2018年12月23日日曜日

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏

FACTA1月号の「デサント牛耳る『番頭4人組』」という記事では「番頭4人組」を悪玉として描いているが、根拠は乏しい。また「デサント牛耳る」と言えるかどうかもも怪しい。稼ぎ頭の「韓国でのビジネス」を「一手に担っている」別の役員に「『おんぶに抱っこ』の状態」なのに、「番頭4人組」で「デサント」を牛耳れるだろうか。
QFRONT(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係

筆者であるジャーナリストの大西康之氏が今回も雑な分析を披露したと見るべきだろう。FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA編集部 担当者様

2019年1月号の「デサント牛耳る『番頭4人組』」という記事についてお尋ねします。記事では「デサント」に関して「4人組は結託してデサントの実権を握り、創業家の血を引く石本を錦の御旗に掲げ、他の役員・社員を退けてきた。彼らにとって、唯一目障りだったのが筆頭株主の伊藤忠だ」と記しています。しかし、読み進めると話が違ってきます。問題としたいは以下のくだりです。

<記事の引用>

創業一族への「大政奉還」が実現した後のデサントの経営は冴えない。何より問題なのは韓国ビジネスへの依存である。デサントの17年度の最終損益は57億円の黒字。売上高1411億円に対する営業利益は96億円だが、その内訳を見ると、最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる。

韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている。デサント・コリアの社長も兼ねる金は、韓国内に900店舗の直営店を展開し、「ルコック」などを若者の人気ブランドに定着させた。日本など「その他地域」の利益は6億円に過ぎず、まさに金に「おんぶに抱っこ」の状態だ。

--引用は以上です。

韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている」のであれば「4人組(取締役常務執行役員の三井久氏、取締役専務執行役員の田中嘉一氏、取締役常務執行役員・最高戦略責任者(CSO)の羽田仁氏、最高財務責任者(CFO)の辻本謙一氏)」は「デサントの実権」を握り切れていません。

稼ぎ頭の「韓国でのビジネス」を他の役員が掌握していて、その役員に「『おんぶに抱っこ』の状態」で「4人組」は「他の役員・社員を退けてきた」と言えますか。

4人組は結託してデサントの実権を握り、創業家の血を引く石本を錦の御旗に掲げ、他の役員・社員を退けてきた」との説明は誤りではありませんか。「韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている」との記述が間違っているのかもしれません。どちらにも問題なしとの判断であれば、その根拠を教えてください。

付け加えると「大政奉還」という例えにも問題があります。記事では「同年(2013年)2月の取締役会で4人組は『伊藤忠との取引を強要した』などの理由で伊藤忠出身の社長、中西悦朗を解任。後釜に恵一の息子である雅敏を据えた。事実上のクーデターである」と説明しています。

事実上のクーデター」を「大政奉還」に見立てるのは無理があります。「伊藤忠」側が自発的に「創業一族」へ社長職を譲る展開でないと「大政奉還」とは呼べません。

さらに言うと「売上高1411億円に対する営業利益は96億円だが、その内訳を見ると、最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる」との記述も不自然です。

その内訳を見ると」に関しては「営業利益」の「内訳を見る」と解釈するのが自然です。しかし、なぜか「最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる」と「最終利益」の「内訳」になっています。この辺りには、書き手としての基礎力不足を感じました。

次に「週刊文春10月25日号に掲載された〈伊藤忠のドン岡藤会長の「恫喝テープ」〉の記事」に関する「もちろんデサント側のリークだが、首謀者は『気が弱い』と言われる石本本人ではなく、ジュニアを担ぐ『番頭4人組』のようだ」との見方に疑問を呈しておきます。

まず「もちろんデサント側のリーク」と断定しているのが引っかかります。「伊藤忠側にリークの動機はない」から「デサント側のリーク」だと大西様は考えているようですが、同意できません。

岡藤会長」には「リークの動機はない」でしょう。しかし、「岡藤会長」を良く思わない「伊藤忠」関係者には「動機」があり得ます。「件のテープが録音されたのは2018年6月25日。場所は東京・青山にある伊藤忠本社21階の会長応接室である」と記事では書いています。ならば「伊藤忠」関係者が「岡藤会長」に無断で録音機器を「会長応接室」に設置した可能性はあります。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

