2017年5月21日日曜日

日経「がん死亡率と1人当たり医療費」で無意味な調査

日本経済新聞がほとんど意味のない調査をやって、その結果を大きく報じていた。21日の朝刊1面トップに「砂上の安心網~がん死亡、同じ県内で格差 本社調査 医療費の効果、検証必要」という記事を載せ、4面は調査結果を1ページ丸々使って伝えている。さらに5面(総合3面)には、前村聡 社会部次長による解説記事まで入れている。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

では、なぜ 「ほとんど意味のない調査」と言えるのか。

【日経の記事(4面)】

「医療費を多く使えば死亡率は低くなるのでは」。そう思う人がいるかもしれない。だが日本経済新聞が全市区町村の死亡率と1人当たりの医療費の関係を比較したところ、医療費が高くても死亡率が高い自治体もあり、必ずしもそうではないことが分かった。



◎前提が間違っているような…

がんに関して「医療費を多く使えば死亡率は低くなるのでは」と思う方がおかしい。「必ずしもそうではないことが分かった」と取材班は教えてくれるが、「それは当然では?」と返したくなる。

まず、医療費の多くはがんと関係がない。仮に医療費の約1割が「がん関連」だとすると、9割はがん以外に使っている費用だ。なのに「1人当たりの医療費」と「がん死亡率」の関係を見て意味があるのか。

では、「がん関連の医療費」と「がん死亡率」を比べて費用対効果を見ればいいのか。これも注意が必要だ。例えば、がん患者1人当たり1000万円の医療費を上積みすれば、1年間の延命効果が得られるとしよう。この場合、医療費を上積みする意味はある。だが、死亡数は一時的にしか減らない。死亡する時期が1年遅くなるだけだ。

結果として、「医療費が増えたのに、死亡率には大きな改善が見られなかった」と結論付けられるだろう。だからと言って、医療費の上積みを中止するのが正しいのかと言えば、そうではないはずだ。

別の可能性もある。医療費の上積みでがんの死亡率を大きく下げられたとしよう。この場合、「費用対効果の面で優れている」と考えてよいだろうか。積極的な治療でがん死亡率は下げられても、抗がん剤の副作用などによって他の要因での死亡率が大きく上がって相殺されていらたどうか。そういった点を考慮すると、がん死亡率に焦点を当てて医療費の多寡を論じるのは危険だ。それでも論じるならば、かなり慎重にデータを扱う必要がある。

日経は1面の記事で「これまで都道府県の計画は市区町村別の対策まで踏み込んでいないケースが多い。医療費を有効に使うためにも、こうしたデータから死亡率の高い原因を分析し、きめ細かい対策を講じる必要がある」と結論付けているが、今回の調査を基に対策を立てるのは意味がない。


※今回取り上げた記事

砂上の安心網~がん死亡、同じ県内で格差 本社調査 医療費の効果、検証必要」(1面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170521&ng=DGKKZO16670880R20C17A5MM8000

がん死亡、私の街は…」(4面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170521&ng=DGKKZO16665010Q7A520C1M10400


※関連記事も含めて記事の評価はD(問題あり)。一連の記事は「前村聡、鎌田健一郎、安田翔平、清水正行が担当しました」となっていたが、調査の欠陥に関しては前村聡社会部次長の責任が重いと推定し、前村次長への評価を暫定でDとする。残り3人への評価は見送る。

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