2019年4月23日火曜日

「男職場に5時まで編集長」の存在が怪しい日経「働くママ3.0」

23日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「働くママ3.0(1)男職場に『5時まで編集長』~『マミートラック』を超えて 夜型・長時間労働を変革」という記事は無理のある内容だった。「男職場に『5時まで編集長』」がまず怪しい。
筑後川沿いの桜(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

最初の段落では以下のように書いている。

【日経の記事】

働くママがバージョンアップしている。働き始めた1.0。家庭より仕事を優先する「バリキャリ」か、家庭を優先し昇進をあきらめる「マミートラック」で悩んだ2.0。今や働くことは当然で、ママを楽しみ、キャリアも大切にする3.0世代だ。女性誌VERY(光文社)初の女性編集長となった今尾朝子(47)もその1人。長時間労働や夜型勤務、社交も業務といった男職場に変革をもたらしている


◎文が不自然では?

まず「長時間労働や夜型勤務、社交も業務といった男職場に変革をもたらしている」という文が不自然だ。普通に解釈すると「長時間労働も夜型勤務も社交も全て業務に当たる男職場に変革をもたらしている」という意味か。しかし「長時間労働も業務」なのは当たり前というか、そういう言い方はしないというか…。

「『長時間労働』『夜型勤務』『社交も業務といった男職場』のそれぞれに変革をもたらしている」という解釈もできなくはない。しかし、それぞれが重なり過ぎている。

おそらく「長時間労働や夜型勤務は当たり前で社交も業務の一環とされる男職場に変革をもたらしている」と言いたかったのだだろう。だとすると舌足らずが過ぎる。

記事の言う通りならば「VERY」の編集部は「男職場」であり、「初の女性編集長となった今尾朝子」氏が職場に「変革をもたらしている」はずだ。しかし、記事からはその様子が浮かび上がってこない。

長くなるが、記事を最後まで見ていく。

【日経の記事】

出版不況で多くの雑誌が廃刊する中、主婦向け女性誌ではトップクラスの発行部数24万部(2018年10~12月、一般社団法人日本雑誌協会調べ)を誇る。

4年前、今尾が10カ月の産休・育休から戻った時は部で唯一のママ社員だった。「編集長の業務」とされる夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた

19年1月号の特集が反響を呼んだ。タイトルは「『きちんと家のことをやるなら、働いてもいいよ』と将来息子がパートナーに言わないために今からできること」。エッセイストの紫原明子がツイッターで取り上げると、2日間で1万リツイート。ウェブ記事へのアクセスは通常より2割増えた。

「君が働かなくても、僕の給料だけでやっていけるのに」「え、買ってきたの?今日、ご飯作れなかったの?」。特集誌面には、普段ママたちの神経を逆なでしているフレーズが躍った。

男女共同参画が叫ばれる中、夫の前時代的な意識や、社会に期待される妻の役割など、女性が日ごろ抱える葛藤。「働くママだけでなく、専業主婦や子供を持たない女性からも大きな共感を得た」。今尾は胸を張る。

フリーライターから中途採用された今尾は07年、35歳で女性初の編集長に抜てきされた。「スカートをはいているからといって女性のことを分かったつもりになるなよ」。就任直後、男性の先輩編集者からクギを刺された。「独りよがりな思い込みをせず、具体的な読者と向き合え」との助言と受け止めた。

1995年創刊のVERY。「シロガネーゼ」などの流行語を生んだように、かつての読者層は「裕福な専業主婦の奥様」。今尾は編集長に就任すると方針転換。「かっこいいママ」「働くママ」をターゲットにする。

編集長就任第1号の特集タイトルは「『カッコイイお母さん』は止まらない」。雑誌のコンセプトコピーも変えた。「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」。ここで言う基盤とは家族。家庭に「入った」ではなく、家庭を「築いた」からこそ、自分の意志で人生を切り開く女性の強さを表したかった。

起きている時間は常に雑誌のことを考えていた出産前に比べ、会社にいる時間は半減し「椅子に座る時間もない」。自宅に持ち帰っても時間が足りず、断念する仕事は多い。葛藤もあるが「家では子供が最優先。普通の生活を大切にしたい」。気負いのない本音が読者の共感を呼ぶ。

女性誌の敏腕編集長というと、強気で自信家のイメージが浮かぶが、今尾の自己評価は「子供の頃から本当に普通」。勉強でも部活動でも特別目立ったことはない。新卒で入った会社は3カ月で辞めてしまった。それだけに「すべてを器用に完璧にこなせるスーパーウーマンになれない。自分のような普通の女性は多いはず」と強く思う。

「雑誌に出てくるママたちは、キラキラし過ぎて見るのがつらい」との声は多い。今尾自身、家事代行やベビーシッターを活用すれば多くの悩みが解決することも分かっているが「誰もが軽やかにしなやかに生き方や考え方を変えられるわけではない」。

理想と現実のギャップ。先入観や価値観の揺らぎ。「女性の生き方は決して一様ではない。だからこそ、女性同士が共感し、協力し合える場でVERYはありたい」。今尾は前を見据える。

今尾の中にロールモデルや理想の上司は存在しない。今年の国際女性デーで話題になったキャッチコピーは「#わたしを勝手に決めないで」。多様化する女性の在り方を社会が受け入れていこうというメッセージだ。

限界を自分で決めず「こうあるべき」に縛られず。働くママは進化する。(敬称略)


◎色々とツッコミどころが…

記事には色々と疑問が浮かぶ。列挙してみる。

(1)「5時まで編集長」と言える?

定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた」という「今尾朝子」氏を「5時まで編集長」と呼べるだろうか。「5時半に退社」ならば「5時まで」の日はほぼない気がする。
菜の花と耳納連山(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です


(2)「男職場」なの?

VERY」の編集部は「男職場」のはずだ。こう呼ぶからには編集長以外のスタッフは男性でないと苦しい。しかし記事中にそれを確認できる記述はない。女性がそこそこいても「社交も業務」だったりすると「男職場」になると取材班は認識しているのか。だとすると一般的な「男職場」のイメージからは乖離している。


(3)「変革」ある?

今尾朝子」氏が「『編集長の業務』とされる夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた」のは分かる。しかし「男職場」をどう「変革」したのかは不明だ。

起きている時間は常に雑誌のことを考えていた出産前に比べ、会社にいる時間は半減」との記述から判断すると「VERY」の編集部は1日の労働時間が15時間を超えるような過酷な職場なのだろう。

そして編集長は「午後5時半に退社する生活」を続けている。残りの人たちはどうなったのか。「今尾朝子」氏が起こした「変革」で「夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活」ができるようになったのか。肝心なところが分からない。

記事には「自宅に持ち帰っても時間が足りず、断念する仕事は多い」との記述もある。だとしたら「5時まで編集長」とは名ばかりで、実際は長く働いている可能性もある。編集長自身に関しても「変革」ができているのか怪しい。

男職場」をどう「変革」したかに触れないで、雑誌の中身をあれこれ前向きに紹介されても困る。これでは「VERY」の記事型広告だ。

記事の最後には「松本和佳、河野俊、松原礼奈が担当します」と出ていた。初回の失敗をしっかり反省して2回目以降で立て直してほしい。


※今回取り上げた記事「働くママ3.0(1)男職場に『5時まで編集長』~『マミートラック』を超えて 夜型・長時間労働を変革
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190423&ng=DGKKZO44065530S9A420C1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。松本和佳記者、河野俊記者、松原礼奈記者への評価も暫定でDとする。

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