2018年1月5日金曜日

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り

日本経済新聞の正月企画「パンゲアの扉 つながる世界」が相変わらず苦しい。5日の朝刊1面に載った「(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない」という記事はツッコミどころが多かった。まずは「スリランカは東南アジアに属するか」を考えたい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
北九州市立松本清張記念館(北九州市小倉北区)
            ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

パンゲアの扉 つながる世界(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

活躍の場を求め若者は翔(と)ぶ。12月中旬、東京・駒込の日本語学校。東南アジアのエリート学生8人が大学受験に向けて世界史の授業を受けていた。講義も生徒がとるノートも日本語だ。スリランカ人のニワルタナさん(22)は国営企業中心の母国では『起業できない』と飛び出した。日本の国立大学で経済を学び『将来は欧州でファッション関連の会社をつくりたい』

記事の書き方から判断すると「スリランカ人のニワルタナさん」は「東南アジアのエリート学生8人」の1人です。しかし「スリランカ」は「東南アジア」には含まれません。「東南アジア」とは「アジア南東部、インドシナ半島とマレー諸島からなる地域の総称。ミャンマー・タイ・ベトナム・ラオス・カンボジア・マレーシア・シンガポール・フィリピン・インドネシア・ブルネイの諸国を含む」(大辞林)と考えるのが普通です。

スリランカ人」を「東南アジアのエリート学生」と表現した記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

今回の記事では他にも引っかかる部分があった。まず最初の事例から。

【日経の記事】

「ピリピリしているから学生には話しかけないで」。2017年12月1日、理系大学の最高峰との呼び声もあるインド工科大学(IIT)ボンベイ校。この日解禁された企業の採用活動をのぞきに行くと、大学の職員にきつく言い渡された。

面接会場にしつらえた学生寮。冷房がなく蒸し暑いなかをスーツ姿の学生が列をなしていた。集まったのは米ゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツ銀行といった名だたる世界企業。「やりたい仕事ができるなら国は関係ない」。バイオ専攻のチャウドハリーさん(22)が教えてくれた。

2週間ほどの「第1次面接期間」を終え、ボンベイ校の学生900人の就職が決まった。米マイクロソフトは入社初年度の報酬で最高1400万ルピー(約2400万円)を提示――。地元紙は世界企業による人材争奪戦の一端を伝えた。


◎「900人」は世界企業に就職?

普通に読むと「ボンベイ校の学生900人」が「米ゼネラル・エレクトリック(GE)やドイツ銀行といった名だたる世界企業」に就職を決めたように感じる。しかし、「900人」もの学生全員が「名だたる世界企業」で働くのかなとも思う。
関崎灯台(大分市) ※写真と本文は無関係です

仮に全員が世界企業に就職したのならば、「採用活動を許されたのは有名な世界企業のみ」とか「900人全員が有名な世界企業に就職を決めた」などと明言してほしかった。ついでに言うと、何人の学生が就職活動に臨み、そのうちの何人が「名だたる世界企業」に就職したのかが情報として欲しい。

今回の記事では、根拠が薄そうな漠然とした解説も気になった。

【日経の記事】

ユネスコの調べでは世界で年460万人(15年)が国を越え就学する。10年間で1.6倍に膨らんだ。国際教養大の鈴木典比古学長は「米スタンフォード大などのネット講義で学んでいる若者は2千万人以上にのぼる」と指摘する。

1990年代半ば以降生まれの若者は「デジタルネーティブ世代」。物心ついた時からインターネットになじみ、年齢や所属へのこだわりが薄い。彼らが主役となってけん引するグローバリゼーションは、よりフラットな世界へと導かれる

17年秋。トランプ大統領の就任後、初めて新年度を迎えた米国の約500大学では新しく来た留学生が平均7%減った。教育界には移民に強硬な政策が影を落としているとの不安も広がる。



◎「よりフラットな世界」とは?

デジタルネーティブ世代」が「物心ついた時からインターネットになじ」んでいるのは納得できる。だが「年齢や所属へのこだわりが薄い」かどうかはよく分からない。ネットに馴染むと「年齢や所属へのこだわり」が薄れる訳でもないだろう。

取りあえず受け入れてみるとしても「彼らが主役となってけん引するグローバリゼーションは、よりフラットな世界へと導かれる」との解説がよく分からない。記事では、「フラットな世界」が具体的にどんな「世界」かは触れないまま、米国の大学で留学生が減った話に移ってしまう。

仮に「トップとヒラしかいないような組織ばかりになる」のが「フラットな世界」だとしよう。しかし、「年齢や所属へのこだわりが薄い」とフラット化するとの流れが理解しにくい。例えば、「年齢」にこだわらずに人材を採用する企業が増えたとしても、組織をフラット化する必然性は乏しい。結局ここは、何が言いたいのかよく分からなかった。

パンゲアの扉 つながる世界」というテーマに合わせるために、「これまでのグローバリゼーションとは違うものになる」と強引にねじ込んだ感じがする。やはりこの連載には無理がある。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界(4)国を飛び出す学生  頭脳は場所を選ばない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180105&ng=DGKKZO25345420V00C18A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

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