杖立温泉(熊本県小国町) ※写真と本文は無関係です |
記事の問題点を順に見ていこう。
【日経の記事】
米国を代表する有力紙ワシントン・ポストの本社7階。紙が散らばる昔ながらの編集局はない。サイト訪問者数、記事閲覧数……。編集局の中央の大型モニターに様々な分析データが並ぶ。
ニュースが今、どうネット上で読まれているか。編集者は刻一刻と変わるデータを横目にスマートフォンで見やすい「画面づくり」にエンジニアらと知恵を絞る。
◎疑問その1~紙の新聞はもうない?
上記のくだりだけ読むと、「ワシントン・ポスト」は紙の新聞の発行をやめて、ネットでの情報発信に専念しているように見える。そうならば、その点は明示してほしい。同紙のサイトを見る限り、紙の新聞も発行していると思えるのだが…。
その後の説明もかなり漠然としている。
【日経の記事】
ポストが米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏を社主に迎えたのは3年前。ネット上の無料ニュースの洪水で業績は下り坂に。「新聞は民主主義のインフラ」という通念まで揺るがす断絶をもたらしたが、「ベゾスのポスト」は真正面から向き合う。
フェイスブックなどに記事を流して読者層を広げ、サイト訪問者は3年前の3.5倍にあたる月約1億人に増えた。コンテンツ管理や広告配信の情報システムを他社に貸し、広告収入も補った。
◎疑問その2~業績は上向いた?
記事を読んでも、「ベゾスのポスト」で業績が回復しているのかどうか判然としない。「サイト訪問者は3年前の3.5倍にあたる月約1億人に増えた。コンテンツ管理や広告配信の情報システムを他社に貸し、広告収入も補った」とは書いているが、売上高や利益には全く触れていない。これは怪しい。
「ネット上の無料ニュースの洪水で業績は下り坂に」とその前に述べているのだから、「ベゾスのポスト」になってから業績がどうなったのかは明確に伝えてほしい。ネットでは上向きでも、紙の新聞の落ち込みがそれ以上かもしれない。「サイト訪問者」は増えていても、購読料収入や広告収入は伸びていないのかもしれない。記事の「広告収入も補った」との説明からも、そんな怪しさが伝わってくる。
さらに言えば、毎度のことだが「断絶」に無理がある。「『新聞は民主主義のインフラ』という通念まで揺るがす断絶」と言われて納得できるだろうか。「ネット上の無料ニュース」はここ数年で急に出てきたわけではない。新聞の地位が1年や2年で急に低下したのならば「断絶」でもいいが、実際はそうではない。
さて、最も大きな問題は次のくだりだ。
【日経の記事】
ところが、自信を取り戻したのもつかの間、新たな断絶に見舞われる。
「トランプのアメリカ」をどう報じるか。ツイッターなどソーシャルメディアを巧みに使い、新聞やテレビなどマスメディアを中抜きする次期大統領との関係に頭を悩ませているのだ。
政治ニュースはポストの生命線なのに、ドナルド・トランプ氏は人事から外交まで重要な政策はツイッターで一方的に発信する。記者会見も嫌う。
政治部シニアエディターのスティーブン・ギンズバーグさんは「ニュースを操作しようとする姿勢は報道の自由への脅威だ」と危機感を隠さない。ネット時代の主役は、トランプ氏お気に入りのソーシャルメディアで決まりなのだろうか。
◎疑問その3~「脅威」とどう戦っている?
「拝啓ツイッター大統領様 名門紙が戦う脅威」という見出しを使うのならば、「名門紙」がどう「ツイッター大統領」の「脅威」と戦っているのかは必ず盛り込んでほしい。しかし、記事からは戦っている様子が見えてこない。「政治部シニアエディター」の「ニュースを操作しようとする姿勢は報道の自由への脅威だ」というコメントを見せた後、話は「ネット時代の主役は、トランプ氏お気に入りのソーシャルメディアで決まりなのだろうか」と移っていってしまう。
電子版の関連記事には「政治部シニアエディター」のインタビューが載っているが、これにも大した話は出てこない。
「彼がツイートすると、メディアは先を争うようにその内容を伝えるが、右から左に流すだけでは読者にとって何の助けにもならない。慌てて伝えるのではなく、その真意を見極め、本当に伝えるべきことを正しく報じることを心がけている」という程度ならば「脅威」と戦っていると表現するのは、かなり大げさだ。
そもそも「ツイッターなどソーシャルメディアを巧みに使い、新聞やテレビなどマスメディアを中抜きする」ことが、なぜ「ニュースを操作しようとする姿勢は報道の自由への脅威だ」とのコメントに結び付くのか、説明が足りない。このコメントを生かしたいのならば「確かにニュースを操作しようとしているな。これは報道の自由への脅威だな」と読者が納得できるような根拠が欲しい。
記事の終盤にも疑問を感じた。
【日経の記事】
ワシントン郊外。ごく普通のピザ店「コメットピンポン」で昨年の暮れ、発砲事件が起きた。発端はネット上の偽ニュース。「民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン氏が関わる人身売買組織のアジトだ」というデマがフェイスブックなどで拡散、それを信じた男が銃を持って押し入った。
常連のジャッキー・グリーンバウムさんは「根も葉もない情報で店主や従業員が危険にさらされた。許せない」と憤る。
米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「真剣に受け止める」と改善を約束。第三者機関が虚偽と判定した情報について警告を示す対策を打った。
信頼を失えば、経営への打撃も大きい。ディー・エヌ・エー(DeNA)は、昨年11月にまとめ記事サイトで誤りや盗作が発覚して以降、時価総額が1000億円以上吹き飛んだ。
米ギャラップの調査によると、新聞などマスメディアを信頼する人は32%と1972年の調査開始以来最低。一方、別の調査では、71%が「ソーシャルメディアは偽ニュース対策に責任がある」と答えている。
ニュースの伝え方が変わる中で、何を変え、何を守るのか。次の民主主義のインフラをつくる競争が始まっている。
◎疑問その4~DeNAの件は「ソーシャルメディア」の問題?
上記のくだりを読むと、DeNAの「まとめ記事サイト」の件は「ソーシャルメディア」の問題だと受け取れる。だが、朝日新聞によると「(DeNAで問題となった)『ウェルク』の記事の9割は、報酬を出して書いてもらっていたという」。だとすると、これはソーシャルメディアの問題なのか。日経の電子版も記者や外部筆者に給与や原稿料を支払って記事を作っているはずだ。
「ソーシャルメディア」を「SNS、ブログ、簡易ブログなど、インターネットを利用して個人間のコミュニケーションを促進するサービスの総称」(デジタル大辞泉)と定義するならば、DeNAの「まとめ記事サイト」はちょっと違う気がする。どちらかと言えば、大手メディアのサイトに近いのではないか。
この連載も第3回まで進んできたが、カネを払って読むに値する記事は今のところ見当たらない。連載開始時の悲観的な予想は的中しつつある。
※記事の評価はD(問題あり)。
※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
失敗覚悟? 「断絶」見えぬ日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post.html
第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_3.html
「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_25.html
そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html
最後まで「断絶」に無理がある日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.html
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