グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です |
【日経ビジネスの記事】
この数年で一気に膨らんだ「EV(電気自動車)バブル」がはじけつつある。英ダイソンはEVの開発を取りやめ、中国でも補助金削減により販売台数に急ブレーキがかかっている。長期的にはEVが次世代環境車の本命となる可能性は高いが、本格普及を前に淘汰の波が到来している。
「商業的に軌道に乗せることは不可能だった。自動車のプロジェクトは中止すると判断した」。ダイソンは10月10日、2020年までの投入を目指していたEVの開発プロジェクトを取りやめると発表した。創業者ジェームズ・ダイソン氏の声明が示す通り、開発費用がかさんだことに加え、買い手を見付けることができずに事業の継続が難しくなっていた。
自動車大手による本格参入が始まる19年はもともと、「EV元年」とも言われてきた。現実はその逆で、「EVバブル」がはじけつつある。要因の一つは補助金頼みの構図だ。世界最大の中国市場の失速がその事実を物語っている。
中国自動車工業協会が10月14日に発表した9月の新車販売統計。EVやPHV(プラグインハイブリッド車)など「NEV(新エネルギー車)」の販売は前年同月比34.2%減の約8万台となった。減少は3カ月連続で、その幅も8月の同15.8%減から拡大した。
◎そもそも「バブル」なの?
「バブル」とは「泡沫的な投機現象。株や土地などの資産価格が、経済の基礎条件から想定される適正価格を大幅に上回る状況をさす」(大辞林)とすると、「EVバブル」であれば「EV」の大幅な価格上昇が起きていてほしいところだが、大西記者は販売台数で「バブル」かどうかを判断しているようだ。
そこは取りあえず受け入れてみよう。ただ「EVバブル」と言うならば「経済の基礎条件から想定される」水準を大幅に上回っているという状況は要る。記事にはそもそも販売台数の急激な増加を示すデータが見当たらない。これで「EVバブル」と言われても説得力はない。
「『EVバブル』がはじけつつある」とする根拠も弱い。「世界最大の中国市場の失速」を見せるのはいいが、「世界」全体の数字はない。「中国」に関しても「EVやPHV(プラグインハイブリッド車)など『NEV(新エネルギー車)』の販売」状況を説明しているだけだ。これだと「PHV」が大きく減れば「EV」が伸びていても「NEV」の販売台数は落ち込んでしまう。
記事では以下のような説明も出てくる。
【日経ビジネスの記事】
調査会社の富士経済(東京・中央)によると、35年のEVの世界販売台数は2202万台となりHV(ハイブリッド車)の同785万台を大幅に上回る見通し。次世代環境車の本命となることが確実視されている。
◎だったら「バブル」じゃないような…
「EV」は「次世代環境車の本命となることが確実視されている」のであれば、販売台数が急激に伸びても「バブル」とは考えにくいし、市場拡大に多少ブレーキがかかったとしても「バブルがはじけつつある」訳ではない。
記事に付けたグラフでは「EV」の販売が「35年」にかけて大幅に伸びるとの予測を示している。そして「EVの本格普及まで数年かかる見通し」というタイトルも付けている。だとしたら足元で勢いを失っているとしても「EVバブル崩壊か」と考える必要はない。単なる踊り場だ。
「違う。EVバブルは崩壊寸前だ」と大西記者が考えているのならば、「富士経済」の予測には懐疑的になるべきだ。「次世代環境車の本命となることが確実」なのかどうかも疑ってみるべきだろう。
「バブル」という言葉を使いたくなる気持ちは分かる。記事にインパクトを持たせるには便利な言葉だ。しかし、安易に使うと記事の説得力がなくなってしまう。大西記者にはその怖さも理解してほしい。
※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY~ダイソン撤退、中国で販売急減 EVバブル崩壊か」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00379/?P=1
※記事の評価はD(問題あり)。大西綾記者への評価も暫定でDとする。「バブル」の使い方に関しては以下の投稿も参照してほしい。
大げさ過ぎる? 日経ビジネス特集「中国発 EVバブル崩壊」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/ev.html
マンションバブル崩壊を「最悪」と日経ビジネス奥平力記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_5.html
「バブル再来! 不動産投資」に根拠欠く週刊ダイヤモンド大根田康介記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_13.html
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