2018年8月7日火曜日

説得力欠く日経ビジネス「四半期決算が会社をダメにする」

日経ビジネス2018年8月6・13日号に金田信一郎編集委員が書いた「PROLOGUE ニュースを突く~四半期決算が会社をダメにする」という記事は説得力に欠ける内容だった。問題点は主に2つ。記事を見ながら具体的に指摘してみたい。
原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

上場企業の四半期決算が連日、発表されている。しかし、どれだけの人が注目しているだろうか。その裏で、経営トップから社員まで、組織全体に膨大な負荷とストレスがかかっている。

著名投資家のウォーレン・バフェット氏が、四半期決算の利益見通しを廃止すべきだと主張している。

「短期志向は経済に有害(Short-Termism Is Harming the Economy)」と題し、銀行家とともに米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿した。

「長期的な戦略、成長、持続可能性を犠牲にし、短期的な利益に不健全に注力させる」

両氏は、開示自体は否定していない。だが、3カ月という短期では、商品価格や株価、天候といった要因に大きく影響されると強調する。つまり、経営者が業績を確実に上昇させるには、あまりにも期間が短すぎるわけだ。



◎「利益見通しを廃止」ならば…

まず細かい点を1つ。「両氏」で受けるならば、「銀行家」の氏名も出した方がいい。

本題に入ろう。記事によれば「ウォーレン・バフェット氏」は「四半期決算の利益見通しを廃止すべきだと主張している」に過ぎない。「開示自体は否定していない」は「(利益見通しの)開示自体は否定していない」とも取れるので分かりにくいが、おそらく「(実績の)開示自体は否定していない」と金田編集委員は言いたいのだろう。

バフェット氏」の主張を基にするのならば「四半期決算の利益見通し」の是非を論じるべきだ。しかし、金田編集委員は「四半期決算」自体を俎上に載せてしまう。これが第一の問題だ。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経ビジネスの記事】

バフェット氏はなぜ今、こうした発言を始めたのか。実は、彼が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが、2018年1~3月期の四半期決算で赤字に転落した。1月から米会計基準が変更され、保有株の評価損を損益計算書に計上することになった。その影響で、11億ドルを超える純損失に陥った。

世界的な投資会社のトップをしても、わずか1四半期の業績悪化に、黙っていられなくなったのだろう。しかも、その数字は、経営者としてコントロール不能なほどの激しい動きをする。

この問題提起から推測できるのは、多くの上場企業経営者も四半期決算の数字に敏感になっていて、強いプレッシャーを感じているということだ。

3カ月という期間で、会社を本質的に成長させるような戦略を打って、その結果を出すことは至難の業だ。それが経営者に重くのしかかり、現場にも大きな影響を及ぼしていく。

イノベーション(技術革新)を起こすような研究開発や、顧客サービスを極めるような投資に打って出ると、逆に目先の決算にはマイナスに効きかねない。こうした施策は中止か廃止して、人員削減やコストカットに乗り出せば、利益はかさ上げされる

短期で「利益を作る」という作業は、一旦始めてしまうと、止めることが難しい。経営者にとっては、号令さえかければ済む。だが、現場は確実に疲弊していく。その結末は、東芝による決算数字の改ざんを例に引くまでもなく、「利益のねつ造」など、不正や不祥事につながっていく。

バフェット氏は、短期利益のプレッシャーが一因となり、過去20年で米国の公開企業が減少したと指摘する。欧州では四半期決算が企業を短期志向に陥れ、事務負担も重いとして廃止の流れにある。英国は14年、フランスは15年に四半期決算の義務を撤廃している。


◎「四半期」と「半期」そんなに違う?

四半期決算は「事務負担も重い」のは分かる。ただ、それ以外の解説については「半期や1年でも同じでは?」と思ってしまう。

3カ月という期間で、会社を本質的に成長させるような戦略を打って、その結果を出すことは至難の業」だとは言える。だが「半年や1年ならば難しくない」となる訳ではない。基本的には同じだ。

人員削減やコストカットに乗り出せば、利益はかさ上げされる」というのは半期や1年でも事情は同じだ。金田編集委員の間には「四半期=短期」「半期=短期ではない」との認識があるのかもしれないが、そこに本質的な差はない。

明確に線を引くのは難しいが「会社を本質的に成長させるような戦略を打って、その結果を出すこと」ができるまでの時間を十分に取るとしたら4~5年ぐらいか。

「短期主義に陥るのは良くないから決算の公表は5年に1度にすべきだ」と金田編集委員が主張するのならば、賛成はしないが整合性の問題は感じない。しかし「短期主義に陥らないように、四半期決算をやめて半期ごとにしよう」と言われると、「大差ないでしょ」とツッコミを入れたくなる。


※今回取り上げた記事「PROLOGUE ニュースを突く~四半期決算が会社をダメにする
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/092900002/080100166/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。金田信一郎編集委員への評価はCを維持する。金田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

悪くないが気になる点も…日経ビジネス特集「石油再編の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_17.html

日経ビジネス「石油再編の果て」の回答が映す本物の変化
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_21.html

日経ビジネス金田信一郎編集委員の記事に感じる説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_3.html

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