首謀者は『気が弱い』と言われる石本本人ではなく」との説明も納得できませんでした。「関係者によると『石本は文春に記事が出るまでテープの存在を知らなかった』」から「石本」氏ではないと大西様は判断しています。

仮に「石本」氏が「首謀者」だった場合、周囲に「テープの存在を知っていた」と言うでしょうか。本人が「テープの存在を知らなかった」と言っているとしても、それで「首謀者」ではないと判断するのは早計です。

録音したのは三井と思われる」と大西様は書いています。仮に「三井」氏が「文春に記事が出るまでテープの存在を知らなかった」と証言した場合、大西様は「そうか。三井氏はリークしていなかったのか」と素直に受け取りますか。「石本」氏に関しても同じことです。

もう1つ気になるのが「首謀者」を「ジュニアを担ぐ『番頭4人組』のようだ」と書いている点です。「三井が文春へのリークに関わっているのは間違いなさそう」だとしても、他の3人が「リーク」に関わったと取れる記述は見当たりません。

三井」氏が「首謀者」で他の3人の関与は不明と見ているのであれば、「首謀者は『番頭4人組』のようだ」と書くのは感心しません。

記事の終盤に関しても問題を指摘しておきます。

<記事の引用>

「韓国一本足」の現状は「アディダス一本足」だった98年によく似ており、伊藤忠は再三「韓国以外の収益源を育てるべきだ」と提案したが、4人組はまともに取り合わない。

18年8月、デサントは女性下着大手のワコールホールディングスと包括的な業務提携を発表したが、事前に伊藤忠への説明はなかった模様。「ワコールに(伊藤忠による買収から身を守るための)ホワイトナイトを頼んだのではないか」との臆測を呼んだ。 双方の亀裂は深く、「恫喝テープ」に録音されていた「持ち株数増やして子会社にするか、(デサント株を全部)売るかな」という岡藤の発言は、半ば本気とも考えられる。

編集部の取材に対しデサント広報部は「三井を含め当社役員及び従業員からリークが行われた事実は一切ない」と回答したが、伊藤忠側にリークの動機はない。とはいえ、トップ同士の会談を秘密裏に録音し、それを週刊誌に流したなら岡藤が怒るのも当然だ。伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の「モラトリアム」はあっけなく消滅するだろう。

--引用は以上です。疑問点は主に2つあります。

(1)「まともに取り合わない」?

伊藤忠は再三『韓国以外の収益源を育てるべきだ』と提案したが、4人組はまともに取り合わない」と書いた直後に「ワコールホールディングス」との「包括的な業務提携」の話が出てきます。これは「韓国以外の収益源を育てる」ための「提携」とも取れます。

事前に伊藤忠への説明はなかった」かもしれませんが、「韓国以外の収益源を育てるべきだ」との考えは「4人組」を含むデサント経営陣にもありそうです。「ワコールとの提携は韓国以外の収益源の育成には寄与しない」と大西様が判断しているのならば、その根拠が記事中に欲しいところです。


(2)「あっけなく消滅する」?

伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の『モラトリアム』はあっけなく消滅するだろう」との説明は理解に苦しみました。まず「モラトリアム」が何を指すのか謎です。とりあえず「モラトリアムが消滅すると、石本氏と4人組は経営陣から外れる」と考えて話を進めましょう。

伊藤忠」の「強硬策」は「持ち株数増やして子会社にするか、(デサント株を全部)売るか」です。「デサント株を全部」売る場合、「筆頭株主の伊藤忠」の介入から逃れられます。「石本と4人組」が追放となる可能性は低くなりそうです。

持ち株数増やして子会社にする」場合、そうはいきません。ただ「ワコールに(伊藤忠による買収から身を守るための)ホワイトナイトを頼んだのではないか」との「臆測」があったはずです。

ワコール」を含む第三者が「ホワイトナイト」として名乗りを上げる可能性はないのですか。あるのならば「モラトリアム」が「あっけなく消滅する」とは限りません。なのに結論は「伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の『モラトリアム』はあっけなく消滅するだろう」となっています。分析が浅すぎませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「デサント牛耳る『番頭4人組』
https://facta.co.jp/article/201901009.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

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