2018年3月17日土曜日

地下鉄サリン事件当日の説明が雑過ぎる日経「春秋」

日本経済新聞の朝刊1面に載る「春秋」というコラムを任されるのは限られたベテラン記者だけだ。社内で筆力を認められた書き手と言ってもいい。その割には、問題のある記事も目立つ。17日の「春秋」では「23年前」の地下鉄サリン事件を振り返っている。しかし、何度読んでも、話の流れが理解できなかった。以下の記事に出てくる「まだ、まだ!」が何を意味するのか考えてみてほしい。
させぼシーサイドパーク(長崎県佐世保市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

23年前の3月19日から翌朝にかけ、東京・桜田門の警視庁で宿直勤務をしていた。事故や事件に備えて、記者室に交代で泊まり警戒する。19日は日曜日。静かなはずの首都は、宗教学者宅の爆破やオウム真理教本部への火炎瓶投げ込みといった騒ぎの中、ふけていった。

▼明けて20日は月曜日。緊急車両のサイレンの重奏に驚き消防に電話すると「日経さん、すぐ現場!」と怒鳴られた。地下鉄築地駅で煙が漂っているという。「了解です」と切ろうとするが「まだ、まだ!」。経験のない同時多発の事態だ。やがて、捜査1課長が会見で「サリン」と告げた。未曽有のテロが起きたのである。

▼教団による事件の裁判が今年1月に全て終わった。これを受け、死刑が確定した13人中7人が東京から各地の拘置所に移送されたという。死刑囚らはもはや証人として法廷に出ることもない。親族との面会や刑務官の負担も考慮したらしい。戦後史に深く刻印された事件である。報道に接し往時の震えや時の流れを思った。

▼むろん遺族の気持ちに区切りはつかない。死刑囚に会うことを望み、事件の風化を防ぐ手立ても求めている。加えて社会全体で何度も問い返さねばならぬ課題も残る。なぜ前途ある若者が教祖や教団に心酔し、重大な犯罪に走ったのか。ネットという見えないつながりが万能の昨今、新手のカルトの芽が出ぬとも限るまい。


◎色々と検討してみたが…

流れを整理してみよう。まず、筆者は「緊急車両のサイレンの重奏に驚き消防に電話する」。すると消防に「日経さん、すぐ現場!」と怒鳴られたらしい。その後に筆者が「了解です」と電話を切ろうとすると「まだ、まだ!」と消防から返ってくる。消防とのやり取りはここで終わりだ。

まず「日経さん、すぐ現場!」に2つの解釈が可能だ。

(1)「日経さん、大変なことが起きてるから、あなたもすぐに現場に向かった方がいいよ」

(2)「日経さん、大変なことが起きてて我々はすぐに現場に向かわなくちゃいけないから、あなたの相手をしている暇はないよ」

了解です」はいずれの解釈とも問題なくつながる。分からないのはその後だ。筆者が電話を切ろうとしているのに、消防は「まだ、まだ!」と止めに入っている。

(1)の解釈で行くと「現場は危険な状況だから、もう少し様子を見ろ」という意味で「まだ、まだ!」と伝えたようにも思える。だが、それでは「すぐ現場!」と一刻も早い現場行きを促したことと整合しない。

(2)の解釈で行くと、消防としては記者の相手をしている暇がないので、電話を切ろうとする筆者を引き留めて「まだ、まだ!」と伝える意味がない。

「築地駅以外にも『まだ、まだ』多くの駅で何かが起きてる」という意味の「まだ、まだ!」かなとも考えたが、日本語としては自然さに欠ける。それに、消防として電話で伝えたい情報が「まだ、まだ」ある時に「日経さん、すぐ現場!」と現場行きを急かすとも思えない。

あれこれ考えても、答えは出なかった。今回の「春秋」は説明が雑過ぎるのではないか。事件に関して「社会全体で何度も問い返さねばならぬ課題も残る」との考えに異論はない。ただ、その前に「日経の顔とも言える『春秋』の完成度がこの程度でいいのか」という課題もじっくり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「春秋」(2018年3月17日)
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180317&ng=DGKKZO28267340X10C18A3MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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