2019年6月3日月曜日

水無田気流氏のマネーポスト批判に無理がある日経「ダイバーシティ進化論」

3日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~専業主婦の年金巡る記事に批判 女性分断 あおらないで」という記事で、詩人・社会学者の水無田気流氏が無理のある主張を展開している。記事を見ながら問題点を指摘したい。
長崎大学病院(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ウェブ雑誌「マネーポストWEB」の5月5日付の記事「働く女性の声を受け『無職の専業主婦』の年金半額案も検討される」がネット上で批判を浴びた。夫の厚生年金に加入し、年金保険料を支払わずに基礎年金をもらうことができる専業主婦、つまり「第3号被保険者」に関するものだ。

記事によると、共働きの妻や働く独身女性からの「保険料を負担せずに年金を受給するのは不公平」という不満が根強くあるため、政府は第3号被保険者の縮小を閣議決定し、厚生年金加入要件を緩和した。パート就業者らの加入が進めば「最後は純粋に無職の専業主婦が残る」わけだが、今後は「無職の妻」からも保険料を徴収する案などが浮上しているという。

これに対し、働く女性たちを中心に「勝手に私たちの声を代弁するな」とネット上で不審や怒りの声が挙がった。そもそも政府がパート就業者や専業主婦から保険料を徴収する検討を進めているのは財源不足が主要因であり、働く女性の要望によるものではない。仮にそうだとすれば、なぜ待機児童問題は一向に解消されず、家事育児サービス利用費の税制控除も導入されず、女性の平均給与は男性の約半分の水準のままなのか。依然、家事・育児・介護負担は女性に偏り、やむを得ず離職するケースも多いという社会の構造的課題を無視した記事、との批判も目についた。



◎「働く女性の要望によるものではない」?

マネーポストWEB」の記事に対して「勝手に私たちの声を代弁するな」と「不審や怒りの声が挙がった」らしい。本当に記事では「勝手に私たちの声を代弁」したのだろうか。当該部分を見てみよう。

【マネーポストWEBの記事】

第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている。

◇   ◇   ◇

代弁」とは「本人に代わって意見・要求などを述べること」(デジタル大辞泉)だ。記事は「共稼ぎの妻や働く独身女性」の側に立って「国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する」ように求めている訳ではない。

不満が根強くあり」と書いているだけだ。「この不満に政府は応えるべきだ」などと記事で主張しているのならば「代弁」でいいだろうが、そういう作りにはなっていない。

『勝手に私たちの声を代弁するな』とネット上で不審や怒りの声が挙がった」としても、少し考えれば誤解に基づく「怒り」だと気付けるはずだ。しかし水無田氏はこうした「不審や怒りの声」に理解を示している。そこが躓きの始まりだ。

さらに「政府がパート就業者や専業主婦から保険料を徴収する検討を進めているのは財源不足が主要因であり、働く女性の要望によるものではない」と断定している。これも根拠に欠ける。

2014月7月12日付の「配偶者控除の見直し、『賛成』女性8割(Wの質問)」という記事で日経の武類祥子編集委員(当時)は以下のように記している。

【日経の記事】

税制以外の専業主婦世帯優遇策も、あわせて見直さないと効果はないとの意見も出た。

具体的には、国民年金の保険料を年収130万円未満のサラリーマンの妻は負担しなくてよい「第3号被保険者」制度についての批判が目立った。「第3号被保険者制度を廃止して、働くか、配偶者が自分と妻、あわせて2人分の年金保険料を払うかに変更したほうがよい」(30代女性)など、抜本的な見直し策を求める声が出た。

◇   ◇   ◇

この「30代女性」が専業主婦という可能性もゼロではないが、「第3号被保険者を縮小していく」ように求める「働く女性」が存在するのは確実だろう。しかし水無田氏は「働く女性の要望によるものではない」と言い切る。

