2017年9月13日水曜日

強引に「落とし穴」を見出す日経「働き方改革 さびつくルール」

13日の日本経済新聞朝刊1面に載った「働き方改革 さびつくルール(中)無期雇用転換に落とし穴 『全員参加』しなやかに」という記事は(上)に続いて苦しい展開だった。今回の記事では「18年4月以降、5年を超えて有期契約で働く人が申し出れば企業は無期雇用にしなければならない」という導入前の「ルール」を取り上げている。これは「さびつくルール」とのテーマに合わないし、「無期雇用転換に落とし穴」と見出しで打ち出している割に大した「落とし穴」は見当たらない。
九州北部豪雨で橋が流されたJR久大本線(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

記事の後半部分を見てみよう。

【日経の記事】

ただ、企業がいざ無期転換をしようとすると問題も生じる。19年度にも始まる、同じ仕事を同じ賃金にする「同一労働同一賃金制度」との整合性が取れていない点だ。

ガイドライン案では、基本給や福利厚生などで正規と非正規の不合理な待遇差を認めない。ただ制度の対象は有期契約やパート、派遣労働者。フルタイムの有期契約が無期に切り替われば「対象から外れる」(厚生労働省)。正社員と無期契約の間の格差が残ってしまう可能性もはらむ



◎「格差」残るのが当然では?

正社員と無期契約の間の格差が残ってしまう可能性もはらむ」と書いているのは間違いではない。むしろ、必ず格差が残るはずだ。だが、それは問題なのか。

記事の前半部分で取り上げた「生活協同組合コープみらい」では、「有期のパート従業員」を「『エリア専任職』と呼ぶ限定正社員」(生協は会社ではないので「社員」は不適切だが…)に切り替えている。このように、「無期契約」は必ずしも従来型の正社員になることを意味しない。

例えば、転換によって無期雇用の契約社員になり、転勤は転換前と同様になしとしよう。一方で、従来からいる「正社員」は転勤を拒否できない。この場合、「正社員と無期契約の間の格差」はあるのが当然だ。格差がない場合、転勤の負担を一方的に負う「正社員」を差別しているとも言える。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

転換を望まない人もいる。制度上は、無期転換の権利を行使しなければ済むはず。だが一斉に無期に切り替える企業も多い。労働経済学が専門の八代尚宏・昭和女子大学特命教授は「有期契約で気軽に仕事をしたい人に労働負荷を強いることになりかねない」と話す。


◎転換すると「労働負荷を強いる」?

まず、よく分からないのが「一斉に無期に切り替える」場合は「無期転換の権利を行使」できないのかという問題だ。記事の書き方からは微妙だが、できないような印象を受ける。仮にできないとして、「労働負荷を強いることになりかねない」と懸念する必要があるだろうか。
九州北部豪雨後の菱野郵便局(福岡県朝倉市)
           ※写真と本文は無関係です

無期転換」は有期を無期に切り替えるだけで、「労働負荷」の増減とは別個の問題だ。そもそも「転換を望まない人」がかなり少なそうな気がする。その中で「制度上は、無期転換の権利を行使しなければ済む」のにできない人となると、さらに少数だ。そして、「転換」と「労働負荷」は基本的に連動するものではない。取材班はかなり強引に「問題」を作り出しているのではないか。

記事の終盤に話を移そう。

【日経の記事】

人手不足の今は雇用をつなぎ留める役割が大きいが、企業は非正規社員を景気の波に備えた雇用の調整弁としてきた。景気後退時は負担増要因になり得る。無期雇用を嫌い「雇い止め」が生じる潜在的なリスクもある。

ハイテクなど変化が激しい業界では柔軟な人材活用が成長の鍵を握る。多様な働き方を求める人が全員参加できるしなやかなルールが必要だ


◎「しなやかなルール」とは?

日経の1面企画では「しなやか」も要注意ワードだ。強引に話をまとめる時に使われやすい。今回の記事でも「多様な働き方を求める人が全員参加できるしなやかなルールが必要だ」とは言うものの、どういうルールに改めれば「しなやかなルール」になるのかは謎だ。
九州北部豪雨後の福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

5年を超えて有期契約で働く人が申し出れば企業は無期雇用にしなければならない」というルールを取材班が好ましく思っていないのは何となく分かる。だったら、どうすれば「しなやかなルール」になるのか示すべきだ。

「経営側が必要に応じて労働者を自由に解雇できて、有期雇用の期間にも何の制限もない」といった辺りが取材班の考える「しなやかなルール」ではないのか。「柔軟な人材活用が成長の鍵を握る」といった説明に本音が透けて見える。だったら、自分たちの主張を具体的に読者にぶつけてほしい。

本音を隠して「多様な働き方を求める人が全員参加できるしなやかなルールが必要だ」などと抽象的で当たり障りのない表現を選んでどうする。


※今回取り上げた記事「働き方改革 さびつくルール(中)無期雇用転換に落とし穴 『全員参加』しなやかに
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170913&ng=DGKKZO21061010T10C17A9MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

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