分散投資は“王道中の王道”である。先の図の赤の折れ線が、さまざまな資産に分散したもの(8資産均等)だが、下落がかなり抑えられていることが分かる。

ただし、投資である限り、リスクがなくなることはない。ゼロなのは基本、預貯金だけだ

ところが、日本では投資によって損失を被るのを忌み嫌い、「元本確保」「損失限定」に強いこだわりを持つ個人投資家が少なくない。

そこで人気を博したのが、損失限定という化粧を施したバランス型ファンドだった。

「安心、安定の投資」をうたいながら、あえなくギブアップとあっては、顧客からは大ブーイングでは……。そう思いきや、ファンドの販売現場からは「暴落時にこの程度の損失で済んでよかった、ほっとしたという声もある」(販売会社)という。

しかし、ほっとするのはおかしい。本来、投資にはリスクが付きものであり、他者任せでなく自分でコントロールするものだ。

暴落でジタバタすべきではないし、慌てて売り払っては、その後の市場反転で利益を得るチャンスをみすみす逃すことになる。

現に嵐が過ぎ去り、値を戻し始めた4月に入ってからも、損失限定型のバランス型には逆風が吹く。

三井住友銀行、野村證券などが販売したバランス型ファンド「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド(あんしんスイッチ)」の基準価額は3月26日に9200円を割り込み、「プロテクトライン」と呼ぶ下限9000円に接近した。

6月5日時点の基準価額は9144円と、ギリギリのレベルに2カ月以上張り付いたままだ。

世界の株式、債券に分散投資するはずが、現金や短期日本国債など短期金融資産の組み入れ比率を約97%まで引き上げ、“非常事態モード”を続ける。プロテクトラインを割らないことが最優先だ。

これなら確かに、基準価額がこれ以上下がる危険性は低いが、上がる可能性も低い。この先反転攻勢に出ることは可能なのか。純資産1193億円の大型ファンドは、身動きが取れない状況にある。

ファンドのコストには、購入時の販売手数料と、保有している間ずっとかかる信託報酬がある。

あんしんスイッチの信託報酬は年率1.243%だったが、現預金モードに突入後の4月1日から0.957%に引き下げられた。それでも保証料年0.22%を合わせ、1.2%近い保有コストが今もかかっている。

前述のダブルウォッチの顧客は購入時に2.2%の販売手数料を、また信託報酬を年1.32%支払っていた。みつぼしフライトの方は信託報酬が年1.24%、保証料を含めると年1.51%の保有コストがかかっていた。

信託報酬の競争が進むインデックスファンドでは、今や先進国株投信で0.1%、分散投資するバランス型でも0.154%程度で投資することができる。損失限定型のコストは1桁違うのである。

投資には必ずリスクが伴う。預金代わりになるような虫のいい金融商品などない。「損失限定」「リスク限定」「元本確保」という甘言に釣られないことである。


◎バランス型は捨てていい

ためになる内容が多いので引用が長くなってしまった。

損失限定という化粧を施したバランス型ファンド」で「繰り上げ償還」が相次いでいたのは知らなかった。「バランス型」と聞くと市場が荒れている時でも損失は限定的というイメージを持たれやすい。しかし、そうとも限らないと記事は教えてくれる。

個人的には、「バランス型」の最大の欠点は低リターンの債券部分に信託報酬がかかることだと感じる。「世界の株式、債券に分散投資するはずが、現金や短期日本国債など短期金融資産の組み入れ比率を約97%まで引き上げ、“非常事態モード”を続ける」といった事態になれば、なおさらだ。

記事ではコストの高さにも触れている。「ダブルウォッチの顧客は購入時に2.2%の販売手数料を、また信託報酬を年1.32%支払っていた」という。論外の高コストだ。「インデックスファンドでは、今や先進国株投信で0.1%」程度の信託報酬も珍しくない。これを大きく上回る信託報酬を支払うことに合理性を見出すのは極めて困難だ。

投資を考える際、基本的に「バランス型」は捨てていい。

上記のくだりで唯一ツッコミを入れたくなるのが「(リスクが)ゼロなのは基本、預貯金だけだ」という部分。「預貯金」のリスクを「ゼロ」と見なすのならば、国債のリスクも「ゼロ」と考えていい。そもそも、ペイオフ対象外となる「預貯金」のリスクは国債よりも高くなる。

この記事でもう1つ評価できるのが金を「安全資産」と見なしていない点だ。「金は株のように配当がなく、値上がりでしか利益が上がらないリスク資産」と言い切っている。

金に関しては以下の記述もある。

【ダイヤモンドの記事】

実は今、個人投資家の間である商品の人気が沸騰している。「金」である。欧州、米国では金貨、金のETF(上場投資信託)、小口の地金などが売れに売れ、円建て価格が40年ぶりに最高値を更新した日本でも、「これまでの常識では考えられないほどの個人投資家熱」(関係者)だという。

しかし、運用の現場では、長期で見た「金」の期待リターンは1%台、リスク(1標準偏差)は20%ほどと低リターン高リスクであることが知られている


◎「低リターン高リスク」ならば…

金を売りたい人に踊らされているのか、深く考えずに金を「安全資産」と書いてしまう例が日本経済新聞などの経済メディアで当たり前に見られる。しかし「低リターン高リスク」の「安全資産」などあるのだろうか。

定義次第ではあるが「高リスク」の「安全資産」には矛盾を感じる。金に関する記事の書き手は思考停止に陥らず、金が「安全資産」かどうかを考えてほしい。

答えは明らかだと思うが…。


※今回取り上げた特集「どうなる? 景気・市場 どうする? 投資 投信・ETF全ガイド
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29606


※特集の評価はB(優れている)。小栗正嗣編集委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Bへ引き上げる。竹田孝洋編集委員と山本輝記者への評価はDからCへ引き上げる。


※小栗正嗣編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンド「行動遺伝学」特集に見える矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_12.html

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