2017年2月12日日曜日

展開が強引な日経 太田泰彦編集委員「けいざい解読」

12日の日本経済新聞朝刊総合・経済面に載った「けいざい解読~トランプ氏の移民制限が転機 『起業の聖地』アジアへ」は強引な展開が目立つツッコミどころの多い記事だった。筆者は何かと問題の多い太田泰彦編集委員。完成度が低くなるのは当然とも言える。
阿蘇山(熊本県阿蘇市) ※写真と本文は無関係です

記事の冒頭部分から問題点を指摘したい。

【日経の記事】

米国には「H1B」という秘密兵器がある――。日系人の米物理学者ミチオ・カク氏は、こう喝破して、壇上に居並ぶ論客を黙らせた6年前の公開討論会の席である

H1Bとは、高度な専門技能を身につけた外国人が取得できる入国査証(ビザ)のこと。科学者や技術者などが対象となる。発給枠の8万5千人に対し、2016年は23万3千人が応募した。

◎どこが「秘密兵器」?

まず、最初の「公開討論会」の話が謎だ。「H1B」が「秘密兵器」という主張がまず分からない。「6年前」に「H1B」は既にあったし、存在も広く知られていたはずだ。それがなぜ「秘密兵器」になるのか。

米国には『H1B』という秘密兵器がある」と述べて「壇上に居並ぶ論客を黙らせた」という話も流れが見えない。少なくとも、どういう主張に対して「米国には『H1B』という秘密兵器がある」と返したのかは入れるべきだ。

付け加えると「6年前の公開討論会の席である」はやや舌足らずだ。「6年前の公開討論会の席での出来事である」などとした方が自然に流れる。

この続きにも問題がある。

【日経の記事】

「H1Bの制度がなければ、グーグルもシリコンバレーも存在しなかった」。カク氏の両親は第2次大戦期に日系人収容所で暮らしたという。移民こそが米国の競争力を支えているという主張には説得力がある。

トランプ政権の移民制限が、米国のハイテク業界を揺るがせている。世界から頭脳を吸い寄せる力で、米国ひとり勝ちの時代が終わる予兆かもしれない。だとすれば、人材はシリコンバレーからどこへ向かうのか

米国への技術者の移住が多い隣国のカナダ西海岸は有力な候補だろう。だが、そもそもH1Bの取得者は、インドと中国をはじめアジア出身者が8割を占める。米国が門戸を閉ざせば、地元に回帰する流れが自然に生まれるはずだ。21世紀の起業の聖地は、アジアに誕生するのではないか。

◎話が飛躍しすぎ

この記事ではまず「米国には『H1B』という秘密兵器がある」と打ち出したはずだ。H1Bが撤廃されそうというのならば「世界から頭脳を吸い寄せる力で、米国ひとり勝ちの時代が終わる予兆かもしれない」と解説するのも分かる。だが、トランプ政権下でH1B
がどうなるのかを論じてはいない。なのに「だとすれば、人材はシリコンバレーからどこへ向かうのか」と展開するのは飛躍が過ぎる。

次は「アジア太平洋」の問題を取り上げたい。

【日経の記事】

アジア太平洋の小売業の業績グラフをみると、その可能性がより現実味を帯びてくる。2030年までに推定24億人に膨らむ中間層を擁し、アジアは北米や欧州連合(EU)をしのぐ巨大な消費市場に変貌しつつある。

◎「アジア太平洋」の数字でアジアを論じる?

アジア太平洋」の数字を基に「アジア」を論じるのがまず苦しい。「アジアは北米や欧州連合(EU)をしのぐ巨大な消費市場に変貌しつつある」と訴えるのならばアジアの数字を見せてほしい。
ディナン(ベルギー)周辺のミューズ川※写真と本文は無関係

しかも「アジア太平洋」はどの国を含めるのかが曖昧だ。米国を入れても除外しても誤りではない。「アジア太平洋」のデータを持ち出すのならば、その地理的な範囲は明示すべきだ。

記事の後半部分も見ておこう。

【日経の記事】

ところが、旺盛に伸びる販売とは裏腹に、流通在庫も増え、業界全体で収益は低下の一途。企業の側の生産性が追いつかず、爆発的に増える商品流通を上手にさばけないでいるからだ。

デジタル技術と小売業が融合し、業態進化が劇的に進んでいる」。コンサルタント大手IDCのマイク・ガーセミ調査部長によれば、消費革命で、アジア域内のIT(情報技術)の人材需要が急騰しているという。

たとえばシンガポールでは、百貨店の老舗が次々と看板を下ろす光景を目にする。あらゆる商品の調達から販売までを、自ら手がける業態は滅びつつある。

生き残りをかけ経営者は知恵を絞る。テナント出店する業者の配送、経理、販促を請け負い、舞台裏からネット上でサービスを提供する黒子の物流業へ。あるいは買い物客の電子決済を基に、ビッグデータを握る金融会社へと姿を変えていく。

◎「消費革命」の中身は?

日経で「革命」の二文字を見つけたら要注意だ。この記事でも「消費革命」が出てくるが、中身はよく分からない。「デジタル技術と小売業が融合」して業態が進化し、「(百貨店のような)あらゆる商品の調達から販売までを、自ら手がける業態は滅びつつある」といった説明は出てくる。だが、「消費革命」がどんなものか具体的なイメージはつかみにくい。「確かに消費には『革命』が起きてるな」と読者が納得できるように書いてほしい。「革命」と呼ぶに値する変化は、実際には起きてはいないのだろうが…。

ついでに言うと「人材需要が急騰」という使い方には違和感がある。「人材需要が急増」などとすべきだ。「急騰」は「物価や相場などが急激に上がること」(デジタル大辞泉)という意味だ。「需要」と組み合わせて使う人は稀だろう。


※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html

日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html

説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html

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