世界で供給過剰」という記事にはいくつか引っかかる点があった。まず「高炉休止」なのかという問題だ。最初の段落では以下のように書いている。
姪浜港(福岡市)に停泊中のフラワーのこ ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
日本製鉄は呉製鉄所(広島県呉市)に現在2基ある高炉(総合2面きょうのことば)を休止する方針を固めた。国内の生産能力を1割削減する。同製鉄所は鋼板製造ラインも含めた将来の全面閉鎖も検討する。鉄鋼業界は保護主義の広がりと中国企業の大増産で市況が悪化し、日本勢のアジア向け輸出の競争も激しい。世界的に生産能力は過剰で、競争力の低い製鉄所の淘汰が広がる可能性がある。(関連記事企業2面に)
◎「廃止」の方が…
「休止」とは「仕事・活動などを、一時休むこと。また、動きが止まること」(デジタル大辞泉)という意味なので、「高炉休止」と聞くと「廃炉ではない」との印象を受ける。しかし記事では「生産能力を1割削減」「(製鉄所の)全面閉鎖も検討」などと書いている。ここから判断すると廃炉となるのだろう。だとしたら「高炉廃止」の方がしっくり来る。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
世界鉄鋼協会によると、2019年の世界の粗鋼生産量は18億6990万トン。経済協力開発機構(OECD)の推計では18年時点の世界の鉄鋼業の生産能力はこれを約4億トン上回る。日本の粗鋼生産量の4倍の過剰能力を世界で抱えている計算だ。日本国内も約3割の過剰能力を抱える。
◎なぜ背景説明を前に?
第2段落でいきなり背景説明に移る。最近の日経の記事でよく見るパターンだ。ニュース記事の作り方の原則に反しているし、個人的にも好みではない。しかも、記事の終盤で再び背景説明が出てくる。最後にひとまとめにした方がいい。
次は第3段落だ。
【日経の記事】
日鉄は2月7日にも呉製鉄所の高炉休止を発表する。数年以内に実施する。同製鉄所の粗鋼生産量は19年3月期で273万トン。生産能力はグループ全体の7%に相当する。呉の高炉は1基を残し能力を増強する計画だったが2基とも休止する方針に転換した。北九州市の1基も21年3月末の休止を決めており、グループの国内の生産能力は現在の5400万トンから1割程度減る見通しだ。
◎ちょっと話が…
「呉製鉄所(広島県呉市)に現在2基ある高炉」はどちらもこれまで「休止」が決まっていなかった。そして「2基」の「休止」によって「生産能力」が「1割削減」になる--。最初の段落を読んだ時はそう理解した。
しかし、第3段落で話が変わってくる。「呉の高炉は1基を残し能力を増強する計画だったが2基とも休止する方針に転換した」らしい。今回は「1基」の「休止」が新たに決まっただけだ。しかも「北九州市の1基」も合わせての「1割削減」らしい。
最初の段落では話を大きく見せたのだろう。1面トップなので気持ちは分かるが、お薦めしない。
さらに続きを見ていく。
【日経の記事】
呉製鉄所は子会社の日鉄日新製鋼が運営し、自動車の高機能鋼板などを製造する。規模がグループ内の他の製鉄所と比べ小さく、製鉄所全体の閉鎖も検討する。
◎何が残る?
「現在2基ある高炉」を「休止」しても「製鉄所全体の閉鎖」とはならず「鋼板製造ライン」が残る可能性があるのだろう。しかし「高炉」がないのにどうやって「鋼板製造」が可能なのかよく分からない。加工工程を残すのであれば、そう書いてほしい。
ここからは最後の2段落を見ていく。
【日経の記事】
閉鎖の場合、1000人程度いる従業員は配置転換を含め検討するもようで、協力会社を含めた3000人以上の雇用に影響する可能性がある。高炉のある製鉄所を全面閉鎖すれば日鉄グループの創業以来、初めてとみられる。
鉄鋼業界の経営環境は急速に悪化している。米国が鋼材への輸入関税を引き上げ、米国に向かっていた製品がアジアや欧州でだぶついた。最大の生産国である中国は、政府の景気刺激策で過去最高のペースで鉄の増産を続ける。鉄鉱石など原材料価格は高止まりする一方、市況の低迷が続く二重苦に直面している。欧州では経営破綻も起きた。
◎なぜ「みられる」?
「高炉のある製鉄所を全面閉鎖すれば日鉄グループの創業以来、初めてとみられる」と「みられる」を付けているのが引っかかった。「創業以来、初めて」かどうか確認できなかったのか。簡単に確認できそうな話だと思えるが…。
※今回取り上げた記事「日本製鉄、呉の高炉休止~生産能力1割削減
世界で供給過剰」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200131&ng=DGKKZO55071770R30C20A1MM8000
※記事の評価はC(平均的)
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