タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
経済学の教科書を繙(ひもと)くと、りんごとみかんの話が出てくることがある。りんごとみかんのどちらが好きか、と訊(き)かれても「りんご」「みかん」とは答えられない。
りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる。だから答えは、「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」などとなる。
◎「どちらが好きか」答えられるような…
まず「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」とは限らない。「りんご」は大好きだが「みかん」は受け付けないという人もいるだろう。この場合「どちらが好きか」は明らかだ。
「りんご」と「みかん」の1個当たりの量は同じとの前提で「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」という場合はどうか。「同じくらい好き」がやや解釈に迷うが、ここでは「りんごを1個食べた今の段階で、りんご1個とみかん2個が同じ価値に感じる」とする。これも明らかに「りんご」の方が「好き」なはずだ。「りんごを1個食べた」後でも、次の「りんご1個」の価値と釣り合うためには「みかん2個」が必要なのだから。
ここまではまだいい。問題は次だ。
【日経の記事】
りんごとみかんならそれでよい。しかし、この話を社会生活に安易に応用してはならない。極端な(しかし、よくある)例は「りんご=恋人(や子ども)」「みかん=仕事」と置き換えてしまうものだ。相手に「私と仕事、どっちが大事なの?」と訊かれたとしよう。こんなとき、間違っても、「君との1時間は、仕事の2時間と同じくらい大事だよ」などと答えてはいけない。相手も経済学徒でない限り、そんな論理は通用しない(そして、その質問を発した時点で、相手は間違いなく経済学徒ではない)。
◎そもそも枠組みが…
「りんご」と「みかん」の話は、食べ物の中で同じものばかり食べると飽きるので、その状況によって価値が変わるという例だと思える。しかし「『りんご=恋人(や子ども)』『みかん=仕事』と置き換えてしまう」と話が違ってくる。
中には「恋人」とずっといると「仕事」がしたくなるという人もいるかもしれない。しかし、一般的に言えば、「仕事」を優先するのは「恋人」と一緒にいると飽きるからではない場合が多い。
「安易に応用してはならない」のはその通りだが、「相手も経済学徒」であっても、この「応用」には無理がある。「社会生活」に当てはめるならば「恋人」と「同性の友人」の組み合わせなどか。
続きも見ておこう。
【日経の記事】
そもそもこれは質問ではない。質問文の体裁を採った不満の表明なのだ。ネットでよくある模範解答に、「そんな質問をさせてごめんな」というものがあるが、これも「ちゃんと答えろ」と切れられる可能性もある。「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という答えもあるらしいが、「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という答えと五十歩百歩だ。要はこの質問は、された時点でアウトなのだ。
経済学は人間の行動に様々な論理的知見を与えてくれるが、生兵法は怪我(けが)のもと。論理言語と日常言語は違うのだ。経済学徒はこのことをゆめ忘れてはならない。
◎「五十歩百歩」になる?
「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」は「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」と言えるのか。
既に述べたが「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」といった関係は「恋人」と「仕事」に置き換えると成り立たない場合が多い。
「仕事」で早く一人前にならないと「恋人」との結婚もできないという状況であれば「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」には説得力がある程度ある。「恋人」に飽きないために「仕事」をしている訳ではない。
「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」とは全く異質だ。例えば、敵が攻めてきたから男性兵士が戦争に参加するとしよう。その時に「私と戦争(兵役)、どっちが大事なの?」と「恋人」に聞かれて「君のことが大事だから君を守るために戦争に参加するんだよ」と返すのも「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」だと松井氏は考えるのだろうか。
「論理言語と日常言語は違うのだ」と言うが、松井氏の話は「論理」がきちんと成り立っているのか疑問だ。
※今回取り上げた記事「あすへの話題~私と仕事、どっちが大事?」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190620&ng=DGKKZO45934950R10C19A6MM0000
※記事の評価はD(問題あり)。松井彰彦氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。
東大「ネコ文二」に関する経済学者 松井彰彦氏の解説に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_31.html
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