2018年5月3日木曜日

日経ビジネス金田信一郎編集委員の記事に感じる説明不足

日経ビジネス編集部の中で、金田信一郎編集委員を期待できる書き手として評価している。独自の視点で物事を分析して読者に届けようという意思を感じるし、それを形にするための基礎的な能力もありそうだ。ただ、書き方に雑さが目立つ。「この説明できちんと読者に伝わるだろうか」との恐れを常に抱くことは、優れた書き手の条件と言える。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

金田編集委員はまだこの条件を満たしていない。どちらかと言うと「自分が分かっていることは読者も分かっているはずだ」との意識を感じる。4月30日号の「PROLOGUE ニュースを突く~日本ハムの『限界野球』」という記事にも、いくつか説明不足を感じた。

それらに関する問い合わせと回答を紹介したい。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 金田信一郎様

4月30日号の「PROLOGUE ニュースを突く~日本ハムの『限界野球』」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

それは、19世紀に野球が米国で生まれた原点をも思い起こさせる。『スポーツ国家アメリカ』の著者である慶応義塾大学教授の鈴木透は、自由放任で格差が広がる時代に、その反動として米国スポーツが生まれたと指摘する。『金満球団』が高額で選手を囲い込まないよう、均衡発展の仕組みで球界全体を盛り上げる。サラリーキャップやウェーバー(下位球団からのドラフト指名)は、選手やチームを均衡させる

ここからは、野球を含む「米国スポーツ」は「サラリーキャップやウェーバー」で「選手やチームを均衡」させてきたと読み取れます。しかし「大リーグ」では「サラリーキャップ」を採用していません。2003年からいわゆる贅沢税を導入していますが、チームの年俸総額に上限を設ける「サラリーキャップ」ではありません。

「大リーグを除く米国プロスポーツ」に関して「サラリーキャップやウェーバー(下位球団からのドラフト指名)は、選手やチームを均衡させる」と述べている可能性も検討しましたが、話の中心となるスポーツが野球なので無理があると思えます。

サラリーキャップ」に関する説明は誤りと考えてよいのでしょうか。控えめに言っても誤解を与える記述だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ついでで恐縮ですが、他にも気になった点があるので、私見を述べさせていただきます。記事では日ハムの新球場について以下のように記しています。

『実現すれば、米国でも見られない娯楽性を備えた球場になる』。在米スポーツ経営コンサルタントの鈴木友也はそう評する。完成予想図には、37ヘクタールが球場を中心に描かれ、ホテルや商業施設、バーベキュー場、温浴施設、親水公園、住宅と広がる。日ハムが手掛けるのはプロ野球関連施設だけで、残りは企業や自治体が整備していく

これだと例えば東京ドームと決定的な差はないと思えます。東京ドームもその周辺に「ホテルや商業施設、バーベキュー場、温浴施設、公園、住宅」があります。「米国でも見られない」と書いてあると「日本はもちろん米国でも見られない」との印象を抱いてしまいます。米国の事情は分かりませんが、記事を読む限りでは「回遊性を重視」したスタジアムを含め「これまでにない魅力を秘めている」ようには感じられません。

実際には「日本にないボールパーク」が誕生するのかもしれません。ただ、記事の説明からはその新しさが伝わってきませんでした。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

また、以下のくだりは解釈に迷いました。

だが、21世紀に入って米国は再び格差社会に揺れる。大リーグも今年、高年俸のFA選手とチームの交渉がまとまらず、契約が大幅に遅れる事態に陥った。個の専門性と権利が強まり、連携や全体最適を失いかけている

契約が大幅に遅れる事態」は「格差社会に揺れる」流れが大リーグにも波及してきた事例だと思われますが、契約の遅れと格差がどう関係するのか説明がありません。スポーツ報知は契約の遅れに関して「どの球団も、総年俸が規定を超えた場合にかかる贅沢(ぜいたく)税を支払いたくないため、大型契約に二の足を踏んでいる」と報じています。そうであれば、むしろ格差縮小に関係する動きと言えます。

個の専門性と権利が強まり、連携や全体最適を失いかけている」との記述も抽象的で何が言いたいのかよく分かりませんでした。FA選手の契約が遅れるとなぜ「連携や全体最適を失いかけている」と言えるのか説明が十分とは思えません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

ご購読ありがとうございます。

ご指摘を読ませていただき、内容を詰め込みすぎ、分かりにくい点があったかと思っております。

サラリーキャップにつきましては、19世紀に米国で生まれた野球、バスケットボール、アメリカンフットボールの中で生まれてきた制度として言及しました。自由放任と格差が広がる社会で、米スポーツが「理想」として配分と均衡を目指したという意味で書いております。確かに大リーグではサラリーキャップ導入に激論が続き、代替手段として贅沢税を課す方法をとっておりますが、米スポーツ界の「配分」という潮流の中で野放図に高給を支払う方法に制限を設けております。

球場についてですが、東京ドームも都心部にあることから周囲に様々な施設がある魅力的な球場ですが、球団とは別法人であり、周辺施設の売り上げが基本、球団に入りません。新球場は日本ハムが主導してボールパークを計画しているため、球場付帯設備の収入は球団に入り、それぞれの施設も連関していて、運営も柔軟に実施できるとみられます。また、キャンプ場や親水公園など、郊外ならではの魅力も多いと思います。

格差拡大ですが、中堅・ベテラン選手の高年俸が経営上の大きな負担となっていることを指します。なので、ご指摘いただいた通りで、その格差をすでに容認できない事態となり、そこで若手や海外選手獲得に戦略をかじを切る動きが強まり、FA契約が大きく遅れたと見られています。

選手が自身のポジションや使われ方まで限定して契約するなど、「個人」単位で自己最適を求めているので、選手間の連携やチームとしての機能、シーズン中の柔軟な戦術の変更などがやりにくい状態になっているのが現状だと思います。

確かに、ご指摘いただいたように、19世紀からの米スポーツの歴史や制度、新球場の計画など、多くの要素をコラム後半のわずかな行数で表現したため、理解しにくい点があったと思います。より分かりやすく読みやすい表現を追求していきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

回答としては問題ないと思える。金田編集委員の今後の記事に期待したい。


※今回取り上げた記事「PROLOGUE ニュースを突く~日本ハムの『限界野球』
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/092900002/042500150/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。金田信一郎編集委員への評価はCで確定とする。金田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

悪くないが気になる点も…日経ビジネス特集「石油再編の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_17.html

日経ビジネス「石油再編の果て」の回答が映す本物の変化
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_21.html

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