2018年4月25日水曜日

「覆る常識」を強引に描き出す日経1面「パンゲアの扉」

25日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識(3)少数言語の逆襲  画一より 多様性に磁力」という記事の問題点について、さらに指摘していく。やはり事例が苦しい。「覆る常識」に当てはまる事例がないのに、大きな変化が起きているように描いているのが痛々しい。
流川桜並木と菜の花(福岡県うきは市)
            ※写真と本文は無関係です

記事の後半部分を見ていこう。

【日経の記事】

19~20世紀、植民地政策を進めた欧米列強は支配の象徴として言語とともに自国の文化を染み渡らせた。コカ・コーラ、ハンバーガー、ジーンズ。米国はハリウッド映画に乗せて大衆文化を売り込んだ。だが、もはや世界がつながる手段も文化も大国主導のトップダウンによる一方通行ではない

「音や文字とは違う新しい言語手段としてパラダイムシフトを起こした」。上智大学の木村護郎クリストフ教授がこう指摘するのは万国共通語になった絵文字だ。日本発祥ながら「Emoji」として世界に広まり無数に生み出されている

 「Chief Emoji Officer」。仏石油大手トタルのプヤンネ最高経営責任者(CEO)の別称だ。ツイッターで発信する経営情報を絵文字をちりばめて説明する。スイスのプロテニスプレーヤー、フェデラー選手のある日のつぶやきは40以上の絵文字だけだった。


◎「絵文字」でいいのなら…

世界がつながる手段も文化も大国主導のトップダウンによる一方通行ではない」ことを示す事例として「日本発祥」の「Emoji」を持ち出しているのだろう。だが「なぜ今頃そんな話を」と思わずにはいられない。

世界がつながる手段も文化も大国主導のトップダウンによる一方通行」だった時代があったかどうか微妙だが、それが終わったとすれば最近ではないはずだ。「日本発祥」で世界に広がった文化としてはカラオケもあり、普及したのは20世紀の話だ。今、「絵文字」を持ち出して「大国主導のトップダウンによる一方通行」ではないと訴える意義があるのか。

次の事例も同じ問題を抱えている。

【日経の記事】

中東の伝統食が欧米の食卓を変えている。ひよこ豆をすり潰した「フムス」と呼ばれるペースト状の食品で英国の家庭の4割が冷蔵庫に常備。米国では消費増でひよこ豆の作付けが急激に伸びている。野菜に付けて食べるディップとして「持たざる国」の食文化が「持てる国」の健康志向の消費者をつかんでいる



◎新しい動きではないような…

持たざる国』の食文化が『持てる国』」で受け入れられるのが従来にはない動きならば「フムス」を取り上げるのも分かる。だが、よくある話ではないか。

プレミアホテル門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です
日本は「持てる国」に入るはずだが、以前から先進国以外の食文化をたくさん受け入れてきた。タコスはメキシコ料理だし、ケバブは中東の料理だ。挙げればキリがない。取材班としては、「世界がつながる手段も文化も大国主導のトップダウンによる一方通行」の時代が最近になって終わりを迎え、それを象徴する事例が「絵文字」や「フムス」と言いたいのかもしれない。だが、どう考えても無理がある。

記事の結論部分に移ろう。

【日経の記事】

米国のジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏は1999年の著書「レクサスとオリーブの木」で、強者主導で均一化が進むグローバル化は地域に根付く独自のアイデンティティーとのバランスが必要と指摘した

だがグローバリゼーションの舞台にあがる国や人々の幅がどんどん広がっていく21世紀では、どこからでも世界に影響を与える力が生まれ、広く深く溶け込んでいく。画一を超えて多様に彩られる世界にこそ、一つにつながる強い磁力が宿る。



◎何が言いたいのか分かりにくいが…

何が言いたいのか、かなり分かりにくい。「強者主導で均一化が進むグローバル化は地域に根付く独自のアイデンティティーとのバランスが必要と指摘した」の後を「だが」でつないでいるが、逆接になっている感じがしない。例えば「バランスが必要と指摘した。だが、バランスは崩れたままだ」といった流れならば分かりやすい。しかし、今回の記事では「独自のアイデンティティーとのバランス」とは関係が薄い方向へ話が移っている。

どこからでも世界に影響を与える力が生まれ、広く深く溶け込んでいく」のだとしたら、「強者主導で均一化が進むグローバル化」ではなくて「全員参加で均一化を進めるグローバル化」といったところか。これだと結局は「均一化」が進む。

なのに記事では「画一を超えて多様に彩られる世界にこそ、一つにつながる強い磁力が宿る」と結んでいる。「広く深く溶け込んでいく」としても、それぞれの地域で個性が生まれるといったことを言いたいのかもしれないが、何とも判断しにくい。

「強引に話をまとめために漠然とした分かりにくい結論になってしまった」と理解するのが正解だと思える。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識(3)少数言語の逆襲  画一より 多様性に磁力
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180425&ng=DGKKZO29809490V20C18A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「小が大を制す」が見当たらない日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

今度は「少数言語の逆襲」が苦しい日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html


※「パンゲアの扉~つながる世界」の以前の連載については以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

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