「第3号被保険者を縮小していくように求める『働く女性』は確かにいるが、政府はそうした声に応えているわけではない。ただ財源を確保したいだけだ」という反論は考えられる。この可能性もゼロではない。ただ、そう言い切れる根拠を水無田氏は示していない。

仮にそうだとすれば、なぜ待機児童問題は一向に解消されず、家事育児サービス利用費の税制控除も導入されず、女性の平均給与は男性の約半分の水準のままなのか」とは書いている。

第3号被保険者の縮小」が「働く女性の要望によるもの」ならば、「待機児童問題」は「解消」に向かい「家事育児サービス利用費の税制控除」が「導入」され、「女性の平均給与」は「男性」と同水準になるはずだと水無田氏は考えているのだろう。

これは的外れな考えだ。例えば「国民の要望に応えたい」と願う政府があって、国民の要望は「第3号被保険者の縮小」、消費税廃止、財政赤字解消、GDP倍増の4つだとしよう。

このうち「第3号被保険者の縮小」だけが実現した場合、「国民の要望によるものではない」と断定してよいだろうか。政府が「できるだけ国民の要望に応えたい」と考えていたとしても、実現の難易度には差がある。要望に応えるのが正しい選択なのかという問題もある。

その辺りを無視した水無田氏の主張は根本的に間違っている。

政府の真意を確認していないのならば「働く女性の要望によるもの」かどうかの答えは「分からない」が妥当だ。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

記事は「働く女性VS無職の専業主婦」の対立をあおっているが、私見では典型的な女性の「分断統治」の目線である。現在は出産・育児で離職しても再就職する女性が多数派で、生涯専業主婦の女性はむしろまれだ。現実的とはいえない対立図式を前提に女性たちを恣意的に分断し「女の敵は女」の利害対立を敷衍(ふえん)する言説こそ「女性の最大の敵」といえる

批判に対して同誌は、5月21日付で「働く主婦と専業主婦を分断しているのは国(厚労省)である」との弁明記事を掲載した。素朴な疑問だが同誌の「主体」はどこにあるのか。「国のいうことをそのまま伝えただけ、悪いのは全部国ですよ」との姿勢は、ジャーナリズムとしても大いに疑問である。

言説への責任感こそが、マスメディアへの信頼の源泉ではないのか。ダイバーシティ推進のためにもそろそろ「女の敵は女」というような不毛な議論はやめにしてほしい。



◎「対立をあおっている」?

5月5日付の記事」を水無田氏はきちんと読んだのか。「『働く女性VS無職の専業主婦』の対立をあおっている」とは思えない。政府の方針を解説した記事だ。既に述べたように「勝手に私たちの声を代弁するな」という批判自体が的外れだ。
震動の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係

さらに言えば「現実的とはいえない対立図式を前提に女性たちを恣意的に分断し『女の敵は女』の利害対立を敷衍(ふえん)する言説こそ『女性の最大の敵』といえる」との主張もおかしい。

現実的とはいえない対立図式を前提に」している「言説」ならば影響力は非常に弱いはずだ。なのになぜ「女性の最大の敵」になるのか。

それに「『女の敵は女』の利害対立を敷衍(ふえん)する言説」を展開するのが女性だった場合はどうなるのか。そうなると水無田氏はその女性を「女性の最大の敵」として批判するはずだ。その批判がさらに「女の敵は女」を証明することになり、「利害対立を敷衍(ふえん)する」結果になりそうだ。

その手の主張をするのが女性だった場合は沈黙を守り、男性だったら批判するという選択になるのだろうか。そうなるとご都合主義が過ぎる。どっちに行っても苦しそうな気がする。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~専業主婦の年金巡る記事に批判 女性分断 あおらないで
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190603&ng=DGKKZO45524590R30C19A5TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。水無田気流氏への評価もDを据え置く。水無田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経女性面「34歳までに2人出産を政府が推奨」は事実?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/34.html

日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_5.html

日経女性面で誤った認識を垂れ流す水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_30.html

「男女の二項対立」を散々煽ってきた水無田気流氏が変節?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_58.html

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