2019年6月18日火曜日

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」

日本経済新聞の芹川洋一 論説フェローが17日朝刊オピニオン面に書いた「核心~自民は本当に強いのか 楽観できない『投票力』」という記事には、独自の分析をしようという工夫が見える。そこは評価するが、工夫が成功しているとは言い難い。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

 芹川論説フェローは「相対的投票力の手法」を用いて「安倍自民党は盤石」という一般的な見方に疑問を挟もうとしている。ただ、その試みは成功していない。

記事の後半部分を見た上でその理由を述べたい。

【日経の記事】

ひるがえって日本はどうか。相対的投票力の手法を借用し、その応用編を考えてみた。日本の場合、人種別はないので年齢別だけだ。

年代別有権者は、総務省の国勢調査による推計人口で17年現在の数。投票率は、総務省の外郭団体である「明るい選挙推進協会」が調べた16年参院選の年代別のデータだ。

調査時点にずれがあるが、傾向を調べたものと理解してもらいたい。18~19歳の部分が欠落しているのは適当なデータがないためで、お許しいただきたい。

年代別の有権者構成比と投票率をかけ合わせ、それを「投票力指数」とする。それをもとに相対的投票力を計算してみる。

20代を1とすると、30代は1.5だが、40代と50代は2.2になり、60代は2.8、70代以上は3.5と投票力は圧倒的だ。

高齢になるほど有権者数が多いうえに投票率も高いからおのずとそうした結果になってしまう。投票率は20代が35%なのに対し、60代は70%と倍だ。シニア層の政治的な影響力が大きくなるシルバー民主主義がいわれるゆえんだ。

実際の選挙は、有権者がどこに票を投じるかによって決まる。そこで用いたのが日本経済新聞社が19年5月に実施した世論調査の「投票をしたい政党」のデータである。

与党(自公)と野党(それ以外)で、それぞれの回答率の和に年代別の投票力指数をかけあわせ「実効的投票力」をはじきだしてみた。

20代は与党が2.1で、野党の0.8を圧倒する。50代までは与党に野党の倍以上の投票力がある。ところが60代は与党5.2、野党4.4と肉薄し、70歳以上も与党6.1、野党4.5とけっこう近づいてくる

60代では「まだ決めていない」との回答者が15%いる。この層の内閣不支持の割合は支持を大きく上回る。もし不支持者が野党に投票すれば与野党はほぼ並ぶ。シニア層の実効的投票力をみる限り野党は決してあなどれない

安倍首相は周辺に「この人たちを変えるのはむずかしい。人生の不満が政権に向いている。むしろ未来があって支持の高い若い人たちのボリュームをあげていきたい」と漏らしているらしい。

自民党の選挙対策はいかにして若い人に選挙に行ってもらうかだ。

逆もある。その昔「無党派は寝ていてほしい」と、非自民が多い無党派層は投票に出てこないでと本当のことを言って批判を浴びた首相がいた。それにならえば今は「老人は寝ていてほしい」ということになるのだろうか。

ところがどっこい、団塊の世代を中心にアクティブ・シニアの何と多いことか。自民党はたかをくくっていると痛い目にあう

◇   ◇   ◇

記事に出てくる数字は「与党が圧倒的に強い」と示しているようにしか見えない。「20代」から「70歳以上」まで全ての年代で「実効的投票力」では「与党」が優勢だ。「60代は与党5.2、野党4.4と肉薄」と書いているが「肉薄」というほど接近していない。

不支持者が野党に投票すれば」という条件付きで「60代」だけ「与野党はほぼ並ぶ」。「政治的な影響力」が年代別で最も大きい「70歳以上」でも与党優位は揺らがない。

「条件付きで60代だけは互角の勝負ができるかも」という状況ならば、全体での勝負の行方は見えている。

自民党はたかをくくっていると痛い目にあう」かもしれないが、芹川論説フェローが持ち出した「実効的投票力」を見る限りでは「たかをくくって」よい状況にしか見えない。

「独自の分析によって一般に言われているのとは違う姿を見せたい」という出発点は問題ない。今回はその試みが失敗したのに、強引に「シニア層の実効的投票力をみる限り野党は決してあなどれない」と持って行ってしまったのだろう。

「期待していたほど野党の強さを数字で示せなかった」との思いを芹川論説フェローも抱いている気がする。そこで撤退や修正を図らず、当初の路線で突っ走ってしまったとすれば残念だ。


※今回取り上げた記事「核心~自民は本当に強いのか 楽観できない『投票力』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190617&ng=DGKKZO46115020U9A610C1TCR000


※記事の評価はC(平均的)。芹川洋一論説フェローへの評価はDを据え置くが強含みとする。芹川論説フェローに関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

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