観世音寺(福岡県太宰府市)※写真と本文は無関係です |
【日経への問い合わせ】
日本経済新聞社 秋田浩之様
6日朝刊オピニオン面の「Deep Insight~中ロの枢軸に急所あり」という記事についてお尋ねします。記事では中国の「氷上のシルクロード」構想に触れた上で「オホーツク海はロシアにとり、安全保障上、決して他国に触られたくない聖域だ。国防の命綱ともいえる戦略核ミサイル搭載の原子力潜水艦が、この海には配備されている」と解説しています。この説明は正しいのでしょうか。
「オホーツク海」とは「シベリア・カムチャツカ半島・千島列島・北海道・サハリンによって囲まれた海域」(大辞林)です。ここを「他国」に触らせないようにするためには北海道を押さえる必要があります。しかし、ロシアは北海道の領有権を主張してはいません。オホーツク海では海上自衛隊もP3C哨戒機などを使って活動しています。
オホーツク海がロシアにとって「決して他国に触られたくない聖域」であれば、自衛隊への攻撃が起きても不思議ではありません。少なくとも激しい抗議があるはずです。なのに、そうした事態には至っていないようです。
「オホーツク海はロシアにとり、安全保障上、決して他国に触られたくない聖域」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
今回の記事に関して、もう1つ指摘しておきます。気になったのは以下のくだりです。
「中ロの協調を優先し、プーチン政権は表向き、北極開発でも連携する意向を示してはいる。しかし、内部に通じた外交筋は『氷上シルクロード構想をきっかけに、ロシア軍内で一帯一路への脅威感が高まっている』という」
この説明を信じれば「氷上シルクロード構想」が出てくるまでは「一帯一路」への「脅威感」は高くなかったはずです。これは解せません。「一帯一路」のシルクロード経済帯はロシアの首都モスクワを含んでいます。百歩譲ってオホーツク海がロシアにとっての「決して他国に触られたくない聖域」だとしても、モスクワ以上の重要性があるとは思えません。
「一帯一路」のシルクロード経済帯にモスクワが入っていても気にならないのに、「氷上シルクロード構想」がオホーツク海を含むことに「脅威感」を抱くのは不自然です。「内部に通じた外交筋」の「氷上シルクロード構想をきっかけに、ロシア軍内で一帯一路への脅威感が高まっている」という発言に触れて、秋田様は何の疑問も抱かなかったのですか。
問い合わせは以上です。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。
◇ ◇ ◇
「オホーツク海はロシアにとり、安全保障上、絶対に優位を保ちたい海域だ」などと書けば問題はないのに「決して他国に触られたくない聖域」などと書いてしまうから、おかしな話になる。説明下手なのか地理的な関係がよく分かっていないのかは分からないが…。
ついでに、記事の終盤にもツッコミを入れておきたい。
【日経の記事】
日米欧はこうした中ロの急所を突き、枢軸の勢いに歯止めをかけるべきだ。それが、自由で開かれた現秩序を守ることにつながる。では、どうすればよいか。
いちばん単純な策は中ロへの外交圧力を強め、枢軸の機能を弱めるというものだ。だが、両大国を封じ込めるのは事実上、無理であり、逆に結束を強めてしまう危険もある。
だとすれば、もうひとつの選択肢は中ロの亀裂を利用し、いずれかをこちら側に引き寄せるという策だ。現実には、強大な巨象である中国より、その中国に不安を抱くロシアの方が誘導しやすいだろう。
その意味で、安倍晋三首相が21回の会談を重ね、プーチン氏と関係を保とうとしたり、トランプ米大統領が今月16日、プーチン氏と初の本格会談を開いたりするのは、必ずしも誤りではない。
ただ、心配なのはロシアをこちら側に引き込むどころか、こちらがロシア側に歩み寄ってしまう危険だ。クリミア併合や米欧への選挙介入をうやむやにしたままロシアと和解したら、大きな禍根を残してしまう。
そうなれば、世界各地で強権勢力の台頭が加速しかねない。特に、米ロ修復を急ぐトランプ氏には、そんな不安を禁じ得ない。
◎「ロシアの方が誘導しやすい」?
「では、どうすればよいか」に対する秋田氏の答えは、ロシアを「こちら側に引き寄せる」だ。しかし「クリミア併合や米欧への選挙介入をうやむやにしたままロシアと和解したら、大きな禍根を残してしまう」という。ならば「クリミア併合や米欧への選挙介入」の問題を解決した上で、ロシアを「こちら側に引き寄せる」ことになる。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です |
「クリミア併合」については、ウクライナにクリミアを返還させてからロシアを「こちら側に引き寄せる」のか。非常に難しそうだ。それこそ、実現のためには「どうすればよいか」と秋田氏に問いたくなる。
「現実には、強大な巨象である中国より、その中国に不安を抱くロシアの方が誘導しやすいだろう」と秋田氏は言うが、「クリミア併合」問題の解決を前提とするならば、ロシアよりも「強大な巨象である中国」の方がまだ「誘導しやすい」と思える。
繰り返しになるが、「オホーツク海はロシアにとり、安全保障上、決して他国に触られたくない聖域」と秋田氏は書いていた。「クリミア」の重要性は「オホーツク海」より低いと見ているのだろうか。
結局、秋田氏の分析は参考にすべきでないと言うほかない。
追記)結局、回答はなかった。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~中ロの枢軸に急所あり」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180706&ng=DGKKZO32661660V00C18A7TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はDを維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html
「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html
「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html
「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html
話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html
ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html
中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html
「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html
「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html
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