2018年1月26日金曜日

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)が26日の朝刊オピニオン面に「Deep Insight~『DとR』が示す世界の転機」という苦しい内容の記事を書いている。梶原氏によると、かつての米国は中国を「地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった」 そうだ。本当だろうか。記事の最初の方を見てから考えたい。
にじの耳納の里(福岡県うきは市)の猫バス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

トランプ米大統領が26日、予定通り世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で演説すれば、「米国第一主義」を強調するのだろう。今週も太陽光パネルを対象にセーフガード(緊急輸入制限)を発動、中国企業から国内産業を守る姿勢を鮮明にしたばかりだ。

いらつく米国を見る度に、思い浮かぶグラフがある。「新興アジア」、つまりアジア全体から日本、シンガポール、香港、台湾、韓国などの先進国・地域を除いたアジアの国内総生産(GDP)が、2020年にも米国を抜く

国際通貨基金(IMF)によると、アジアのGDPが米国を一貫して超え始めたのは07年だ。10年には日本を除いても米国を抜いた。20年には米国が地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった新興国群が、束になれば米国を抜く。

08年のリーマン危機まで、米国は世界経済の「米一極集中」という立場を享受してきた。グラフは一人勝ちの時代が終わり、埋没していく米国の姿を象徴している。

トランプ氏も米国の人々も、このグラフをいまいましく見つめるに違いない。中国を筆頭とする新興アジアが、米企業の誘致や低賃金を背景にした市場シェアの拡大を通じ、米国内の雇用を奪った結果でもあるからだ。

◇   ◇   ◇

上記のくだりだけでも色々と問題がある。列挙してみたい。

◎その1~中国は「弱小国」と見られてた?

最も引っかかったのが「20年には米国が地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった新興国群が、束になれば米国を抜く」との記述だ。この「新興国群」には中国やインドも入る。「弱小国にしか見ていなかった」時期ははっきりしないが、国連安保理の常任理事国であり世界最大の人口を有する中国を米国が「地球の裏側の弱小国」としか見ていなかった時期が近年あっただろうか。


◎その2~そんな括りで見る?

トランプ氏も米国の人々も、このグラフをいまいましく見つめるに違いない」と梶原氏は言うが、「トランプ氏も米国の人々も」そんなグラフを見る機会はほとんどないだろう。「アジア全体から日本、シンガポール、香港、台湾、韓国などの先進国・地域を除いたアジアの国内総生産(GDP)」という括りはかなりマイナーだ。しかも米国を抜いたのでも今年抜くのでもなく「2020年にも米国を抜く」というだけだ。
陸上自衛隊 久留米駐屯地(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

米国でも一部には気にする人がいるかもしれないが「トランプ氏も米国の人々も、このグラフをいまいましく見つめるに違いない」と言われて頷く気にはなれない。中国のGDPが米国を抜くかどうかは「トランプ氏も米国の人々も」関心を持つと思うが…。


◎その3~2008年まで「米一極集中」?

08年のリーマン危機まで、米国は世界経済の『米一極集中』という立場を享受してきた」との説明も引っかかった。「08年のリーマン危機まで」米国が圧倒的な勢いで世界経済を引っ張ってきたのなら分かる。だが、日本の貿易額で見ても2004年には対中国が対米国を逆転している。07年までの日本の好況も中国経済の好調に支えられた面が大きい。

当時は「米国などの先進国の経済成長が鈍化しても、中国など新興国がけん引役になる」とのデカップリング論が広がった時期でもある。なのに「米一極集中」だったのか。仮にそうならば、根拠を示してほしかった。一般的な認識とはかけ離れているのではないか。

記事はこの後「DとR」を使った言葉遊びのような話が続くが、既に見てきたように記事には納得できない点が多く、梶原氏の分析を参考にする気にはなれなかった。

最後に、文章の作り方で梶原氏に細かい点を助言したい。今回の記事から2つ例を挙げる。

例1)20年には米国が地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった新興国群が、束になれば米国を抜く。

例2)そう捉えると、世界を驚かせた10年間で1.5兆ドルの「トランプ減税」の意味も分かりやすい。


例1では「米国が地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった」時期が「20年」のように見える。例2では「世界を驚かせた」期間が「10年間」だと理解したくなる。

以下に改善例を示しておく。

改善例1)米国が地球の裏側の弱小国にしか見ていなかった新興国群が、20年には束になれば米国を抜く。

改善例2)そう捉えると、世界を驚かせた「トランプ減税」(10年間で1.5兆ドル)の意味も分かりやすい。

方法は他にも色々とある。分かりやすい文になるよう工夫してほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『DとR』が示す世界の転機
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180126&ng=DGKKZO26138030V20C18A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

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