宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です |
当該部分は以下のようになっている。
【日経の記事】
日産コンツェルンとソフトバンクグループについてさらに言うなら、両方とも「範囲の経済」に重心を置く点が共通する。孫氏の場合は「エコシステム」や「プラットフォーマー」という手法がそうだ。「規模の経済」とは違い、買収する1社1社の現在の企業規模には意味はない。重要なのは潜在性と、エコシステム全体としての多様性や顧客の誘因力だ。
だから、今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう。例えば、規模の経済に属する武田薬品工業が7兆円の企業買収を決めた時は市場への影響力がわかりやすかった。だがソフトバンクグループとサウジのファンドがエコシステムの強化と称して3兆円の投資をしても、影響はわかりにくい。独禁当局も把握しにくいはずである。
◎「規模の経済」そのものでは?
「プラットフォーマー」について日経では「第三者がビジネスを行うための基盤として利用するソフトウエアやアプリケーションなどを構築・提供・運営する事業者」と4月27日の記事で解説している。「日本ではゲーム専用機時代のソニーや任天堂が該当する」とも述べている。だとしたら、どう考えても「規模の経済」の話だと思える。ゲーム機がたくさん売れれば、そのゲーム機向けにゲームソフトを開発しようという企業も増えてくる。「プラットフォーマー」は独占や寡占を生みやすい存在とも言える。
しかし、中山氏によると「ソフトバンクグループ」は「『プラットフォーマー』という手法」を採用している点で「規模の経済」ではなく「範囲の経済」に重きを置いていると映るようだ。アマゾンでもフェイスブックでもいいが、「規模の経済」と一線を画して成長してきた「プラットフォーマー」など存在するのか。
ソフトバンクグループも携帯キャリアという一種の「プラットフォーマー」として米国でスプリントを買収し、Tモバイルも飲み込もうとしていた。結局うまくいかなかったが、これはソフトバンクグループが「規模の経済」を重視していた表れではないのか。
さらに言えば「今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう」という説明も説得力に欠ける。「武田薬品工業」と「ソフトバンクグループとサウジのファンド」を比較すれば、確かに後者の方が「影響はわかりにくい」だろう。だが、それは出資先が多いからではないのか。
ならば、個別の出資案件を細かく見て、それぞれの市場への支配度を測れば済む。「市場支配力の計測方法」を変える必要はない。チェックすべき件数が増えると「計測方法」が変わると考える根拠が記事からは見えてこない。
「分かりにくいのは見るべき出資先が多いからではない。計測方法も変わらざるを得ない」と中山氏が確信しているのならば、その理由を読者にきちんと示すべきだ。記事ではそれができていない。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
注目すべきは、米国のグーグルやアップル、アマゾン・ドット・コム、中国のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)も同様の世界を歩んでいる点だ。特にアリババとテンセントは17年に出資した企業の数がそれぞれ40社、80社に達し、テンセントは13年以降の累計で投資先が300社に迫ったという。
こうした投資手法には「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」「巨大資本で競争相手を締め出している」などの指摘がある。だが、現在の独禁法や関連法では新興グループの影響力の増大に抑止力は働かせにくい。
◎説明になってる?
上記のくだりはさらに分かりにくい。「アリババとテンセントは17年に出資した企業の数がそれぞれ40社、80社に達し、テンセントは13年以降の累計で投資先が300社に迫った」としても、それだけでは「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」「巨大資本で競争相手を締め出している」といった指摘はできない。
南蔵院(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です |
「多くの企業に出資すると赤字企業の価値をむやみに吊り上げてしまう、あるいは競争相手を締め出してしまう」と言えるわけではない。例えば、ソフトバンクグループがIT企業300社に出資したとしても、ドコモやKDDIを市場から締め出す効果は期待しにくい。
また、「赤字企業の価値をむやみにつり上げている」かどうかは出資した会社の数では決まらない。個別の案件を見ていく必要がある。それに、赤字企業に対して「価値をむやみにつり上げて」出資すれば、損をするのは「アリババとテンセント」だ。勝手にやらせておけばいいのではないか。仮に、赤字企業を蘇らせて投資から十分なリターンを得るのであれば「価値をむやみにつり上げている」とは言えなくなる。
さらに、記事の結論部分を見ていこう。
【日経の記事】
「デジタル資本主義」の著書がある野村マネジメント・スクールの森健上級研究員は「独禁法を超越しつつある巨大企業が誕生している点がまだ意外に認識されていない」と話す。IT企業には00年に分割論が高まった米マイクロソフトもあるが、同社はどちらかといえば規模の経済の住人だった。事情は大きく異なっている。
世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長は「テクノロジー・ガバナンス(技術統治)」の必要性を訴える。企業が握りうる個人情報の所在や取引市場を第三者機関に委ねるなどして安全性を高める一方、「IT企業の成長を阻害しない形で、将来起こりうる独占に対するガバナンスを考えておく必要がある」と話す。
エコシステムという言葉の定義はまだ曖昧だ。だが、IT企業の存在感が増せば増すほど、過去のコンツェルンの時代と同様に競争政策の整備や見直しが進むのは確実だ。独占を測るものさしは大きく形を変えることだろう。
◎「独占を測るものさし」はどう変わる?
「今後大きく変わるのは企業による市場支配力の計測方法だろう」と述べた後に、あれこれと書いて、最後は「独占を測るものさしは大きく形を変えることだろう」と同じような説明で締めている。そして、どう「形を変える」のかは自分の見方さえ示していない。これでは困る。
「独禁法を超越しつつある巨大企業」「将来起こりうる独占に対するガバナンス」といった抽象的な文言は出てくるが、具体的にどういう問題が起きてくるのかは教えてくれない。「企業が握りうる個人情報の所在や取引市場を第三者機関に委ねるなどして安全性を高める」といった記述から判断すると、「個人情報」の独占が問題になると言いたのかもしれない。しかし、様々な企業が個人情報を抱えているのに、将来は「独占」が起きるとも考えにくい。
「取引市場」に至っては従来の「独占を測るものさし」で判断できそうだ。結局、「独占を測るものさしは大きく形を変える」と思える材料はないし、どう変わりそうなのかも見えてこない。中山氏にも具体的なイメージはないのだろう。その辺りの苦しさが伝わってくる記事だった。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~ITコンツェルンの時代」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180601&ng=DGKKZO31212570R30C18A5TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。
日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html
三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html
「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html
「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html
日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html
ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html
「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html
シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html
欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html
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