2018年11月18日日曜日

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」

良く言えば、編集委員を遊ばせる余裕があるということか。17日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「検証・中間選挙~テキサスが映す米の岐路  移民急増、民主に勢い」という記事によると、筆者の大石格編集委員は「米中間選挙の投票日をテキサス州で迎えた」らしい。しかし、テキサスでの取材がほとんど記事に生きていない。
平和祈念像(長崎市)※写真と本文は無関係です

ツッコミどころが多い分析も相変わらずだ。まずは記事の最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

米中間選挙の投票日をテキサス州で迎えた。全米有数の激戦州だったからだが、それだけが理由ではない。

 2016年の大統領選で番狂わせが起きたのは、世論調査で浮かび上がらなかった「隠れトランプ支持者」がいたからだ。

いまやトランプ支持者を見つけるのは難しくない。トランプTシャツの男性に「ためらいはないのか」と聞くと、「国家元首を応援して何が悪い」と聞き返された。

米国民が誰を支持するのかを堂々と口にするようになったということは、世論調査を再び信用して大丈夫ということだ。事実、中間選挙はほぼ下馬評通りに決着した。


◎現地取材はそれだけ?

そこそこ長い記事だが、現地での取材を反映しているのは上記のくだりだけだ。「トランプTシャツの男性」から「国家元首を応援して何が悪い」というコメントを得ただけならば「何のためにわざわざテキサスまで行ったの?」と聞きたくなる。

しかも「テキサス州」で「トランプ支持者を見つけるのは難しくない」と感じただけで「米国民が誰を支持するのかを堂々と口にするようになったということは、世論調査を再び信用して大丈夫ということだ」と安易に結論付けている。

テキサス州」で大石編集委員が見たことが全米で同じように起きていると判断するのは短絡的だ。それに「トランプ支持者を見つけるのは難しくない」からと言って「隠れトランプ支持者」がいなくなったとは限らない。

そもそも、大石編集委員が出会った「トランプTシャツの男性」は「2016年の大統領選」では「隠れトランプ支持者」だったのだろうか。「2016年の大統領選」でも、熱狂的にトランプ候補を応援する人の映像をテレビでたくさん見た記憶があるが…。

さらに言えば「隠れトランプ支持者」がいなくなっても「世論調査を再び信用して大丈夫」かどうかは断定できない。他の要因で「世論調査」と選挙結果が食い違う可能性はある。総じて大石編集委員は物事を単純に考え過ぎだ。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

16年大統領選の結果と、今回の中間選挙の結果を比べると、共和党優位から民主党優位に変わったのは、ミシガンなど6州だ。注目は上院選、知事選とも民主党が勝ったペンシルベニアとウィスコンシンである。

鉄鋼業が衰退したペンシルベニアは、典型的なラストベルト(さび付いた工業地帯)の一角だ。酪農州のウィスコンシンは白人比率が全米で最も高く、白人票の動向の先行指標となってきた。

トランプ再選があるかないかは、トランプ陣営がこの2州を再び獲得できるかどうか次第だ。



◎なぜ「先行指標」になる?

ここでは「酪農州のウィスコンシンは白人比率が全米で最も高く、白人票の動向の先行指標となってきた」との説明が謎だ。「先行指標」ならば「ウィスコンシンの白人の投票行動と同じ傾向が少し遅れて全国に広がる」と言えるはずだ。しかし、なぜそうなるのかを大石編集委員は教えてくれない。「酪農州」や「白人比率」は「先行指標」になるかどうかと関係ない気がする。
東京ドーム(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

記事では「トランプ再選があるかないかは、トランプ陣営がこの2州を再び獲得できるかどうか次第だ」と書いているので、「この2州」を深掘りするするのかと思ったが、話は別の州に移っていく。

【日経の記事】

米国では政党のシンボルカラーを踏まえ、民主党優位の州を青、共和党優位の州を赤で示す。移民が多い海沿いが青、白人主体の大陸中央部が赤である。

その境目のオハイオが最大の戦場とされてきた。第2次世界大戦後、同州で負けて大統領になったのは1960年のケネディ氏の一例しかない。



◎どっちが大事なの?

