呼子大橋(佐賀県唐津市)からの風景 ※写真と本文は無関係です |
まず1月号の一部を見ていこう。
【FACTAの記事(1月号)】
(JIC社長の)田中氏はこの(11月)12日の会談で、嶋田氏の要請を受け入れ、「役員報酬を下げるのは構わない」と了承。(中略)嶋田氏は(11月)24日、それまで糟谷氏との間で進められた報酬の議論をすべてひっくり返し、3150万円という糟谷案の四分の一という金額を提示した。これでは田中氏が怒るのも無理はない。いったいなぜ嶋田氏ともあろうものが、こんなちゃぶ台返しをしたのか。
◇ ◇ ◇
「12日に役員報酬の減額を田中氏が受け入れたのだから、24日の減額提示は『ちゃぶ台返し』とは言えないのではないか」との趣旨の問い合わせをしてみた。これに対しFACTA編集部も大鹿記者も回答しなかった。それを踏まえて2月号の記事を見てほしい。
【FACTAの記事(2月号)】
ところが土壇場になって官邸から「1億円を超えるのはまずい」と横やりが入ると、経産省は大混乱に陥り、自らが提示した報酬案を「白紙撤回する」と言い出した。当初、JICの民間出身取締役たちは「自分たちは日本経済に正しくリスクマネーを供給する目的で集まったのだから、報酬にはこだわらない」という姿勢を取った。とはいえ、経産省の言いなりでJDIなどに出資し、投資ファンドとしては素人丸出しの「INCJより下」というのは間尺に合わない。経産次官の嶋田とJIC社長の田中は、こういう状況のもとで対峙していた。ここで嶋田は驚くべき発言をする。関係者の証言をもとに11月12日の2人の会話を再現するとこうなる。
嶋田「報酬案の白紙撤回は申し訳ない」
田中「報酬額にはこだわらない。が、朝日新聞からの情報開示にはどう答えるのか」
嶋田「INCJの部分は全部、黒塗りにしたが、キャリーの部分が問題だ。いずれ公表して世論の反応を見極めたい」
田中「批判が出たらどうするのか」
嶋田「その時はキャリーを廃止する」
田中「そんなことをしたらINCJが崩壊するし、裁判になったら負ける」
嶋田「裁判にするなら、すればいい」
◎やはり「報酬額にはこだわらない」?
今回も11月12日の段階で「報酬案の白紙撤回」について合意できたとの見方は維持している。記事を信じれば、12日の話し合いで問題となったのは「JIC」の前身である「INCJ」についてだ。しかし、これは奇妙だ。
田中氏は「JIC社長」だから「INCJ」に関して直接の関係者ではない。なのに「キャリーを廃止」したら「INCJが崩壊するし、裁判になったら負ける」と訴えている。そもそも「INCJ」から「JIC」に衣替えするのだから「崩壊」しても問題なさそうな気もする。
取りあえず、田中氏は「INCJ」の件を心配し善処を求めていると仮定して、記事の続きを見ていこう。
【FACTAの記事(2月号)】
驚くべき傲岸ぶりである。INCJのキャリーは一般の企業でいえば退職金や企業年金に近い。企業が機関決定し、役員、社員と結んだ契約であり、それを後から反故にするのは「財産権の侵害」にあたる。
JIC側は驚愕したが、それでもこの日は結論を持ち越した。何とか折衷案を探ろうと考えたからだ。
そして11月24日の帝国ホテルでの会談。JIC側は経産省がリカバリー案を持ってくると期待したが、大臣官房総務課長の荒井勝喜が差し出した「基本的な考え方」という資料は「取締役報酬の上限は3150万円」とあり、さらに以下の条件がついていた。
①政策目的の達成と投資利益の最大化
②政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立
③報酬に対する国民の納得感、透明性と優秀なグローバル人材の確保(民間ファンドに比肩する処遇)の両立
「政策目的の達成」は「政府がゾンビ企業を救済せよと指示したら、それに従え」、「政府としてのガバナンス」は「子ファンド、孫ファンドに至るまで投資決定の際は経産省の認可を仰げ」、「報酬に対する国民の納得感」は「報酬は事務次官、日銀総裁並みにせよ」というお達しである。リカバリーどころか「箸の上げ下ろしまで役所が指示する」締め付け案だ。激怒した田中は「話にならない」と席を立ち、その背中に向かって嶋田は「2度目はありませんよ」と言い放った。
◎なぜJICは「折衷案」を出さない?
