2018年8月24日金曜日

業者寄りの日経「君たちはお金をどう生かすか」を信じるな!

23日の日本経済新聞朝刊金融面に載った「君たちはお金をどう生かすか(3)ふやす アプリで手軽、こつこつと」という記事は、前回に続いて問題が多かった。今回も金融業界の利益代弁者が書いているとしか思えない内容になっている。
天草灘(熊本県天草市)※写真と本文は無関係です

まず記事の最初の段落に注文を付けたい。

【日経の記事】

6月、霞が関の合同庁舎。「皆さん、どのような投資に興味がありますか」。大学生で構成する学生投資連合と金融庁が意見交換会を開いた。投資と資産形成をテーマに、東大や一橋大、慶応大など駆けつけた学生は50人ほど。「バブルの頃は高収益を狙う個別株投資が主流。今はリスク分散を意識した指数連動型の運用が多い」。金融庁幹部は、学生の堅実ぶりに驚く


◎問いと答えが合ってる?

皆さん、どのような投資に興味がありますか」という問いに対し、学生側は「バブル期と今の運用の違い」を説明している。これでは問いと答えが噛み合っていない。

指数連動型の運用」に「興味」があるとの趣旨だと解釈して読み進めると「金融庁幹部は、学生の堅実ぶりに驚く」と出てくる。「株式でのパッシブ運用に興味がある大学生」に対して「堅実ぶりに驚く」のも解せない。むしろ「積極的にリスクを取りに行く大学生」と評していいのではないか。圧倒的多数の大学生は株式での運用自体を考えていない気がする。

問題が大きいくだりに入ろう。

【日経の記事】 

損をするのが怖い、資金が足りない、どうやって始めればいいか分からない――。そんな若者が投資のハードルを越えるのに、スマートフォン(スマホ)の少額投資や自動貯蓄アプリなどの手軽さが一役買っている

猶本恵利香さん(31)は将来の目的ごとに貯蓄と投資を分け、アプリで管理している。貯蓄に使うのはネストエッグ(東京・千代田)の自動預金アプリ「フィンビー」。毎日100円の積立預金に加え、3歳の息子の教育資金のために、毎週子供の体重に相当する金額を充てる。12.3キロなら123円、といった具合だ。「子供の成長を感じながら蓄えられる。18歳になるまでに300万円ためたい」という。


◎この「アプリ」に意味ある?

まず「自動預金アプリ『フィンビー』」は「若者が投資のハードルを越えるのに」「一役買っている」のか。「自動預金アプリ」をいくら使っても「投資のハードル」は超えられそうもない(ここでは、預金は投資ではないと考える)。

さらに言えば、「フィンビー」を使う人の気が知れない。これは「貯金元口座」から「貯金先口座」に資金を移す仕組みだ。管理が煩雑になるだけだ。

「フィンビー」のサイトには「みずほ銀行と連携されている場合、finbeeでの貯金は、一旦『仮貯金』という形でfinbee上にバーチャルに積立がなされます。貯金元口座から貯金先口座への実際の資金移動は、finbeeの『振替する』*より、手動で振替いただく必要があります」と書いてある。

つまり「自動預金アプリ」とは言い難い。「あなたが決めたルールで預金すべき額は計算してあげますよ。その金額をあなたが『手動』で『振替』してくださいね」との趣旨だろう。そんな手間がかかるのならば、アプリに頼る意味がない。

記事では「海外への旅費や子供の教育費、そして老後の資金。使い道によって封筒を分けるように、スマートにお金を管理する若者が増えている」とも書いていた。だが、「使い道によって」口座を分けて管理するのが得策とは思えない。

まず、管理が大変だ。「海外への旅費」「子供の教育費」「老後の資金」とこれだけで3つの口座が要る。しかも厳密に守ろうとすると不都合が生じる。本来ならば、「子供の教育費」が足りないときは「海外への旅費」用の口座から持ってくれば事足りる。しかし、厳密に分けて管理する場合、口座間の資金移動ができないので高い金利を払って借金をしたりする必要が出てくる。

「そんな時は他の口座のカネを使うよ」という話であれば、「使い道」ごとに「お金を管理」しているのか怪しくなってくる。

最後に「おつり投資」を取り上げたくだりを見ていこう。

【日経の記事】

子供のための安定的な貯蓄とは別に猶本さんが資産形成に使うのが「おつり投資」のアプリ、「マメタス」だ。クレジットカードや電子マネーで買い物をする際、あらかじめ設定した金額から購入金額を差し引いた数十~数百円を、おつりとみなして積み立てる。

マメタスはウェルスナビ(東京・渋谷)が運用する。6つの質問から利用者の投資性向を割り出し、その人に合った投資法を自動で指南する。投資先は国内外のETFだ。


◎「おつり投資」は費用が高すぎる

ウェルスナビのサイトによると、預かり資産額に対して年間1.0%(税別)の手数料がかかる(資産額3000万円まで)。投資に際しては「経費率が年率0.10%~0.14%(2017年8月現在)のETFを対象としている」ので、この費用も間接的に負担する。

有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です
「おつりと見なす額」を計算してもらうことに大した意味はない。それに1%超の手数料を払って運用する。明らかに愚かな選択だ。ETFに自分で投資すれば1%分の経費を払わずに済む。

「おつり見なし額の計算」「ETFの組み合わせ提案」「リバランス」。これに毎年1%の手数料を払う価値があるだろうか。資産額1000万円ならば10万円だ。せっかくETFという低コストの投資対象を選んでいるのに、それを台無しにしてしまう。

ウェルスナビを前向きに紹介している記事は、信用するに値しない。この記事もその1つだ。


※今回取り上げた記事「君たちはお金をどう生かすか(3)ふやす アプリで手軽、こつこつと
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180823&ng=DGKKZO34385250R20C18A8EE9000


※連載全体の評価はD(問題あり)。水戸部友美記者、広瀬洋平記者、南毅郎記者、須賀恭平記者、高見浩輔記者、佐藤初姫記者への評価はDで確定させる。福井環記者は暫定でDとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「借金のススメ」が罪深い日経「君たちはお金をどう生かすか」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_22.html

「昔」との比較に難あり 日経「君たちはお金をどう生かすか」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_78.html


※水戸部友美記者と広瀬洋平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「マネー凍結懸念」ある? 日経「認知症患者、資産200兆円に」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/200.html


※南毅郎記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「急成長 シェア経済」で藤川衛・南毅郎記者に助言
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_25.html


※須賀恭平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html


※高見浩輔記者については以下の投稿も参照してほしい。

「損保市場は長らく鎖国状態」? 日経「真相深層」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_13.html

説明不足が目立つ日経 高見浩輔記者の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_15.html

日経「上がらない物価 世界を覆う謎」の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_25.html


※佐藤初姫記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

保険料抜きで就業不能保険の実力探る日経 佐藤初姫記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_17.html

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