呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係 |
記事を見ながら具体的に指摘していく。
【日経の記事】
イタリアの高級車「フェラーリ」は年間販売台数が1万台にも満たないが、言うまでもなく世界ブランドだ。小さいからこそ輝く。フェラーリとまではいかなくても、モノがあふれる成熟経済では規模より希少性を提供することが今の消費者をつかむ。
◎「希少性」がテーマのはずだが…
最初の段落を読むと「希少性」が今回の記事のテーマだと思える。しかし、どうも怪しい。これは後で論じるとして、さらに記事を見ていこう。
【日経の記事】
2018年に日経MJヒット番付にランクしたのは1000円食パン。その先駆者である乃が美(大阪市)のサクセスストーリーは興味深い。実家が米屋で、居酒屋など外食店を経営していた阪上雄司社長は景気に左右されない食ビジネスを模索していた。
まず考えたのは「赤福」など老舗が生き残った理由だ。結論は一つの商品に特化し、「どこどこのギョーザとか、シューマイとか、代名詞になるような商品を作ること」(阪上社長)。次は食感。阪上社長は「テレビの食リポで必ずリポーターが口にする二大ワードは『甘い』と『柔らかい』。これが実現できる分野を探した」と話す。
◎必ず「甘い」と口にする?
「テレビの食リポで必ずリポーターが口にする二大ワードは『甘い』と『柔らかい』」というコメントが引っかかる。例えばラーメンの「食リポ」で「リポーター」は「必ず」「甘い」と「口にする」だろうか。
実際に「阪上雄司社長」がそう述べたとしても、記事にする段階では「必ず」を抜くべきだ。でないと「阪上雄司社長」が愚か者に見える。
記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
そもそもは米屋だが、特化する分野は食パンに行き着いた。きっかけは老人ホームへの慰問。高齢者の多くが食パンの耳を残すことに気づいた。「食パンは大手メーカーが独占するが、耳のおいしいパンはない」。そのためには業界の常識を破ることが不可欠だった。
◎「食パンは大手メーカーが独占」?
ここでもコメントが問題だ。「食パン」市場を「大手メーカーが独占する」はずがない。街のパン屋でも自家製の食パンを当たり前に販売している。「阪上雄司社長」が「食パンは大手メーカーが独占する」と実際に言ったとしても、そこは中村編集委員が上手く対応して記事を書くべきだ。
さらに記事を見ていく。
【日経の記事】
例えば食パンは棚に置いたとき、曲がったり、倒れたりする「腰折れ」が起きてはいけない。阪上社長は2年かけて焼く温度や時間、原料の配合を研究し、腰折れしそうでしない柔らかく、程よい甘さの食パンを開発。耳のおいしさを実現した。13年にスタートした乃が美は食パンだけで全国で100店を超え、年商も100億円に達した。
値段は2斤で800円と通常の食パンの2倍以上。当初は「高過ぎる」と批判されたが、3年たつと品質と味への評価が高まり、800円は「安いね」と変わった。高いが、買えないレベルではないデパ地下の食品に似ている。同時に乃が美が好調を持続しているのは主食用だけでなく、ギフトとしても使える市場を創り出したからだ。
◎「希少性」ある?
「13年にスタートした乃が美は食パンだけで全国で100店を超え」たらしい。そこに「希少性」は感じられない。例えば「1店舗のみで営業は土日だけ。しかも1日100斤限定」ならば「希少性」があると思えるが…。
グラバー園 旧オルト住宅(長崎市)※写真と本文は無関係 |
「高いが、買えないレベルではないデパ地下の食品に似ている」とも中村編集委員は解説している。「デパ地下の食品」は「希少性を提供すること」で「消費者をつか」んでいるのか。そういう要素がゼロとは言わないが、基本的には「希少性」は乏しい。
「乃が美」の「食パン」が「デパ地下の食品に似ている」のならば、「希少性」は大したことがなさそうだ。
文の書き方にも注文を付けたい。「阪上社長は2年かけて焼く温度や時間、原料の配合を研究し~」とすると、「2年かけて焼く」と取れる。「阪上社長は焼く温度や時間、原料の配合を2年かけて研究し~」などとすべきだ。この辺りにも中村編集委員の書き手としての技術不足が垣間見える。
先に進もう。
【日経の記事】
実は同時期に高級食パンを出した会社がある。セブン―イレブン・ジャパンだ。パン全体の売上高に占める比率が「なぜ食パンの比率は14%と低いのか」との問題意識が偶然にも芽生えた。そこで製法、原料、包装材まで一新し、13年に誕生したのが「金の食パン」だ。あまりの偶然に阪上社長は「これはやられる」と一瞬焦ったという。
◎文として成立してる?
