筑後川沿いの菜の花(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
記事の中身を見ていこう。
【日経の記事】
2018年1月から導入される積み立て型の少額投資非課税制度(NISA)。この裏側で金融庁と運用・証券業界の間にすきま風が吹いている。当局は「顧客を最優先すべし」として、手数料が特別低い投資信託だけを「適格」とする異例の対応に出た。これに対し業界側は一定の利潤が出なければビジネスにならないと反発を強めている。新制度はスタート前から「担い手不在」となるリスクを抱え込んだ。
「手数料獲得が優先され、顧客の資産を増やせないビジネスを続ける社会的価値はあるのか」。日本証券アナリスト協会が7日に都内で開いたセミナー。金融庁・森信親長官のわずか20分の基調講演が、足を運んだ業界関係者を凍り付かせた。
不満は金融庁が決めた積み立てNISAの対象投信の条件にあらわれている。販売時の手数料が無料、毎月分配型を除くといった内容で絞り込むと公募投信約5400本のうちわずか50弱(1%未満)しか合致しない。
大半は株価指数に連動した低コストのインデックス投信で、アナリストの丹念な企業分析を通じて市場平均を上回る運用成績を目指すアクティブ型は5本しかなかった。「アクティブ投資の死を宣告されたようなものだ」。ある外資運用大手の幹部はこう憤る。
◎「アクティブ投資の死を宣告されたようなもの」?
「アクティブ投資の死を宣告されたようなものだ」というコメントがまず大げさだ。50弱の投信のうち「5本」はアクティブ型のようだし、販売手数料をなくしてアクティブ型をこれから増やす手もある。そもそも「積み立てNISA」だけがアクティブ投資の舞台ではない。素晴らしい投資商品ならば、「積み立てNISA」の対象でなくても買い手はいくらでもいるはずだ。
そんなことは川上記者も分かっているはずだ。なのに、この手のコメントを記事に入れてしまうところに業界の代弁者的な雰囲気を感じる。
続きを見ていく。
【日経の記事】
積み立てNISAは年40万円の投資額を上限に、運用で得られる配当や売却益を20年間非課税にする。若年層の資産形成を促すうえでカギとなる制度といえる。
国内証券大手の幹部は長期運用に低コスト投信が適していることは認めつつも、「ここまで厳しくすると誰も本気でやらなくなってしまう」と懸念を示す。
◎「長期運用に低コスト投信が適している」のならば…
「長期運用に低コスト投信が適している」のならば、金融庁の方針通りで問題はないはずだ。上記のくだりからは「業界のやる気を出させるために、業界にとっておいしい(投資家にとっては問題の多い)商品も対象にするべきだ」との川上記者の気持ちが伝わってくる。その根拠は「担い手不在の恐れ」だろう。だが、そんな恐れがあるとも思えない。
城南高校(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です |
記事では以下のように書いている。
【日経の記事】
「積み立てNISAは黒字がほとんど出ない」。制度のスタート前から業界には早くも冷めたムードが漂う。販売時の手数料も取れないだけに利用者の開拓には「対面型の大手証券や地銀は動かず、低コスト体質のネット証券に『丸投げ』の形になってしまうのではないか」。楽天証券経済研究所の篠田尚子氏は制度の普及に懐疑的だ。
◎ネット証券任せでいいのでは…
記事では「低コスト体質のネット証券に『丸投げ』の形になってしまうのではないか」というコメントを紹介している。ネット証券任せでいいではないか。川上記者は「担い手不在」を心配しているようだが、ネット証券は「担い手」ではないのか。問題の多い「担い手」ならばいない方が好ましい。「対面型の大手証券や地銀」が販売手数料を得る道具として積み立てNISAを使わせる必要はない。
一応、川上記者も業界の問題点には触れている。記事の終盤も見ておこう。
【日経の記事】
もっとも、金融庁が指摘するように日本の投信が高コスト体質だったのは事実だ。新興国投資などはやりのテーマで投信を新規に設定しては、個人マネーを移し替える「短期志向」が幅を利かせてきた過去もある。
「投資家が選べる商品の幅を広げることが制度の発展に重要だ」。日本証券業協会の稲野和利会長は19日の定例会見で積み立てNISAについて言及した。投資初心者も経験を積むなかで投資への知識を深めていく。非課税期間の長さを考えるなら幅広い品ぞろえは欠かせないという考えだ。
日本の長年の課題である「貯蓄から投資」を実現するには、当局と運用業界が足並みをそろえる必要がある。両者がそっぽを向いたままでは積み立てNISAの普及はおぼつかない。
◎経験を積むと低コストから離れる?
「投資初心者も経験を積むなかで投資への知識を深めていく」のは、その通りだろう。だが、その時に「販売時の手数料」を取る「毎月分配型」の投信などが選択肢として必要になるだろうか。「投資家が選べる商品の幅を広げることが制度の発展に重要だ」と業界関係者が主張するのは分かる。問題なのは、川上記者がその主張に寄り添っている点だ。
個人的には「貯蓄から投資」を推進する必要はないと思っているが、百歩譲って日本にとって必要なものだとしよう。だが「貯蓄から投資」とは、投資家の利益を犠牲にして金融業界を潤わせてまで実現すべきものなのか。「貯蓄から投資」を本気で実現したいのならば、業界ではなく投資家の利益を優先して制度設計すべきだ。
金融庁がせっかくその方向に進めようとしているのに、「業界にもおいしい汁を吸わせてあげなくちゃダメでしょ」と訴えるような記事を書いているのが残念だ。
※今回取り上げた記事「Behind the Curtain~積み立て型NISAの舞台裏 金融庁と業界にすきま風 『担い手不在』の恐れ」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170426&ng=DGKKZO15746890V20C17A4EE9000
※記事の評価はC(平均的)。川上穣記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。川上記者については以下の投稿も参照してほしい。
読む価値を感じない日経 川上穣記者の「スクランブル」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_8.html
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