2018年6月22日金曜日

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏

FACTAは元日本経済新聞編集委員であるジャーナリストの大西康之氏がお気に入りのようだ。7月号でも記事を任せている。だが、どう考えても問題の多い書き手にしか見えない。7月号の「就活生がソッポを向く『経団連企業』」という記事では「まともに事実確認をしていないのでは?」と思える記述が目立つ。FACTAには、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

7月号の「就活生がソッポを向く『経団連企業』」という記事についてお尋ねします。記事では最初の段落で以下のように記しています。

日立製作所会長の中西宏明が5月31日、経団連会長に就任した。翌日の6月1日は経団連が定める就職活動の『解禁日』。しかし調査会社のデータによると1カ月前の5月1日時点で4割強の学生が『内定』を得ていた。学生たちの行き先は外資系やベンチャー。つまり就職協定に縛られない『非経団連企業』だ。キヤノン会長の御手洗冨士夫が会長になった2006年以降、経団連の影響力低下は目を覆わんばかりだが、ついに学生たちにもソッポを向かれた

この後、「グーグルの日本オフィス」の恵まれた環境を紹介した後で大西様は以下のように解説します。

経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円。理系の優秀な人材は軒並みグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった米IT大手がさらっていく。株式時価総額で米国勢を追撃するテンセント、アリババといった中国IT大手も日本でインターンシップを始めており、こちらを目指す学生もいる

まず「外資系やベンチャー非経団連企業」という認識は正しいのでしょうか。経団連の2018年4月1日時点の企業会員一覧を見ると、グーグルの日本法人であるグーグル合同会社が入っています。他にも、ゴールドマンサックス証券、GEジャパン、JPモルガン証券、ドイツ証券、日本ヒューレット・パッカードなど「外資系」と思える企業名が多く並んでいます。ここで1つ目の質問です。

(1)「外資系」を「就職協定に縛られない『非経団連企業』」とする説明は誤りではありませんか。記事では、グーグル合同会社を「外資系の非経団連企業」として扱っていますが、事実に反すると思えます。


次に移りましょう。記事ではグーグル合同会社に関して「20代、30代が大半に見える彼らの平均年収が1260万円(「平均年収.JP」)」と記した上で「経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円。理系の優秀な人材は軒並みグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった米IT大手がさらっていく」と解説しています。

この説明からは、グーグルに新卒で入った人の収入は500万円を大きく上回ると判断できます。ですが、既に見てきたようにグーグル合同会社は「経団連加盟企業」です。また、常識的に考えてボストンコンサルティンググループ、ゴールドマンサックス証券などの「経団連加盟企業」では、入社1年目の年収が500万円を超えそうです。ここで2つ目の質問です。

(2)「経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円」との説明は誤りではありませんか。新卒でも年収500万円以上を狙える「経団連加盟企業」は何社もあるはずです。

次は以下のくだりについてです。

優秀な学生の間で、米中IT大手の次に人気なのが、日本のベンチャーである。日立製作所から内定をもらった、ある理系の東大生は『本命はソフトバンク』と語った。ソフトバンクは15年から1年を通じていつでも応募を受け付ける『通年採用』を導入した。その結果、従来、日立、東芝といった経団連銘柄の電機大手に流れていたAI(人工知能)などに興味を持つ人材が、ソフトバンクを選ぶようになった

ここでは再び「外資系やベンチャー非経団連企業」との認識が正しいのかとの問題に戻ります。「外資系」については既に論じました。ここでは「ベンチャー」に絞って考えましょう。大西様が取り上げた「ベンチャー」はソフトバンク(記事で言うソフトバンクとはソフトバンクグループを指すとの前提で話を進めます)です。「歴史もそこそこ長く大企業でもあるソフトバンクをベンチャーと言えのるか」との疑問は残りますが、ここでは論じません。問題はソフトバンクが「非経団連企業」かどうかです。会員企業一覧にはソフトバンクグループの名前が載っています。最後に3つ目の質問です。

(3)「ベンチャー」を「就職協定に縛られない『非経団連企業』」とする説明は誤りではありませんか。記事では、ソフトバンクを「日本のベンチャー」の1社として紹介していますが、同社は「経団連企業」でもあるはずです。

付け加えると、ソフトバンクが「通年採用」を導入したために「従来、日立、東芝といった経団連銘柄の電機大手に流れていたAI(人工知能)などに興味を持つ人材が、ソフトバンクを選ぶようになった」との説明も理解に苦しみました。
佐世保駅(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

AI(人工知能)などに興味を持つ人材」にとってソフトバンクが魅力的な企業であれば、通年採用であろうがなかろうが、ソフトバンクを選ぶのではありませんか。なぜ「通年採用」が決め手になるのか、記事からは判断できません。

質問は以上です。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

また、以前に「東芝」に関するお願いをしましたが、全く実現していないので改めて同じ内容で送っておきます。


<お願い>

せっかくの機会ですので、別件で要望を出しておきます。大西様はFACTA2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定しました。

現状では「経営破綻」の可能性は非常に低くなっていると思えます。17年7月号での分析に問題はなかったのか改めてFACTAで取り上げてもらえませんか。もちろん「東芝の経営破綻は近い」との見方でも構いません。仮に「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定したのは間違いだったと感じているのならば、どこで間違えたのかを振り返ってください。

間違いだったとしても「東芝は経営破綻する」と断定したことを責めるつもりはありません。思い切ってリスクを取った点をむしろ評価したいくらいです。しかし、行き着く先は「東芝の経営破綻だ」と言い切ったからには、この問題をしっかり総括してほしいのです。FACTAの編集に責任を持つ皆様にも、この件を考えていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「就活生がソッポを向く『経団連企業』
https://facta.co.jp/article/201807035.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

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