この2州」が最重要なのかと思ったが、今度は「オハイオが最大の戦場」という展開になっている。この辺りを上手くまとめてほしいところだが、またしても話は別の州へ移る。

【日経の記事】

近年、新しい傾向が生まれつつある。メキシコとの国境沿いの州で民主党が党勢を伸ばしているのだ。ニューメキシコは68年から6回連続で赤だったが、92年以降は2004年を除き青である。



◎「近年」の傾向と言える?

今度は「ニューメキシコ」だ。「近年、新しい傾向が生まれつつある」と大石編集委員は言うが、この「傾向」は「ニューメキシコ」で言えば「92年以降」のものではないのか。だとしたら「近年」は苦しい。「近年」とは「最近の数年間。ここ数年」(デジタル大辞泉)という意味だ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

理由はヒスパニック(中南米系)の移民の急増だ。16年の大統領選の出口調査によれば、ヒスパニックの66%が民主党に投票した。黒人の89%には及ばないものの、ヒスパニック人口が増えるほど、民主党に有利になることは間違いない。

西隣のアリゾナは1952年以降の17回の大統領選で、共和党が16勝1敗と圧倒的な勝率を誇る。ただ、差は徐々に縮まっており、今回の上院選での民主党勝利は逆転の前触れかもしれない。

この2州は小さく、影響は限定的だが、テキサスに配分された選挙人は全米2位の38人もいる。ここが青くなれば、共和党はこの先ずっと大統領選に勝てなくなる。

テキサスでヒスパニック人口が白人を抜くのは22年ごろの見込み。上記出口調査で白人の共和党支持率は57%だった。ここから推計すると、テキサスは20年大統領選ではまだでも、24年に青州になる可能性がある



◎「20年大統領選ではまだ」と言える?

ようやく本題らしき話になってきた。「ペンシルベニア」「ウィスコンシン」「オハイオ」は結局、行数稼ぎに入れた話なのだろう。
大分県立別府鶴見丘高校(別府市)
     ※写真と本文は無関係です

本題の分析も苦しい。「16年の大統領選の出口調査」を基に「テキサスは20年大統領選ではまだでも、24年に青州になる可能性がある」と大石編集委員は分析している。しかし「20年大統領選ではまだ」と考えるのは無理がある。

テキサスでヒスパニック人口が白人を抜くのは22年ごろの見込み」かもしれないが、記事に付けたグラフを見ると「20年」の時点でほぼ同数になる。

投票率に差がない前提で考えると「白人の共和党支持率は57%」で「ヒスパニックの66%が民主党に投票」するのだから、民主党有利だ。黒人票を考慮しても「黒人の89%」が民主党支持なので民主党有利は変わらない。なのに「20年大統領選ではまだ」と言えるのか。

記事からは「ヒスパニック人口が白人を抜く」ことが「青州になる」条件だとの前提を感じる。だが、そんな単純な話ではないはずだ。

記事の終盤に話を移そう。

【日経の記事】

米国の国境警備隊が今年10月に逮捕したメキシコからの家族連れの不法入国者は2万3121人。前月より38%多く、過去最多だった。トランプ政権の必死さがうかがえるが、入りを妨げるだけでトレンドを反転させることはできない。

トランプ大統領が「米国生まれならば米国籍を取得できる仕組みを廃止する」と言い始めたのには、それだけの理由があるのだ。テキサスがブルーになる日。米政治の歴史的分岐点はすぐそこまで来ている。



◎取材費の無駄遣いでは?

テキサスがブルーになる日。米政治の歴史的分岐点はすぐそこまで来ている」という問題意識があったから「米中間選挙の投票日をテキサス州で迎えた」のではないのか。なのに「トランプTシャツの男性」とのやり取り以外に取材の形跡は見当たらない。

結局、何を取材しに多額の費用をかけて「テキサス」まで行ったのか。今回のような雑な分析記事しか書けない大石編集委員に物見遊山的な米国出張をさせるのは取材費の無駄遣いだ。そのカネを若手記者の海外出張費に充てた方が、日経のためにもなるだろう。


※今回取り上げた記事「検証・中間選挙~テキサスが映す米の岐路  移民急増、民主に勢い
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181117&ng=DGKKZO37894640X11C18A1NNE000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

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