2017年7月14日金曜日

日経 武智幸徳編集委員は「フィジカルトレーニング」を誤解?

骨格が定まっていない子供にフィジカルトレーニングを課すのは愚の骨頂」と言われたら納得できるだろうか。「『具の骨頂』と断定する方が無理がある」と個人的には思える。14日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に武智幸徳編集委員が書いた「アナザービュー~まず『脳力』を鍛えよ」という記事の当該部分を見た上で、この問題を論じてみたい。
豪雨で橋梁が流された久大本線(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

中学生が大人のトップアスリートを負かす競技に卓球がある。「なぜそんなことが。だらしない」と不思議でならなかったが、ひょんなことから卓球を習い始め、理由が分かる気がしてきた。

一つは卓球台のサイズだ。ある程度の身長になると台上のほとんどに手は届く。広いコートを走り回ってカバーするテニスなどに比べたら、走力も走る量も要求される値はずっと小さい。

肉弾戦の接触プレーはなく、打球を遠くに飛ばす腕力もいらない。圧倒的な差を感じる勝負を「大人と子供のよう」と評するが、大人と対戦した時にパワーの差が必ずしも卓球は致命的にならない。力より、神経回路の信号伝達の速さや駆け引きなど“脳力”の勝負に持ち込めるというか。

今、世間は将棋の藤井聡太四段の話題で持ちきりだ。将棋はスポーツよりもっと純粋に知力の戦いだから、AI(人工知能)相手に棋力に磨きをかけ、大人を負かす14歳が現れることは不思議ではない気もする。

骨格が定まっていない子供にフィジカルトレーニングを課すのは愚の骨頂だが、脳は鍛えれば鍛えるほど開発される。そう考えると、畑違いに思える藤井四段と卓球の張本智和(14)、平野美宇(17)、伊藤美誠(16)らの活躍には「脳トレに早過ぎるということはない」という共通のメッセージが含まれているのかもしれない。


◎「フィジカルトレーニング」をどう理解?

フィジカルトレーニング」をWikipediaでは「肉体能力の維持・強化や健康保持などを目的とした肉体的な運動の総称」と定義し、ストレッチ、ウォーキング、水泳などを含むとしている。自分の理解ともズレはない。この定義に従えば、子供に「フィジカルトレーニング」をさせても問題ないはずだ。

武智編集委員もさすがに「子供にストレッチや水泳をさせてはダメ」とは言わないだろう。そう考えると、武智編集委員は「フィジカルトレーニング」の意味を取り違えている可能性が高い。では、どう取り違えたのか。
豪雨被害を受けた日田彦山線の筑前岩屋駅(福岡県東峰村)
            ※写真と本文は無関係です

あくまで推測だが「ウェートトレーニング」と混同したのではないか。では「骨格が定まっていない子供にウェートレーニングを課すのは愚の骨頂」と直せば問題ないのか。これも疑問だ。武智編集委員がせっかく卓球を取り上げているので、スポーツ報知の6月16日付の「12歳・木原が21歳以下の部で準V…卓球界にまた天才現る」という記事を基に考えてみよう。

【スポーツ報知の記事】

◆卓球ワールドツアージャパン・オープン萩村杯▽21歳以下女子シングルス決勝 梅村3-1木原(15日・東京体育館)

21歳以下の部女子決勝で、12歳の木原美悠(エリートアカデミー)は梅村優香(17)=大阪・四天王寺高=に1―3で敗戦。史上最年少優勝は逃したが、堂々の準優勝に輝いた。

中略)エリートアカデミーでは食事の指導やウェートトレーニングで52キロだった体重は3~4キロ増え、力強さが増した。163センチと体格にも恵まれ、所属の渡辺隆司監督も「パワーがある。反応も良くて、大人のボールも難なくブロックできる」と太鼓判を押す。


◎まず自らの「脳力」を鍛えよ!

12歳の木原美悠」は既に「ウェートトレーニング」に取り組んでいるという。12歳だから、まだ「骨格が定まっていない」と考えるのが自然だ。それに我流で「ウェートトレーニング」に取り組んでいるわけではない。「エリートアカデミー」での指導の下での「ウェートトレーニング」だ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

こうしたことを考えると、「子供にウェートレーニングを課すのは愚の骨頂」と直してみても問題はありそうだ。「子供にフィジカルトレーニングを課すのは愚の骨頂」に至っては、厳しく言えば間違いだ。

読者は意外と新聞を信じているものだ。「日経の編集委員が言うんだから、子供にフィジカルトレーニングなんかさせちゃいけないんだな」などと勘違いする読者がいそうで怖い。

そして、武智編集委員にはこう言っておこう。「まず自らの『脳力』を鍛えよ」。これは自分にも当てはまる言葉ではあるが…。


※今回取り上げた記事「アナザービュー~まず『脳力』を鍛えよ

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170714&ng=DGKKZO18861700U7A710C1UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価はDを維持する。武智編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_21.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_43.html

日経 武智幸徳編集委員は日米のプレーオフを理解してない?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_76.html

「骨太の育成策」を求める日経 武智幸徳編集委員の策は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_87.html

「絶望には早過ぎる」は誰を想定? 日経 武智幸徳編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_4.html

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

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