2019年2月4日月曜日

「リーダーは男性向き」を「バイアス」と 日経 女性面編集長は言うが…

女性活躍関連で「無意識の偏見」を取り上げると問題のある記事になりやすい--。その傾向が4日の日本経済新聞朝刊女性面の記事にも見られた。「『無意識の偏見』登用阻む まず認識、個別対応を 『女性は管理職向かない』『育児中きつい仕事は無理』… 」というメインの記事に付けた解説に関して、筆者の佐々木玲子女性面編集長に以下の内容で意見を送っている。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経に送った意見】

日本経済新聞社 女性面編集長 佐々木玲子様

4日の朝刊女性面に載った「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査」という記事について意見を述べてみます。記事で佐々木様は以下のように記しています。

<記事の引用>

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2018」によると日本の女性管理職比率は12.9%。米国は4割超、英仏は3割超と遅れが目立つ。

背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか。淑徳大学の野村浩子教授は大手25社の社員ら2527人に「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」を実施。「リーダーは男性向き」と思い込むバイアスがある可能性が浮かんだ。

社会のなかで「組織リーダー」「男性」「女性」に対して、どんな無意識の偏見があるかを探るため「責任感が強い」など同じ38項目を提示。各パターンで「望ましい特性」と思う度合いを尋ね、各項目の平均値を比べた。組織リーダーと男性は「望ましい特性」の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった。

ただ、同調査から企業のダイバーシティ推進の施策が偏見を低減する可能性も得られたという。数値目標設定などで計画的に女性管理職を育成する企業ほど社員の性別役割分業意識は低いと分かった。

全管理職必須のダイバーシティ研修の実施企業では女性社員のリーダー意欲が高い傾向もみられた。「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」(野村教授)

17年度からの科学研究費補助金を得た研究で18年にインターネット上で調査し役員も回答。川崎昌目白大学客員研究員が分析に協力した。

--引用は以上です。

まず「リーダーは男性向き」に関して「バイアス」と断定する根拠はあるのでしょうか。「リーダーは男性にしか務まらない」ならば「バイアス」でいいでしょう。しかし「リーダーに向いている人の割合は男性の方が多い」という意味での「リーダーは男性向き」であれば、「バイアス」に当たらない可能性は十分にあります。

リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」もその可能性を示唆しているのではありませんか。「組織リーダーと男性は『望ましい特性』の上位10項目の半数が重なった。女性は2項目のみでリーダーの望ましさとの乖離(かいり)が浮き彫りになった」と佐々木様は書いています。

だとすると、男性としての「望ましい特性」を追求すると男性は自然と「組織リーダー」としての「望ましい特性」を身に付けることになります。女性だとそれが難しいはずです。結果として「組織リーダー」としての「望ましい特性」を有している人が男性側に偏るのはあり得る話です。

「リーダーとしての適性に男女差はない」「むしろ女性の方が向いている」との可能性を完全に排除はしませんが、そこには何らかの統計的な根拠が必要です。また、リーダーとしての適性をどうやって測るかで結果は変わるはずです。

十分な根拠なしに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアス」と書けば、それ自体が「偏見」となります。そこは注意して記事を作ってください。

リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」の結果が「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」を浮かび上がらせているとも思えません。

例えば、Aさんは「組織リーダー」と「男性」に関しては「行動力がある」ことを「望ましい特性」と捉えるものの、女性にはそれを求めないとしましょう。ここでAさんに「『リーダーは男性向き』と思い込むバイアスがある可能性」が浮かび上がってくるでしょうか。

百歩譲って「リーダーは男性向き」との考えは「バイアス」だとしましょう。しかしAさんにその「バイアス」があるかどうかは何とも言えません。「男性には行動力を持っていてほしいけど、そんな男性はほとんどいない。一方、こちらが求めていないのに女性はみんな行動力がある。だからリーダーを任せられそうな人は女性ばかり」とAさんは考えているかもしれません。

バイアスがある可能性」はもちろんゼロではありません。しかし「リーダーシップの性差とジェンダー・バイアス調査」によって、「バイアスがある可能性が浮かんだ」とは言えないでしょう。

さらに百歩譲って「バイアスがある可能性が浮かんだ」としても「バイアス」を確認できた訳ではありません。だとすれば「(女性管理職比率の低さの)背景にはジェンダーに関する無意識の偏見があるのではないか」との問いに対する答えは「分からない」ではありませんか。

なのに記事では「まずは組織にあるジェンダーバイアスを可視化して課題を把握し、これらの取り組みを進めることが求められる」と「野村教授」に語らせています。「野村教授」自身が調査をしても「ジェンダーバイアスを可視化」できないのに、どうやって「組織にあるジェンダーバイアスを可視化」すればよいのでしょうか。

このあたりを改めてじっくり考えてみてください。私の意見は以上です。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「『リーダー向きの特性』に性差 大手25社2500人調査
https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20190204&c=DM1&d=0&nbm=DGKKZO40774690R00C19A2TY5000&ng=DGKKZO40774760R00C19A2TY5000&ue=DTY5000


※メインの記事も含めた評価はC(平均的)。佐々木玲子女性面編集長への評価はCを据え置く。佐々木編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

乳がん検診「ぜひ受けるべき」? 日経 佐々木玲子女性面編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_9.html

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