2018年4月2日月曜日

冒頭から矛盾あり 週刊ダイヤモンド「1億総転落 新・階級社会」

週刊ダイヤモンド4月7日号の特集「1億総転落 新・階級社会」は苦しい内容だった。取材班の問題意識は伝わってくるのだが、冒頭から説明に矛盾がある。
身延桜(妙法寺のしだれ桜、福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

格差や貧困の問題が放置されている間に、日本に新しい階級社会がやって来ていた! 身分が固定化し、誰もが今いる階級から滑り落ちる脅威にさらされている。「超人手不足」「就職氷河期」「日本人の横並び意識」──。本特集では、三つのキーワードの相関関係を読み解きながら、1億総転落の新・階級社会の実像に迫る。


◎「身分が固定化」されてるのなら…

身分が固定化し、誰もが今いる階級から滑り落ちる脅威にさらされている」という説明が謎だ。「誰もが今いる階級から滑り落ちる脅威にさらされている」のならば「身分は流動化している」と思える。

特集には以下の記述もある。

【ダイヤモンドの記事】

親の年収・学歴で子どもの学歴が決まるように、身分が世代を超えて継承されている。その一方で、勝ち組になることが約束されていたはずの大卒ブランドの神通力は消えうせた。

ほんの一握りの超富裕層を除けば、誰しも今いる階級(地位・生活レベル)から滑り落ちる脅威に晒されている


◎ここでも矛盾が…

身分が世代を超えて継承されている」のならば「今いる階級(地位・生活レベル)から滑り落ちる脅威」はないはずだ。「誰しも今いる階級(地位・生活レベル)から滑り落ちる脅威に晒されている」のならば、親とは異なる「階級」に属する人たちがたくさん出てきそうだが…。

特集では「新・階級社会」を「『現代版カースト』ともいえる世界」と捉え、以下の5階級に分けている。

(1)資本家階級(企業規模5人以上の経営者・役員)254万人(4.1%)
(2)新中間階級(管理職・専門職・上級事務職)1285万人(20.6%)
(3)労働者階級(単純事務職・販売職・サービス職・その他マニュアル労働者)2192万人(35.1%)
(4)旧中間階級(自営業者・家族従事者)806万人(12.9%)
(5)アンダークラス(非正規労働者)929万人(14.9%)

ピラミッドの中で(3)と(4)は同格となっている。

特集では「誰もが上昇できない階級社会とはどんな社会なのか」と問うている。しかし、上記の分類に従えば「上昇」は日常的に起きているはずだ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

例えば、食品スーパーに正社員として就職して売り場を任されると「販売職」となり「労働者階級」に属する。しばらく働いて店長になると管理職なので「新中間階級」に昇格だ。さらに出世して取締役になれば「企業規模5人以上の経営者・役員」となり「資本家階級」に辿り着く。

普通に会社に就職して順調に出世しただけの話で、特別な例ではない。なのになぜ「新・階級社会」を「『現代版カースト』ともいえる世界」と捉える必要があるのか。

また、最近の人手不足もあって非正規労働者を正社員化するというニュースも目立つ。その場合、「アンダークラス」から「労働者階級」への移動が起きる。なのに「誰もが上昇できない」と言い切っている。

5つの階級に付けた説明にも疑問が湧く。まず「資本家階級」は「一握りの富裕層」だとしている。しかし2015年の個人の平均年収は604万円で「一握りの富裕層」と言うほどでもない。しかも、「資本家階級」でも貧困率は4.2%ある。ここに属する人たちも「一握りの富裕層」なのか。

労働者階級」に付けた「なんちゃってホワイトカラー」という説明も理解に苦しむ。「単純事務職」は「なんちゃってホワイトカラー」なのか。普通に「ホワイトカラー」だと思える。

その他マニュアル労働者」には生産現場で働く人も含まれると思われる。その人たちは「ブルーカラー」ではなく「なんちゃってホワイトカラー」と見なすべきなのか。

旧中間階級」を「自営業者・家族従事者」としているのも引っかかる。特集には以下の説明があるからだ。

【ダイヤモンドの記事】

高度経済成長期の「1億総中流」の社会は崩れ去り、1980年代以降に格差は拡大し続けた。そうして形成されたのが、身分が固定化され、分厚い中間層(=中流)が下流に滑り落ちる「新・階級社会」である。


◎高度成長期の中流は「自営業者・家族従事者」だけ?

旧中間階級自営業者・家族従事者」で、高度成長期には「1億総中流」だったとすると、その「分厚い中間層(=中流)」は「自営業者・家族従事者」だったことになる。しかし、高度成長期には会社勤めの「中間層」も多かったのではないか。

記事では「富裕層はより豊かに、貧困層はより貧しく」とも書いているが、これも記事に付けたデータと矛盾する。

取材班が「一握りの富裕層」だとする「資本家階級」も、「最下層の“隷属民”」だとする「アンダークラス」も、2005年と15年の比較では平均年収が個人・世帯ともに減っている。5つの階級では「労働者階級」だけが収入を伸ばしている。

データに基づいて言うと「中間層の労働者階級は少し豊かに、それ以外は貧しく」といったところか。

これだけ色々と問題があるのは、自分たちの想定したストーリーに強引に当てはめて特集を作っているからだろう。その辺りはしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた特集「1億総転落 新・階級社会
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23142

※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通り。

浅島亮子副編集長:C→D
大矢博之記者:C→D
臼井真粧美副編集長:暫定C→暫定D
重石岳史記者:D据え置き
竹田幸平記者:暫定E→暫定D
山口圭介副編集長:F据え置き
野村聖子記者:暫定C→暫定D

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