2019年6月1日土曜日

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点

日本経済新聞の中村直文編集委員の書く記事は相変わらず問題が多い。今回は、31日の朝刊企業2面に載った「ヒットのクスリ~サントリーのVチューバー デジタル発信 若者へ密に」という記事を取り上げたい。
長崎湾(長崎市)※写真と本文は無関係です

冒頭部分から見ていこう。

【日経の記事】

NHK朝ドラの舞台となった企業の情報発信力は高い。日清食品ホールディングス(HD)とサントリーHDだ。日清食品HDは「まんぷく」、サントリーHDは「マッサン」で、ドラマでも宣伝のうまさが際だった



◎朝ドラでどう「宣伝」した?

NHK朝ドラ」でも「サントリーHD」と「日清食品HD」は「宣伝のうまさが際だった」らしい。しかし、どうやって「宣伝」したのか謎だ。「朝ドラ」は「NHK」が製作しているので「サントリーHD」や「日清食品HD」が内容に介入して「宣伝」に使うのは難しそうな気がする。

NHK」が実は「サントリーHD」や「日清食品HD」に操られているといった事情があるのだろうか。だとしたら、そこは触れてほしい。「ドラマでも宣伝のうまさが際だった」と書いているのだから、「ドラマ」の内容に介入していないと話が成立しにくい。

ついでに言うと「際だった」は「際立った」と表記してほしい。「際だった」だと「際であった」との意味にも取れるので面倒だ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

それはネット社会になっても変わらない。サントリーHDの場合、ついに専属の"アイドル"まで育成した。バーチャルユーチューバーの「燦鳥(さんとり)ノム」だ。デビューから9カ月。ユーチューブでのチャンネル登録数は約9万人で、総再生回数は約750万回に及ぶ。トークしたり、歌ったりするコンテンツを50本用意し、定期的に更新している。

同時に企業のデジタルキャラながら、ネット番組の出演を果たし、4月末のニコニコ超会議では音楽イベントに出演した。サントリーHDはさながら「デジタル芸能事務所」に変身した感じだ。

燦鳥ノムは積極的に商品を売り込むわけではない。炭酸飲料を飲んで「口の中がシュワシュワする」とつぶやくぐらい。ネットのファンは「もっと宣伝すれば」と逆にやきもきするぐらいだが、強い企業色を嫌がる顧客に配慮した。

「これまでとにかく広告を見てもらおうと必死だったが、燦鳥ノムが誕生してからは顧客が勝手に検索してくれる」。サントリーコミュニケーションズ宣伝部の馬場直也デジタルグループ課長はこう話す。昭和のアイドルはあこがれの存在で、平成は会いに行けるアイドル。そして令和はいつでもどこでも検索できるアイドルというわけだ。


◎平成も「検索」できたのでは?

平成は会いに行けるアイドル。そして令和はいつでもどこでも検索できるアイドル」という説明が引っかかる。SNSなどをやっている「アイドル」は「平成」にもたくさんいた。「いつでもどこでも検索できるアイドル」に新規性はない。これを「令和」の「アイドル」の特徴だと捉えるのは無理がある。

燦鳥ノム」の効果に触れていないのも引っかかる。「ユーチューブでのチャンネル登録数は約9万人で、総再生回数は約750万回に及ぶ」とは書いているが、販売面でどうプラスに働いているのかは不明だ。動画がどれだけ「再生」されても、売り上げに結び付かなければ、あまり意味がない。

炭酸飲料を飲んで『口の中がシュワシュワする』とつぶやくぐらい」のことで劇的に売り上げが伸びるのならば「宣伝のうまさ」は「ネット社会になっても変わらない」と言うのも分かるが…。

付け加えると「ネット社会になっても変わらない」とつなぐならば「まんぷく」や「マッサン」は「ネット社会」になる以前の放送でないと苦しい。

記事の続きをさらに見ていく。

【日経の記事】

「店頭販売は地上戦、テレビCMは空中戦、そしてネットはサイバー戦」。日清は宣伝を軍事戦略に見立て、きめ細かく顧客に接近する。同社のマーケティングKPIはツイッターで1万リツイート、動画再生回数100万回以上、CM好感度ランキング3位以内だ。



◎いきなり「マーケティングKPI」?

いきなり「マーケティングKPI」と書いているのは明らかにダメだ。読者への不親切が過ぎる。
大分県の由布岳※写真と本文は無関係です

さらに言えば、「マーケティングKPIはツイッターで1万リツイート、動画再生回数100万回以上、CM好感度ランキング3位以内」だとしても、それを実現できているかどうかが重要だ。しかし中村編集委員は何も教えてくれない。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

若者に弱いチキンラーメンをどう活性化するか」。チキンラーメンの顧客層は50代以上が50%近くを占め、29歳以下は10%未満に低下する。ネットで消費行動を探ると「キムチを載せて食べるとおいしい」との情報をキャッチした。

そこで愛らしいキャラクターのヒヨコがキムチのせラーメンを食べると、恐ろしい魔神に変身するCMをテレビとネットで放映。朝ドラ効果に加え、このマーケ戦略が奏功し、2018年にチキンラーメンは60周年にして過去最高の売り上げをたたき出した。



◎「若者」には強くなった?

上記のくだりも肝心な情報がない。「若者に弱いチキンラーメンをどう活性化するか」がテーマなのだから、「29歳以下は10%未満に低下する」状況を変えられたかどうかが問題だ。しかし「過去最高の売り上げをたたき出した」としか書いていない。「過去最高の売り上げ」は「50代以上」の比率がさらに高まる中でも実現できる。

記事の終盤にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

ちなみに日清もVチューバーをCMタレントに起用。専属のサントリーと違い、その世界では有名な輝夜月(かぐや・るな)とキズナアイだ。デジタルアイドルが本物のアイドルの仕事を奪う時代の到来か。

少子高齢化でも次の世代の顧客は若者。モノを売るだけでなく、デジタル世界でのコミュニケーションが緊密にならないと、ブランド自体が劣化する。それは即席ではつくれない世界だ。



◎今度は「Vチューバー」?

サントリー」に関しては「バーチャルユーチューバー」と呼んでいたのに「日清」では「Vチューバー」になっている。そして見出しは「サントリーのVチューバー」。呼び方は統一した方がいい。「Vチューバー」で統一して初出で用語解説するのが好ましい気がする。初出を「バーチャルユーチューバー(Vチューバー)」とする手もある。

今回のように完成度の低い記事を読者に届けてしまうのは、第一には中村編集委員の責任だが、記事をチェックした企業報道部デスクにも問題がある。問題に気付けないのか、気付いていても中村編集委員に遠慮してしまうのか。どちらにしてもデスクとして機能していない。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~サントリーのVチューバー デジタル発信 若者へ密に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190531&ng=DGKKZO45312740X20C19A5TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

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