道の駅 大和のオートキャンプ場(佐賀市) ※写真と本文は無関係です |
当該部分を見ていこう。
【日経ビジネスオンラインの記事】
それよりも私が危惧するのは、金足農業フィーバーの陰で大阪桐蔭の野球に対する姿勢と彼らの真摯な取り組みがしっかりと伝わらないことだ。彼らの野球こそ現代高校野球のスタンダードであり、考えるべき本質がそこにあるからだ。
(中略)大阪桐蔭の野球部員は全員寮生活で基本的には休みなく練習に取り組んでいる。携帯電話も預けて、外出禁止。みんなで買い物に行くのは、月に一回、予算は1年生が500円、3年生でも1500円と決まっているらしい。
しかし寮生活では上級生も雑務を担当し、下級生だけが掃除や雑用を任されているわけではないようだ。部屋割りも3年生は3年生同士で、2年生は2年生同士で、1年生は1年生と部屋で過ごす。これも変な上下関係ができないように配慮されてのことなのだろう。
見方によってはまるで修行僧のような日常と言えるのかも知れないが、決してこうした生活を強要しているわけではない。選手たちは、自ら望んでこうした環境に飛び込んで、自分たちの成長とチームの勝利を求めているのだ。
◎本当に「スタンダード(標準)」?
筆者の青島健太氏は「大阪桐蔭の野球」を手放しで称賛している。それが間違いだとは言わないが、素晴らしいからと言って「スタンダード」になるとは限らない。「スタンダード」を超えた部分があるからこそ素晴らしいとも言える。
「全員寮生活で基本的には休みなく練習」「携帯電話も預けて、外出禁止」というやり方は「現代高校野球のスタンダード」とは考えにくい。大多数の高校球児は「休み」があり、「携帯電話」を持てる環境で野球をやっているはずだ。
記事にもう少しツッコミを入れてみたい。
【日経ビジネスオンラインの記事】
こうした指導で常勝軍団を作っている西谷浩一監督は、社会科の教員であり、選手たちと一緒に寮に住み込んで同じような日々を送っている。
彼はすべての選手との対話を実行し、それぞれが上手くなるために意見を交わしている。興味深いのは、入学時からすべての選手にバッティング(登板)を保証している点だ。チャンスは全員に平等にあるのだ。そうした競争の中から、みんな自分で努力してレギュラーをつかんでいく。
◎当たり前の話では?
まず「バッティング(登板)」が分かりにくい。これだと「バッティング」の訳語が「登板」だと言っているように見える。
島原湾(熊本県上浅草市)※写真と本文は無関係です |
本題に入ろう。上記の話はごく普通のことではないのか。「すべての選手との対話を実行し、それぞれが上手くなるために意見を交わしている」のは当然だろう。特定の選手としか「対話」しない監督では困る。「それぞれが上手くなるために意見を交わしている」のも、当たり前だと思える。
「興味深いのは、入学時からすべての選手にバッティング(登板)を保証している点だ」と青島氏は言うが、なぜ「興味深い」のか理解に苦しむ。「保証」の内容が曖昧だが、「バッティング練習ができると保証している」のならば、これまた当然すぎる。野球部に入ったのに、バッティング練習もできないまま引退する方が異常だ。
試合への出場を「保証」しているのならば、少しは「保証」の意味が出てくる。しかし、練習試合も含めた話ならば、簡単に実現できそうな気はする。もう少しきちんと説明してくれないと、なぜ「興味」を持ったのか伝わってこない。
さらに説得力に欠けるのが以下のくだりだ。
【日経ビジネスオンラインの記事】
大阪桐蔭の強さと同時にもう一つの特筆すべき点は、数多くの卒業生がプロ野球で活躍していることだ。その数は、現在16人に上る。
埼玉西武のおかわり君こと中村剛也選手や浅村栄斗選手、森友哉選手、日本ハムの中田翔選手や阪神の藤波晋太郎選手などもそうだ。
こうした選手を取材して感じることは、彼らが伸び伸びと自分の個性を発揮していることであり、厳しい高校時代の生活で燃え尽きてしまっているようなところがまったくないことだ。大阪桐蔭の選手たちは、野球への旺盛な意欲をもってプロの門をくぐり、多くの選手がそれぞれのチームで大きな飛躍を遂げている。このことも西谷監督の指導方針の素晴らしさを物語る要素と言えるだろう。
◎活躍できなかった選手は無視?
「大阪桐蔭」出身の「埼玉西武のおかわり君こと中村剛也選手や浅村栄斗選手、森友哉選手、日本ハムの中田翔選手や阪神の藤波晋太郎選手」を取材して「厳しい高校時代の生活で燃え尽きてしまっているようなところがまったくない」「多くの選手がそれぞれのチームで大きな飛躍を遂げている」と青島氏は書いている。
これに関しては「活躍している選手しか取材していないのでは」との疑問が浮かぶ。元巨人の辻内崇伸氏のように、騒がれて入団しながら全く活躍できなかった「大阪桐蔭」出身の選手もいる。プロで成功しなかった選手も含めて「厳しい高校時代の生活で燃え尽きてしまっているようなところがまったくない」かどうかを考えないと意味がない。
付け加えると「阪神の藤波晋太郎選手」を「大きな飛躍を遂げている」と評するのは少し苦しい。入団から3年間は期待に応える活躍だったが、その後の3年間はかなり苦しんでおり、成績も振るわない。
さらに言えば、「数多くの卒業生がプロ野球で活躍していること」も「大阪桐蔭の野球」が「現代高校野球のスタンダード」ではないと示唆しているように感じる。プロで活躍するOBがいない高校の方が「現代高校野球のスタンダード」と言えるのではないか。
青島氏が「大阪桐蔭の野球」を高く評価しているのは分かる。だが、肩入れが強すぎるからか、まともな分析になっていない。
※今回取り上げた記事「青島健太『スポーツ社会学』 金足農人気の陰で伝わらない大阪桐蔭のすごさ~彼らの野球こそ現代高校野球のスタンダードだ」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122600093/083000083/?P=1
※記事の評価はD(問題あり)。青島健太氏への評価も暫定でDとする。
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