2019年11月7日木曜日

相変わらず説明に無理があるデービッド・アトキンソン氏の記事

小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏はやはり書き手として問題が多い。東洋経済オンラインに11月6日付で書いた「『県別の最低賃金』はどう見ても矛盾だらけだ~『全国一律の最低賃金』は十分検討に値する」という記事も粗が目立つ。

全てを取り上げると長くなるので、代表的なものを1つ。
福岡市・姪浜から見た博多湾
    ※写真と本文は無関係です

【東洋経済オンラインの記事】

経営者は自社の商品やサービスの価格を決めるにあたって、コストをベースに考えます。一般的な企業の場合、最大のコストは人件費です。ですので、仮に労働者のコストが下がれば、商品の価格を下げることができます。

逆に、人件費が上がった場合、その分を吸収するためにとれる方法は、生産性を向上させるか、利益を減少させるか、単価の引き上げしかありません。海外では、最低賃金を引き上げた際には、この3つの方法を組み合わせて対応した例が多いようです。


◎「吸収」になってる?

人件費が上がった場合、その分を吸収する」とはどういうことだろうか。常識的に考えて「人件費が上がっても利益が減らないようにする」という意味だとしよう。

とれる方法は、生産性を向上させるか、利益を減少させるか、単価の引き上げしかありません」とアトキンソン氏は言う。しかし「利益を減少させる」のでは「吸収」できていない。

生産性」も具体的に何を指すのか明確ではないが、記事中の他のところに出てくる「1企業当たりの付加価値」だとしよう。そして「付加価値税引後純利益+支払利息+手形割引料+賃借料+人件費+租税公課」と定義する。

この場合、販売数量など他の条件は変わらない前提で「単価の引き上げ」に踏み切ると「税引後純利益」が増えて「付加価値」が高まり「生産性」が伸びてしまう。

生産性を向上させる」ことを手段の1つとして挙げるならば、「単価の引き上げ」を別個に持ち出す必要はない。含まれている。

ゆえに、「人件費が上がった場合、その分を吸収する」手段としてアトキンソン氏が挙げた「3つの方法」のうち2つは消える。では「生産性を向上させる」以外に人件費増加を「吸収する」手段はないのか。あると思える。

例えば「賃借料」を減らす方法だ。交渉によってオフィスの賃料を減額できたとしよう。「賃借料」は減るが、その分は「税引後純利益」などが増えるので「付加価値」には影響しない。つまり「生産性を向上させる」効果はない。一方で増益要因なので「人件費」の増加分を「吸収」できる可能性が出てくる。

あれこれ述べてきたが、要は「アトキンソン氏の説明は問題だらけ」と言うことだ。


※今回取り上げた記事「『県別の最低賃金』はどう見ても矛盾だらけだ~『全国一律の最低賃金』は十分検討に値する
https://toyokeizai.net/articles/-/311887


※記事の評価はD(問題あり)。デービッド・アトキンソン氏への評価もDを据え置く。アトキンソン氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


D・アトキンソン氏の「最低賃金引き上げ論」に欠けている要素
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/d.html

改めて感じたアトキンソン氏「最低賃金引き上げ論」の苦しさ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_10.html

日経でも雑な「最低賃金引上げ論」を披露するアトキンソン氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_11.html

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