豪雨で被害を受けたJR日田彦山線 (大分県日田市)※写真と本文は無関係です |
まず最初の段落を見ていこう。
【日経の記事】
GSユアサは電気自動車(EV)が1回の充電で走れる距離を2倍に伸ばす新型電池の量産を2020年にも始める。現行の一部EVはフル充電でもガソリン車の半分程度の距離しか走れなかった。新型電池で走行距離をガソリン車に近づける。EVは充電設備の少なさが普及の課題とされている。技術革新によりEVの実用性が高まり、普及が加速する可能性がある。
◎「一部EV」限定の話?
「フル充電でもガソリン車の半分程度の距離しか走れなかった」のは「一部EV」に限った話のようだ。裏返せば、フル充電でガソリン車並みの距離を走れるEVも既に存在しているのだろう。
記事の続きは以下のようになっている。
【日経の記事】
三菱商事などと共同出資する電池製造会社、リチウムエナジージャパン(LEJ)が開発する。20年にも滋賀県のLEJの工場で量産し国内や欧州の自動車メーカーに供給を始める。価格は現行製品並みにしたい考え。
LEJ製リチウムイオン電池を搭載する三菱自動車の小型EV「アイ・ミーブ」の走行距離は約170キロメートル。容量が2倍となる同サイズの新型電池を載せた場合約340キロメートルに伸びる。電池の搭載スペースが限られる小型EVでも現行の大型EV並みの走行距離を実現する。
◎14版で書き換えた理由は…
上記の内容は最終版(14版)のものだ。13版で「ガソリン車が1回の給油で走る距離に近くなる」となっていた部分を「電池の搭載スペースが限られる小型EVでも現行の大型EV並みの走行距離を実現する」と書き換えている。
豪雨で被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です |
13版の記述でも「小型EV『アイ・ミーブ』」に関しては合っているのだろう。だが、「EVの現行モデルでガソリン車並みの走行距離を実現しているものはない」との誤解を与えると判断して書き換えたのではないか。だとしたら良心的ではある。ただ、今回の「ガソリン車並み」との説明に問題があることを日経自身が認めているようにも見える。
この記事にはもう1つ問題を感じた。記事の終盤を見た上で、その問題を指摘したい。
【日経の記事】
リチウムイオン電池は正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで電気を取り出したり充電したりする。新型電池では正極材と負極材の素材の配合を変えて多くのリチウムイオンをためられるようにした。
GSユアサは車載リチウムイオン電池で世界4位。世界首位のパナソニックを含め日本の車載電池メーカーは品質や性能で先行する。ただ追い上げる中韓勢との価格競争に巻き込まれないためにも電池の性能向上が欠かせない。
英国やフランスが40年までにガソリン車などの販売を禁止する方針を表明するなど、EVの需要拡大が予想されている。GSユアサも新型電池で供給先の拡大を図る。
◎「新型電池」は開発済み?
記事の冒頭では「1回の充電で走れる距離を2倍に伸ばす新型電池の量産を2020年にも始める」と書いている。では、「新型電池」の開発には成功しているのだろうか。
豪雨で被害を受けた比良松中学(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
「三菱商事などと共同出資する電池製造会社、リチウムエナジージャパン(LEJ)が開発する」との記述からは「開発はこれから」と解釈できる。しかし、読み進めると「新型電池では正極材と負極材の素材の配合を変えて多くのリチウムイオンをためられるようにした」と開発を終えているかのような説明も出てくる。開発済みかどうかは明確にしてほしかった。
量産の時期は「2020年にも」とかなり先だ。開発自体がこれからならば、量産の開始時期がかなり先なのも納得できる。それ以外の理由で量産が「2020年」以降になるのならば、その理由にも触れてほしいところだ。
今回の記事は「アイ・ミーブの走行距離を2倍に伸ばせるようにLEJが頑張って新型電池を開発します。早ければ2020年に新型電池の量産を始めます」といった程度の話に見える。
それを「技術革新によりEVの実用性が高まり、普及が加速する可能性がある」などと大げさに意義付けして1面に持ってきたのが間違いだ。記者が自分で1面に売り込んだのか、デスクに求められて大げさに書いたのかは分からない。だが、この手の「騙し」は結局、日経への信頼を損なうだけだ。そのことを関係者はよく考えてほしい。
※今回取り上げた記事「EV電池、走行距離2倍 GSユアサ、ガソリン車並みに」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170808&ng=DGKKASDZ07IIF_X00C17A8MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。
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