「JIC側は驚愕したが、それでもこの日は結論を持ち越した。何とか折衷案を探ろうと考えたからだ」と大西氏は解説している。「JIC側」が当事者ではない「INCJ」の件で「折衷案を探ろうと考え」て「11月24日の帝国ホテルでの会談」で「経産省がリカバリー案を持ってくると期待した」のが相変わらず不可解だが、ここでは置いておこう。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です |
結局、経産省側から「リカバリー案」は出てこなかったらしい。だったら自分たちが「折衷案」を提示すればいいではないか。しかし、記事からは「11月24日の帝国ホテルでの会談」では「INCJ」の件を話し合っていないと取れる。
そして「大臣官房総務課長の荒井勝喜が差し出した『基本的な考え方』という資料」に田中氏が「激怒」して決裂している。問題は「INCJ」の件ではなかったのか。なのに「11月24日の帝国ホテルでの会談」では「JIC」の位置付けを巡って対立が起きている。
大西氏が事態を正しく認識していないのか、説明が下手なのだろう。
さらに言えば経産省側が出した「条件」を「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」と理解した理由も分からない。「政策目的の達成」を「条件」にするのは当然だろう。
例えば「新産業の育成」という「政策目的の達成」を政府が求めているのに、海外の不動産を買ったり仮想通貨に投資したりでは困る。
「ゾンビ企業を救済せよ」は「政策目的」としては間違っているかもしれないが、だとしても政府の定めた「政策目的の達成」に向けて「JIC」が行動するのは当然だ。勝手な行動を許すのならば、それこそガバナンスが機能していない。
基本方針に従わせることが、大西氏には「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」と映るのか。
「『政府としてのガバナンス』は『子ファンド、孫ファンドに至るまで投資決定の際は経産省の認可を仰げ』」については何を訴えたいのか分かりにくいが、取りあえず「子ファンド、孫ファンド」を勝手に設立するのはダメという趣旨だとしよう。
これも「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」とは思えない。設立時に「認可を仰げ」ばいいだけだ。
「政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立」というのは、そんなに怒るべき話なのか。「現場の自由度」を極限まで認めるのが好ましいとは限らない。暴走を食い止めるための管理も必要だ。
記事からは、田中氏が「激怒」して「『話にならない』と席を立」った理由が、やはりよく分からない。
「報酬」は問題ないはずだ。最も気にしていた?「INCJ」の件では「何とか折衷案を探ろうと考え」ていたはずなのに、自ら何らかの提案をした形跡も見当たらない。そして、ごく常識的と思える「基本的な考え方」に「激怒」して席を立ってしまう。
朝日新聞の大鹿靖明記者も大西康之氏も「田中氏=善玉、経産省=悪玉」という前提で話を進めている。しかし、どちらも納得できる材料を示せていない。FACTAの記事は1月号でも2月号でも「田中氏を善玉として描くのは無理がある」と示唆している。
筆者を変えてまで同じ話を1月号と2月号で続けて取り上げたのは、1月号での辻褄の合わない説明を2月号で「リカバリー」したかったからだろう。しかし、やはり大西氏には荷が重すぎたようだ。
※今回取り上げた記事「志賀に7億円報酬 『JIC騒動』の真相」
https://facta.co.jp/article/201902005.html
※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。朝日新聞の大鹿靖明記者が1月号に書いた記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。
FACTA「JIC騒動 嶋田・糟谷は切腹せよ」で朝日 大鹿靖明記者が無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/factajic.html
※大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html
大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html
東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html
日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html
FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html
文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html
大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html
文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html
文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html
「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html
「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html
経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html
大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html
「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html
「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html
大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html
FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html
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