田島神社(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
「政府として全く考えていない」。2018年10月22日、政府の未来投資会議。公的年金の支給開始年齢の一律引き上げが話題に上ると、茂木敏充全世代型社会保障改革担当相はこう切り捨てた。同席した安倍晋三首相も「全く考えていない」と完全に否定した。
政府は「人生100年時代」をうたい、意欲と能力があれば年齢に関係なく働ける選択肢を用意しようとしている。70歳までの就業を企業や個人に強制するわけではないが、年金を受け取り始める時期も70歳より遅らせることを認める。
◎結局どうなの?
上記の説明は解釈に迷う。「公的年金の支給開始年齢の一律引き上げ」に関して「政府として全く考えていない」などと「完全に否定した」はずなのに、なぜか「年金を受け取り始める時期も70歳より遅らせることを認める」となってしまう。「認める」主体は「政府」と考えるしかない。
「茂木敏充全世代型社会保障改革担当相」や「安倍晋三首相」が虚偽答弁をしたと言いたいのか。それとも「政府」の別の誰かが「年金を受け取り始める時期も70歳より遅らせることを認め」たとの趣旨なのか。
あるいは「年金を受け取り始める時期も70歳より遅らせる」とは「一律引き上げ」ではなく部分的な「引き上げ」ということか。記事からは何とも判断できない。
さらに続きを見ていこう。
【日経の記事】
日本は少子高齢化で人手不足に直面し、支え手の減る年金制度に将来不安がつきまとう。政府は雇用を切り口に「年金だけに頼る老後」を変えようとしているわけだが、年金制度にメスを入れずに「人生100年」の計を描けるだろうか。
みずほ総合研究所の試算によると、65~69歳の就業率が今より約9ポイント高い5割台に上昇すれば、その分、保険料を払う人と年金受給が70歳以降となる人が増え、30年時点の厚生年金の収支は今の想定より2千億円改善する。一方、労使が払う厚生年金の保険料負担は計2300億円増える。
確かに高齢者の働き方を見直せば年金制度にとってプラスだ。だが年間給付が50兆円を超える公的年金全体からみれば効果は小さい。厚生労働省が高齢者雇用について検討するため昨春に省内に設けたプロジェクトチーム(PT)は「定年の延長などで年金の支給開始年齢までの雇用保障を図ってきた」と指摘した。高齢者雇用と年金制度のあり方は表裏一体の関係だ。
◎判断材料を提示できてる?
「年金制度にメスを入れずに『人生100年』の計を描けるだろうか」と問題提起してみたものの、それを判断するための材料を提示できていない。「30年時点の厚生年金の収支」で見るのならば、まず「どの程度の資金不足になるのか」を示すべきだ。でないと「2千億円改善」の多寡は論じられない。例えば不足額が3000億円ならば「効果」は大きい。
玄海エネルギーパークの観賞用温室(佐賀県玄海町) ※写真と本文は無関係です |
記事ではなぜか「年間給付が50兆円を超える公的年金全体からみれば効果は小さい」と「厚生年金」から「公的年金全体」に話を移してしまう。しかも「年間給付が50兆円を超える」ことを「効果は小さい」とする根拠に挙げている。問題は「年間給付」の額ではなく「不足額」のはずだ。
付け加えると「年金だけに頼る老後」にも無理がある。「65~69歳の就業率が今より約9ポイント高い5割台に上昇すれば」と書いているので、今でも「65~69歳の就業率」は4割を超えているはずだ。こうした人は「年金だけに頼る老後」を送っているのか。答えは明らかだ。
さらに続きを見ていく。
【日経の記事】
平均寿命が60歳代半ばだった1960年代初め、厚生年金の受給期間は平均約9年だった。平均寿命が80歳代前半となる2030年、厚生年金の受給期間は平均17年超に延びる。支給開始年齢を65歳から一律に引き上げなければ「長い老後」が制度の重荷となる。
もっとも、どの国の政権にとっても年金は「鬼門」だ。年金の支給開始年齢を65歳から67歳まで引き上げる途上のドイツでは高齢者の就業率が上昇した半面、貧困高齢者も増え、極右勢力などの拡大につながった。オーストラリアのモリソン首相は昨秋、年金の支給開始年齢を70歳まで引き上げる計画を撤回。総選挙向けの人気取りに走った。
◎これも根拠に欠ける気が…
「平均寿命が60歳代半ばだった1960年代初め、厚生年金の受給期間は平均約9年だった。平均寿命が80歳代前半となる2030年、厚生年金の受給期間は平均17年超に延びる」というデータを根拠に「支給開始年齢を65歳から一律に引き上げなければ『長い老後』が制度の重荷となる」と主張しているが、説得力はない。
「受給期間」が「平均約9年」なら何歳から「平均17年」なら何歳からなどと機械的にあるべき「支給開始年齢」を導き出せる訳ではない。「厚生年金の受給期間は平均17年超に延び」たとしても、負担と給付のバランスが取れていれば「支給開始年齢」は「65歳」で問題ない。
バランスが崩れるのならば「支給開始年齢を65歳から一律に引き上げなければ」ならないとの主張に説得力が出てくるが、記事では「2030年」にどの程度の資金不足となるのか示していない。
ここから記事の終盤を見ていく。
【日経の記事】
日本の政府がまず高齢者雇用に焦点を絞るのも、政権への打撃となりかねない年金改革の議論を先送りしたい思惑があるからだ。現行制度でも可能な66~70歳に年金受給を遅らせる選択をしている人は全体のわずか1%程度と、年金依存の壁は厚い。背景には60歳を境に賃金が大きく下がる企業の給与制度がある。
大手銀に嘱託で勤める女性(62)の給料は60歳の定年前からほぼ半減した。出費はなかなか減らないため、あと1年は働くという。厚労省の調査でも65~69歳の正社員の平均賃金は28.4万円と55~59歳に比べ27%低い。賃金だけでは足りず、年金で収入減を補う高齢者の実像が浮かぶ。
雇用制度と社会保障制度。両者を一体で改革しなければ、「人生100年の計」は描けない。
◎どう「改革」したい?
「雇用制度と社会保障制度。両者を一体で改革しなければ、『人生100年の計』は描けない」と言うものの、どう「改革」したいのかが分かりにくい。「支給開始年齢」を引き上げるべきだと取材班が考えているのは分かる。問題は「雇用制度」だ。
今回の記事から判断すると「60歳を境に賃金が大きく下がる企業の給与制度」が原因で「年金依存」から抜け出せないので、これを改めるべきだと読み取れる。
しかし(上)では正反対とも言える主張を展開していた。「社会に持続可能なシニア雇用を定着させ、働く意欲も高める解はなにか。清家篤・前慶応義塾長は『年功型の賃金カーブの見直しは欠かせない』と指摘する」と解説していた。だとすると「60歳を境に賃金が大きく下がる企業の給与制度」は「年功型の賃金カーブ」に逆行する好ましい「制度」ではないのか。
「雇用制度と社会保障制度。両者を一体で改革しなければ、『人生100年の計』は描けない」と言うぐらいだから「両者を一体で改革」すれば「人生100年の計」が描けると取材班は確信しているだろう。ならば、どう「改革」すべきかを具体的に示してほしい。
取材班にも明確な解決策はないとは思うが…。
※今回取り上げた記事「70歳雇用の条件(中)未完の『人生100年の計』 『鬼門』の年金は後回しに」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190111&ng=DGKKZO39892950R10C19A1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。
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