「パン全体の売上高に占める比率が『なぜ食パンの比率は14%と低いのか』との問題意識が偶然にも芽生えた」という文は成立していない気がする。おそらく「パン全体の売上高に占める比率が『なぜ食パンは14%と低いのか』との問題意識が偶然にも芽生えた」と言いたかったのだろう。
この段落には他にも引っかかった点が2つある。まず「14%」がなぜ「低い」と言えるのかだ。「そんなものかな」とも思うし、そこそこ高いようにも感じる。「本来ならば食パンの比率は14%を上回っているはずだ」と言える理由が欲しい。
また、「『これはやられる』と一瞬焦った」のに、結局は「乃が美」が成功した理由も謎だ。セブンの「金の食パン」を失敗例として取り上げているのならば分かるが、成功例っぽく書いている。ならば、なぜ「やられ」なかったかは入れたい。「行数が足りない」と言うのならば「セブン」の事例は省いた方がいい。
ようやく最後の段落に辿り着いた。
【日経の記事】
大手食品メーカーも価格と品質を重視したものづくりを進め、パン食の消費量は米食を抜き去った。だが消費者のこだわりは大手だけでは対応しきれない。高くて売れるのは世の中に「ないもの」だが、そんなものはない。商機はパンのような日常シーンの「あるもの」の中にある。
◎時期が合わないような…
これだけ読むと「乃が美」などの成功に刺激を受けて「大手食品メーカーも価格と品質を重視したものづくりを進め、パン食の消費量は米食を抜き去った」と理解したくなる。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町) ※写真と本文は無関係です |
しかし「パン食の消費量」が「米食を抜き去った」のは2011年のようだ。「乃が美」は「13年にスタートした」ので時期が合っていない。「乃が美」が世に出るまでは「食パンは大手メーカーが独占」していて「耳のおいしいパン」も存在していなかったはずだが…。
付け加えると「高くて売れるのは世の中に『ないもの』だが、そんなものはない」という説明もよく分からない。
まず「高くて売れるのは世の中に『ないもの』」なのか。中村編集委員が冒頭で取り上げた「フェラーリ」は「高くて売れる」商品だと思えるが、これは「ないもの」なのか。
「高くて売れる」商品など、いくらもある。時計でもバッグでもいい。これらは全て「世の中に『ないもの』」なのか。あるいは最近になってようやく「あるもの」になったのか。
「そんなものはない」との説明もおかしい。「耳のおいしいパン」が2012年までの世界に存在しなかったのならば「高くて売れる」上に「世の中に『ないもの』」はあったはずだ。「耳のおいしいパン」がそうではないのか。
大して長くもない記事で、これだけの問題点を散りばめられるのは、中村編集委員の実力が不足している証でもある。中村編集委員に記事を書かせ続けるつもりならば、企業報道部として強力な支援体制を築くべきだ。今のままコラムを任せるのは、読者のためにも中村編集委員のためにもならない。
※今回取り上げた記事「〈ヒットのクスリ〉こだわり力(上) 乃が美、食パンに高級革命 『日常』に希少性の芽」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190118&ng=DGKKZO40047500V10C19A1TJ2000
※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html
「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html
スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html
「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html
「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html
キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html
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