2017年3月25日土曜日

日経「急成長 シェア経済」で藤川衛・南毅郎記者に助言

25日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「急成長 シェア経済 ヴィトンからポルシェまで 2兆円市場、だれでも」という記事は、厳しく言えば読者を騙している。見出しだけ見ると、シェア経済は「急成長」していて、「2兆円市場」に育っていると思うはずだ。しかし、それを裏付けるデータは出てこない。
梅の花と耳納連山(福岡県久留米市)

今回は、記事を担当した藤川衛記者と南毅郎記者に助言する形式で問題点を論じてみたい。

【藤川・南記者への助言】

急成長 シェア経済」という記事を読みました。そこでまず気になったのが、シェア経済は本当に「急成長」しているのか、市場規模は「2兆円」なのかという問題です。

まず「急成長」です。実態としては急成長しているのかもしれませんが、記事からはその成長ぶりを確認できません。

米シリコンバレーで2011年ごろから普及し始めた。急成長ゆえに、各国で税制や法規制の整備が追いついていない」との解説はありますが、具体的な数値は出てきません。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストの試算によると、日本のシェア経済市場は2025年に1.7兆円」という説明はあります。しかし、急成長かどうかはやはり確認できません。

モノや場所、技能などを貸し借りするシェアリング(共有)エコノミーが日本でも広がっている」と冒頭で宣言し、「急成長 シェア経済」という見出しを付けるのならば、急成長ぶりを具体的にデータで見せる必要があります。

作り手の事情は推察できます。成長はしていても、現状での日本の市場規模がかなり小さいのでしょう。だから、その数値を出すのが嫌だったのではありませんか。そして、大きな数字を出せる第一生命経済研究所の試算に飛び付いたのでしょう。
アントワープ(ベルギー)の市庁舎※写真と本文は無関係です

しかし、この試算は「2025年」の予測です。読者に対して誠実であるならば、現状はきちんと伝えるべきです。「2025年に1.7兆円」という試算があるのですから、「今の市場規模は小さいけれど、今後は急成長が期待できる」とは書けるはずです。

次に「2兆円」問題です。「ヴィトンからポルシェまで 2兆円市場、だれでも」という見出しからは、既に「2兆円市場」があるかのような印象を受けます。しかし、記事に出てくるのは「2025年に1.7兆円」という試算だけです。「2兆円」は「1.7兆円」を四捨五入したものでしょう。しかも、試算通りに市場が成長したとしても「1.7兆円」に達するのは8年後です。「2兆円」はさらにその後になりそうです。

嘘は書いていないかもしれませんが、読者に対して誠実だとはとても言えません。「急成長 シェア経済」というテーマが最初にあり、それに合わせてご都合主義的に数値を見せているのではありませんか。気持ちは分からなくもありません。しかし、こういったやり方を続けていては、読者の信頼を失いかねません。

読者に誤解を与えないか、心配になるぐだりが他にもありました。以下のくだりです。

東京・世田谷に住む35歳の主婦は先日、使わなくなったヴィトンのハンドバッグを箱に詰めてラクサスに送った。借り手がつけば最大で年2万4千円の収入が入る。『ちょっとした個人事業主の気分』。20万円で購入したバッグが年利10%を稼ぐ投資商品に変身しうる

ここにも嘘はないのでしょう。ただ、「20万円で購入したバッグが年利10%を稼ぐ投資商品に変身しうる」と紹介しているのは引っかかりました。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

気になるのは「東京・世田谷に住む35歳の主婦」がどの程度のリターンを期待できるかです。最大で「年利10%」なのは分かります。しかし、それを実現できる確率が非常に低ければ、あまり意味はありません。どういう条件を満たせば「最大で年2万4千円の収入が入る」のかは入れてほしいところです。例えば「バッグ提供者の99%は年間1000円以下の収入しか得られない」といった状況ならば、このサービスに関する印象もかなり変わるはずです。

最後に言葉の使い方で1つ注文を付けておきます。

記事に「シェア経済といえば、米国をはじめインドネシアや中国などのアジアで爆発的ともいえる速度で広がる相乗りや民泊が真っ先に思い浮かぶ」という文があります。

米国をはじめインドネシアや中国などのアジアで」と書くと、米国もアジアの一部だと思えてしまいます。「神奈川をはじめ青森や岩手などの東北地方で」と聞くと違和感があるはずです。これと同様の問題が生じています。

例えば「シェア経済といえば、米国で火が付きインドネシアや中国などのアジアでも爆発的に広がる相乗りや民泊が真っ先に思い浮かぶ」とすれば問題は解消します(ついでに少し簡潔にしてみました)。


※今回取り上げた記事「急成長 シェア経済 ヴィトンからポルシェまで 2兆円市場、だれでも
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170325&ng=DGKKZO14493400U7A320C1EA3000

※記事の評価はD(問題あり)。藤川衛記者への評価はDを維持し、南毅郎記者は暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