2020年3月23日月曜日

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」

23日の日本経済新聞朝刊1面で「コロナ危機との戦い」という連載が始まった。「(1) 分断より協調 今こそ」という記事の筆者は「本社コメンテーター」の秋田浩之氏。やはりと言うべきか完成度は高くない。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。ウイルスとの戦いを制し、経済・金融市場の動揺を防ぐ手立てが求められている。出口のみえない危機に世界はどう立ち向かうべきか。

主要7カ国(G7)首脳が今月16日、テレビ会議を開き、日中韓の外相も20日、テレビで対応を話し合った。日ごろ、関係がぎくしゃくしがちな米欧や日韓だが、いずれの会議も雰囲気は前向きだったという。

主要国の政治指導者に求められるのは、感染防止や医療の活動に一丸となって取り組む決意を、世界に強く発信し続けることだ。当たり前の話だが、いま、いちばん欠けていることである。

世界は疫病の脅威に震えている。政治指導者の連帯が病に苦しむ人々や医療の現場で葛藤する人々を勇気づける。そうしたエネルギーが戦いの克服に絶対欠かせない。

ところが、悲しいことに、目に付くのは国際政治の醜さだ。米国は中国の現場がウイルス発生を隠蔽し、世界の対応が約2カ月遅れたと怒る。中国はいち早く感染を抑え込んだ自分たちこそ世界の模範と宣伝する

中国の初動が遅れ、感染が広がったのは事実だ。だが、共産党政権は「中国は強力に感染を抑えた。民主主義モデルより共産党統治が優れている証拠だ」と体制論争をしかける兆しもある。

米中は危機対応で協力すべきなのに、これでは本格的な新冷戦のトンネルに入ってしまう。そんな争いに油を注ごうとする動きすらある。


◎なぜ一方だけに目を向ける?

悲しいことに、目に付くのは国際政治の醜さだ」と秋田氏は米中対立に目を向ける。しかし、その前に「日ごろ、関係がぎくしゃくしがちな米欧や日韓だが、いずれの会議も雰囲気は前向きだったという」とも書いている。「醜さ」があるとしても、一方で危機に際しての連帯の動きも見えているのではないか。なのになぜ「悲しいことに、目に付くのは国際政治の醜さだ」となってしまうのか。

しかも米中の話も苦しい。「中国の初動が遅れ、感染が広がったのは事実」との前提に立てば「中国の現場がウイルス発生を隠蔽し、世界の対応が約2カ月遅れた」との「米国」の「怒り」はもっともだ。「醜さ」は感じられない。

中国はいち早く感染を抑え込んだ自分たちこそ世界の模範と宣伝する」のも自慢の類ではあるが「醜さ」の例とするのは酷だ。

記事の終盤も引っかかった。

【日経の記事】

欧州連合(EU)の結束もむしばまれている。世界で最多の死者を数えるイタリアはEU本部を通じ、数週間も前から医療支援を仰いでいた。だが、各国の反応は鈍い。

代わりに中国が先週、第3弾となる医療チーム、数百人をイタリア入りさせた。現地では「EUはイタリアを見捨てた」との批判が聞かれる。EU加盟をめざすセルビアのブチッチ大統領もEUに強い失望を表明し、中国に助けを求めた。

主要国も危機の最中にあり、他国に手を差し伸べる余裕を欠く。だとしても、少なくとも、できることは2つある。

第1に、G7やEUなどを中心に首脳、閣僚のテレビ会議を定期的に開き、感染や対策をめぐる情報を密に共有し、次の措置に役立てる。入国制限などが行きすぎないよう、互いに調整する。

第2に、イタリアなど状況が深刻な国々や、感染が広がりかねないアフリカ、中東にどのような支援ができるか協議し、手分けして進める

危機はいずれ終わる。試練を経た世界は連帯を強めているのか、それとも分断が深まっているか。政治指導者の行動がその行方を決める。



◎なぜ中国は蚊帳の外?

中国が先週、第3弾となる医療チーム、数百人をイタリア入りさせた」などと書いた後で「主要国も危機の最中にあり、他国に手を差し伸べる余裕を欠く」と秋田氏は言い切る。記事から判断すると「中国」には「他国に手を差し伸べる余裕」がありそうだ。

中国嫌いの傾向がある秋田氏にとって「中国」は「主要国」ではないのかもしれないが、常識的に考えれば明らかな「主要国」だ。

できることは2つある」として「G7やEUなどを中心に首脳、閣僚のテレビ会議を定期的に開き、感染や対策をめぐる情報を密に共有し、次の措置に役立てる」と秋田氏は提案している。ここでもやはり「中国」は蚊帳の外だ。危機に際して、それでいいのか。

第2に、イタリアなど状況が深刻な国々や、感染が広がりかねないアフリカ、中東にどのような支援ができるか協議し、手分けして進める」との提案にも説得力に欠ける。秋田氏の見方では「主要国も危機の最中にあり、他国に手を差し伸べる余裕を欠く」はずだ。なのにどうやって「他国」を「支援」していくのか。

付け加えると「イタリアなど状況が深刻な国々や、感染が広がりかねないアフリカ、中東」という説明も引っかかる。「中東」では「感染」がまだ広がっていないとの前提を感じるからだ。秋田氏はイランの感染状況を知らないのか。それともイランは「中東」に入らないと思い込んでいるのか。


※今回取り上げた記事「コロナ危機との戦い(1) 分断より協調 今こそ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200323&ng=DGKKZO57086440T20C20A3MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

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