龍門の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係です |
記事を順に見ながら、問題点を列挙してみたい。
【東洋経済の記事】
筆者の前回のコラムでアジアの喫煙事情を紹介し、東京の状況に少し疑問を呈したのだが、先日台北でこんな光景を目にした。日本の地方都市から台湾に旅行に来た60代の日本人男性3人と、台湾人数人(40〜80代の男女)との会食に交ぜてもらったところ、途中から日本人だけが何となくもじもじし始めた。日本人と長年付き合いのある台湾人企業家はすぐに気がつき、「ああ、たばこなら、レストランでは吸えないから、外へ出てください」と伝えた。
結局、このテーブルでたばこを吸うのはこの日本人の男性3人だけだった。その内の一人は、日本でたばこを吸う場所がいかに少なくなったかを会食中に力説し始めたので、皆が目を丸くした。台湾人が日本へ行けば、「公共の場所でまだこんなにたばこを吸っているのか」と感じるはずだから、この男性がいかに他国の事情を知らないかが知れ渡ってしまった。
◎「他国の事情を知らないか」判断できる?
「日本でたばこを吸う場所がいかに少なくなったかを会食中に力説し始めた」のを見て、「この男性がいかに他国の事情を知らないかが知れ渡ってしまった」と筆者の「東えびす」氏は断定している。しかし、その根拠が謎だ。
「日本でたばこを吸う場所がいかに少なくなったか」を力説したからと言って、「他国の事情を知らない」とは言い切れない。「他国の事情を知らない」と判断できる発言が別にあるのならば、それを記事で紹介すべきだ。
さらに言えば、「この男性」が台湾の喫煙事情を知らないとしても、恥ずべきことでもないだろう。海外に行く機会が少ない人ならば、喫煙に関する「他国の事情を知らない」のは当たり前だ。知っておくべき常識とも思えない。
記事の続きを見ていこう。
【東洋経済の記事】
たばこだけではない。会食では、日本人の酒の飲み方は恐ろしいという声も耳にした。「ちゃんぽん」という日本語を聞くと、麺ではなく酒の飲み方を思い浮かべる台湾人もいる。台湾人企業家は「まずはビールで、次は日本酒や焼酎、飲み屋を替えればウイスキーでは、付き合うこちらは体がおかしくなるよ」とつぶやきながら、日本人たちにビールを勧め、それから高級ワインを出し、秘蔵のウイスキーまで取り出して歓待していた。
◎脱線してない?
このくだりは「60代の日本人男性3人」の問題から外れて「日本人の酒の飲み方」全般に話題が移っている。やや脱線気味だ。
そして、話は「60代の日本人男性3人」に戻ってくる。
【東洋経済の記事】
初めはおとなしくしていた、台湾は初めてという日本人たちは、酒が回り始めると別人のように饒舌(じょう ぜつ)になった。こちらに通訳を求めてくるのだが、その話の内容はほとんどが駄洒落(だ じゃ れ)か内輪話で、どのように通訳しても台湾人には伝わらない。日本語のできる台湾人女性はどう反応してよいかわからず、しきりにこちらに目配せしてくるが、当方にもいかんともしがたい。
◎「いかんともしがたい」?
まず「内輪話」は「通訳」できるのではないか。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です |
さらに言えば「日本語のできる台湾人女性はどう反応してよいかわからず、しきりにこちらに目配せしてくるが、当方にもいかんともしがたい」との説明も納得できない。
「駄洒落や内輪話は通訳しても伝わりませんよ。日本語が分かる台湾人女性が困っているので、もう少し話の内容を考えてもらえませんか」と助言すればいいではないか。それをせずに、後であれこれ不満を記事にする「東えびす」氏の姿勢の方に問題を感じる。
さらに続きを見ていく。
【東洋経済の記事】
テーブルには豪華な料理が並んでおり、台湾人は一つひとつ吟味して調理法などを議論していたが、日本人たちはあまり手をつけなかった。台湾料理に慣れていないのかと思って聞いてみると、「夜に酒を飲むとき、食べ物はつまみ程度でよい」という習慣だった。せっかく台湾まで来ているのに、その食事を味わうこともないのは惜しい。
宴もたけなわになった頃、日本人たちの会話ではしきりにカラオケが話題となり、「さあ、行くぞ」という雰囲気が満ちていた。台湾に行ったら、台湾料理と酒を食らい、その後はカラオケ。何だか30年前の台北を思い出し、時間が止まったような感覚になる。
◎結局、何が問題?
「60代の日本人男性3人」について「東えびす」氏はあれこれと不満を述べるが、特に目立った問題は見当たらない。
(1)「日本でたばこを吸う場所がいかに少なくなったか」を力説した
(2)「駄洒落」や「内輪話」を通訳するように求めてきた
(3)出された台湾料理にあまり手を付けなかった
(4)食事の後にカラオケを楽しんだ
「東えびす」氏の好みではないかもしれないが、「60代の日本人男性3人」の「発言や振る舞い」はごく普通だ。
これを踏まえて、記事の最後の段落を見ていこう。
【東洋経済の記事】
別にこの日本人男性たちを批判するつもりはないが、ステレオタイプの日本人は久しぶりに見た。国際社会を生きる今の若者たちには、こうした世代を反面教師とし、海外での発言や振る舞いに十分注意を払ってほしい。(東えびす)
◎偏見では?
「別にこの日本人男性たちを批判するつもりはないが」という説明がまずおかしい。どう見ても「この日本人男性たちを批判」している。
「あなたはステレオタイプの日本人で、知っておくべき他国の事情をよく知らないんですね。今の若者には、あなたを反面教師にしてほしいです。でも、これはあなたへの批判ではありませんよ」と言われたら「東えびす」氏はどう感じるのか。「確かに批判ではないな」と納得できるのか。
問題はそれだけではない。「60代の日本人男性3人」と接した経験から「こうした世代を反面教師とし、海外での発言や振る舞いに十分注意を払ってほしい」と「世代」全体に話を広げるのは飛躍が過ぎる。
仮に「東えびす」氏が接した「60代の日本人男性3人」に問題があるとしても、そこから「こうした世代」に問題があると結論付けるのは早計だ。サンプル数が少な過ぎる。この手の主張は「偏見」になりやすいので注意が必要だ。「世代」全体を「反面教師」とすべきだと主張するのならば、統計的に有意な根拠が要る。
「東えびす」氏に「少数異見」の筆者を任せ続けるべきか、東洋経済の編集部はよく検討すべきだ。
※今回取り上げた記事「少数異見~海外体験を楽しめない 内向きなシニア男性」
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018100600
※記事の評価はE(大いに問題あり)。
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