2017年11月29日水曜日

「東レ、トヨタに窮状訴え」が怪しい日経 上阪欣史記者

状況をきちんと理解して書いているのか心配になる記事が28日の日本経済新聞朝刊企業2面に出ていた。筆者は上阪欣史記者。記事には「東レ、トヨタに窮状訴え 樹脂部品価格上がらず EV時代へ収益確保探る」という見出しが付いているが、東レがトヨタに「窮状」を訴えたかどうかが、まず怪しい。
原鶴大橋(福岡県朝倉市・うきは市)※写真と本文は無関係です

記事の最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

東レがトヨタ自動車などに異議を申し立てている。自動車に使われる樹脂(プラスチック)の納入価格を巡り、26年間続いてきた慣行の見直しを迫った。電気自動車(EV)の時代、車体の軽量化につながる樹脂部品の存在感は高まるが、なぜ東レはここまでかたくななのか。

「もう限界だ。樹脂価格フォーミュラ(方式)の変更をぜひともお願いしたい」。8~9月にかけ東レの自動車材料事業部の担当者らは、デンソーや豊田合成などトヨタの系列部品メーカーを行脚した。トヨタだけではない。日産自動車系など樹脂部品を手がける他のメーカーにも通いつめ、異例の訴えを起こした。


◎本当に「トヨタに異議申し立て」?

東レがトヨタ自動車などに異議を申し立てている」と冒頭で言い切っているのだから、東レがトヨタに直接訴えたと理解するしかない。だが、読み進めると「8~9月にかけ東レの自動車材料事業部の担当者らは、デンソーや豊田合成などトヨタの系列部品メーカーを行脚した」と書いており、「トヨタ」そのものは訪問先に含めていない。

記事の終盤でも「訴えを受けたトヨタ系などの部品メーカーは『社内で説明する』と曖昧な回答に終始している」と述べており、東レはトヨタに直接訴えたのではないと解釈したくもなる。トヨタにも訴えたのか、あくまでトヨタ系の部品メーカーに訴えだけなのか、明確に分かるような書き方をすべきだ。

記事の続きをさらに見ていく。

【日経の記事】

東レが手掛けるポリアミド(ナイロン)やポリフェニレンサルファイド(PPS)など耐熱性や高強度の樹脂は、自動車の電装品や内装品などあらゆるところに使われる。その納入価格は原油から最初に出てくる基礎化学原料、ナフサ(粗製ガソリン)価格をもとに、自動車部品メーカーと半期に一度決めている。1991年以来の慣行だ。

東レが主張するのは足元ではやや上昇傾向にあるが、ここ数年ナフサが安いままなのに、ナイロンなど川下の原料価格だけが高騰、大幅なコスト増を東レが負担し続けている点だ。東レの森本和雄常務取締役は「ナフサ連動は日本だけ。川下の樹脂市況に連動した値決め方式に改めなければ、拡大再生産できない」と唱える。


◎結局、何が「高騰」?

上記のくだりを読んでも、何が「高騰」しているのか、よく分からない。「ナイロンなど川下の原料価格だけが高騰」と書いてあると、樹脂の「原料価格」が「高騰」していると受け取りたくなる。これなら話の辻褄も合う。しかし「原料ナイロン」とも解釈できる書き方が引っかかる。
国道210号線沿いのコスモス(福岡県うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

記事では「東レが手掛けるポリアミド(ナイロン)やポリフェニレンサルファイド(PPS)など耐熱性や高強度の樹脂」と説明しているので、「ナイロン」は樹脂の「原料」と言うより樹脂そのものだ。

東レの常務のコメントは「川下の樹脂市況に連動した値決め方式に改めなければ、拡大再生産できない」となっているので、「高騰」しているのは「原料価格」ではなく「樹脂」の価格だとも思えてくる。

ただ、「樹脂部品価格上がらず」が記事の前提であり、「樹脂」の価格は上がっていないはずだ。そんなこんなで、さらによく分からなくなる。

自動車部品メーカーに納める価格とは別にスポット市場があって、そこでは「樹脂」価格が「高騰」しているのかもしれないが、記事中にそうした説明はない。

さらに言えば、「トヨタの系列部品メーカーを行脚した」のが「8~9月」で、「訴えを受けたトヨタ系などの部品メーカーは『社内で説明する』と曖昧な回答に終始している」と言うが、既に11月末だ。「社内で説明する」段階は終わっているはずで、その後どうなったのかは言及してほしかった。

この記事からは、東レ以外の樹脂メーカーが東レに同調しているかどうかも不明。結局、分からないことだらけのままだ。上阪欣史記者が要注意の書き手なのは、はっきり分かったが…。


※今回取り上げた記事「東レ、トヨタに窮状訴え 樹脂部品価格上がらず EV時代へ収益確保探る
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171128&ng=DGKKZO23965630X21C17A1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。上阪欣史記者への評価も暫定でDとする。

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