横浜ワールドポーターズ(横浜市)※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
異次元の領域に達したマネーは危うさをはらみながら増幅への回転を続けている。マネーの流れは人々の欲望や打算と響き合いながら膨れあがり、そこかしこできしみを広げる。女神の警告は届いているのか。
突然だった。5日午後3時すぎ、米ダウ工業株30種平均が急落、15分で下げ幅は700ドルを超えた。「損切りだ!」。シカゴ・オプション取引所のフロアは被害を食い止めたいトレーダーの怒号に包まれた。
金利の急上昇を起点とする変動率拡大を受け、コンピューターの自動取引が大量の売りを出した。1日の下げ幅は過去最大の1175ドルに達し、米国で1兆ドル(約110兆円)を超す株式時価総額が消えた。
◎どういう流れ?
上記の説明は流れが分かりにくい。「米ダウ工業株30種平均が急落、15分で下げ幅は700ドルを超えた」のが始まりだ。その後に「シカゴ・オプション取引所のフロアは被害を食い止めたいトレーダーの怒号に包まれた」という。なぜ「オプション取引所」なのか、どのオプションに関する「損切り」なのかの説明はない。
そして「金利の急上昇を起点とする変動率拡大を受け、コンピューターの自動取引が大量の売りを出した」結果、「1日の下げ幅は過去最大の1175ドルに達し」たらしい。
「シカゴ・オプション取引所のフロア」にいたトレーダーの「損切り」と「コンピューターの自動取引」がどう関連しているかも謎だ。VIX指数が関係するのかもしれないが、記事は何も教えてくれない。
今回の記事は「自動取引が下げを増幅させた」という話が柱になっているが、「シカゴ・オプション取引所のフロア」にいた「トレーダー」が重要な役割を果たしたのならば、かなり話が変わってくる。しかし、その辺りにも記事では触れていない。「コンピューターの自動取引が大量の売りを出した」のがオプション関連か株式現物かも不明だ(株式だとは思うが…)。
この後の説明はさらに解釈に迷った。
【日経の記事】
1987年の「ブラックマンデー」もプログラム取引が背景にあった。だが今やその規模は当時と桁違いだ。JPモルガン・チェースのマルコ・コラノビッチ氏によると、米国の株式運用資産の6割は機械的な運用で、10年前の2倍に増えた。人が執行に関わる売買は1割にすぎないという。
◎残りの3割は?
「米国の株式運用資産の6割は機械的な運用」で「人が執行に関わる売買は1割にすぎない」とすると、残りの3割は何なのか。
水天宮(東京都中央区)※写真と本文は無関係です |
しかも「機械的な運用」が何を指すのか謎だ。文脈的には「機械的な運用=コンピューターの自動取引」と理解したくなる。しかし、記事に付けたグラフを見るとよく分からなくなる。
「米国市場では機械的な運用が過半(株式運用資産に占める割合)」というタイトルが付いたグラフを見ると「コンピューター運用や指数連動型ファンド」が60%で「その他」が40%となっている。
記事を読んだ時は「米国の株式市場では売買の60%がコンピューターの自動取引」と理解した。しかし、グラフからは「売買」ではなく「資産残高」に関する比率で、しかも60%は「コンピューターの自動取引」を含むものの、それだけではないと取れる。
「機械的な運用」だからと言って「人が執行に関わらない」とは限らないのかもしれない。だが、説明が不十分なので謎は解けない。
付け加えると、ブラックマンデーの時と比べて「プログラム取引」の規模が「桁違い」だと言うのならば「当時」はどの程度の規模だったのか明示してほしい。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
空前の金融緩和はあふれんばかりのマネーを市場に流してきた。2006年からの10年間で世界の通貨供給量は8割増え、世界の運用資産は80兆ドル超と04年の2倍に達した。マネーの水たまりは国債をはじめ様々な資産の利回りを低下させ、息の長い投資に対する展望を見失わせた。
短期のサヤ取りの繰り返しに活路を見いだしたマネーは、速度と頻度を求めてコンピューターと結びつき「無機質なマネー」を増殖させた。アルゴリズムの高速売買が膨張に拍車をかける。処理能力は速いもので10億分の1秒。売買は人の手を離れていく。
だが近視眼的な売買は、ちょっとした潮目の変化にも一斉に反応する。米国から日本、欧州へと続いた自動取引の共振。乾いたまきに燃え移った炎のような勢いに市場は立ちすくんだ。
◎「息の長い投資に対する展望を見失わせた」?
上記の説明も納得できなかった。国債の利回りは低下したかもしれないが、株式はこれまで順調に利回りを確保してきた。「株式に長期投資すれば今後もそこそこ利回りが得られる」との「展望」は持てたのではないか。本当に最近の市場環境は「息の長い投資に対する展望を見失わせた」のか。
ついでに言うと「市場は立ちすくんだ」との説明も苦しい。売買の中心が「コンピューターの自動取引」になっているのならば、市場は「立ちすくんだ」りしない。どんな大きな暴落が起きようと、プログラムに従って瞬時に売買注文を出すはずだ。「市場関係者は立ちすくんだ」ならば分かるが…。
記事の終盤も見ていこう。
【日経の記事】
無機質マネーの奔流はあらゆる資産をのみ込む。17年6月26日、ニューヨーク金先物市場で、わずか1分間にフィンランドの金準備を上回る180万トロイオンス(約56トン)が取引された。誤発注とみられる売りに自動取引のマネーが群がり、売買が異様に増幅された。
米コロンビア大のスティグリッツ教授は自動取引の拡大を「変動率の上昇につながり、社会コストを増大させる」と警告した。低金利のぬるま湯で膨れあがった無機質なマネーは、緩和の「出口」を前に思わぬリスクをあらわにした。経済の実態から離れた膨張マネーがもたらすのは発展か、混沌か。市場は新たな問いをつきつけられている。
◎「フィンランドの金準備」で説明されても…
まず「わずか1分間にフィンランドの金準備を上回る180万トロイオンス(約56トン)が取引された」と言われても、その異常さがよく分からない。「フィンランドの金準備」が大きいのか小さいのかよく分からないからだ。例えば「通常の1カ月分に当たる取引がわずか1分間で~」といった比較なら、凄さを実感できる。
ついでに言うと、「つきつけられている」は「突き付けられている」と表記してほしかった。平仮名が続くと読みづらい。「膨れあがった」も「膨れ上がった」の方が個人的には読みやすい。
※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~広がるきしみ(1)自動取引『1秒に10億回』 膨張に拍車 暴発のリスク」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180213&ng=DGKKZO26811590S8A210C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。
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