2020年1月7日火曜日

「ROE神話」に説得力欠く日経1面連載「逆境の資本主義」

日本経済新聞朝刊の正月連載「逆境の資本主義」は全体として見れば悪くない。正月企画にありがちなエピソード至上主義ではないし、作り手の問題意識も伝わってくる。ただ、7日の「(6)揺らぐ企業のROE神話 その利益に大義はあるか」という記事は説得力に欠けた。

三井中央高校(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です
冒頭の事例から「ROE神話」の存在を読み取れるか見ていこう。

【日経の記事】

「目標としていた3億ドル(約330億円)を上回るコスト削減を達成しました」。設備の老朽化から大規模な山火事と大停電を繰り返した米カリフォルニア州の電力・ガス大手、PG&E。それなのに、2017年の年次報告書には誇らしげにこう書いてあった。

コスト削減の効果でROE(株主資本利益率)は17年に一時10%を超えた。だが、地球温暖化で森林地帯の乾燥が進むなか、電線の更新など安全維持に必要な投資を怠ったツケは巨額の損失となって跳ね返った。同社は損害賠償などで300億ドル超の債務を抱える可能性があるとして経営破綻し、再建途上にある。

「ROE神話」の暴走が根底にある。「株主のための利益追求」が資本主義における企業の責務だと米経済学者ミルトン・フリードマンは62年の著書「資本主義と自由」で主張した。この考えが米国などで広がり、株主のためにいかに稼いだかを示すROEが重視されるようになった。

ROEを高めるには研究開発や設備投資によって利益を増やしていくのが王道。だが、経営者はROEが下がれば株主からの退任圧力にさらされかねない。資金を自社株買いに回し、資本を減らしてROEを力ずくで押し上げるという危うい選択に走りがちだ。そうなれば、将来の成長や安全、環境保護への投資は後回しになり、従業員への還元もおろそかになる。


◎「ROE神話の暴走が根底にある」?

『ROE神話』の暴走が根底にある」と言い切っているが「PG&E」が「ROE神話」に縛られていたと取れる記述は見当たらない。

コスト削減」を「誇らしげに」語っただけならば「ROE」重視かどうかも微妙だ。「『ROE神話』の暴走が根底にある」と訴えるのならば、とにかく「ROE」さえ高めれば全てが上手く行くと「PG&E」が信じていたことを示さないと苦しい。

行き過ぎた「コスト削減」によって短期的に利益を大きく見せようとしたのならば「利益至上主義」の方がしっくり来る。「ROE神話」をテーマにするならば「資金を自社株買いに回し、資本を減らしてROEを力ずくで押し上げる」手法を選んで破滅した事例を持ってくるべきだ。

そこは取材班も分かっているとは思う。適当な事例が見つからなかったので「PG&E」の話を使ったのだろう。だが、それでは記事に説得力が出ない。そこが惜しい。


※今回取り上げた記事「逆境の資本主義(6)揺らぐ企業のROE神話~その利益に大義はあるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200107&ng=DGKKZO53991670Q9A231C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)

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