熊本市中心部から見た熊本城 ※写真と本文は無関係です |
「10年後の不安解消へ 中長期投資に向いた銘柄は」といった記事は「30歳からの投資術」であっても、ほぼそのまま使える中身だ。ここに4ページを費やし、「金融庁も警鐘を鳴らす 危険な金融商品の実態」「初心者も信用取引に誘導される ネット証券の落とし穴」という2本の記事でさらに計4ページを割いている。いずれも「50歳から」との関連は乏しい。
そして、最も問題を感じたのが「50代の初心者に最適! 株式投資・投信運用 6つの鉄則」という記事だ。「50代の初心者」には「この記事は読むな」と声を大にして言いたい。具体的に問題点を列挙していこう。
【東洋経済の記事】
投信の長期運用の方法としては自分で国内株式型や海外株式型、海外債券型などに分散してポートフォリオを作るやり方がある。より手軽な手法として、運用信託会社側が投資対象となる地域・資産を分散させて運用するバランス型ファンド型に投資する手もある。
神戸氏が初心者向けに挙げる5本のバランス型ファンドを上表に示した。分配が年4回より少なく、純資産総額が50億円以上、シャープレシオ(リスク当たりの超過リターンを示す)が分類平均より高いファンドをスクリーニング。その中から投資先資産の比率や運用方針など、それぞれ特徴が違う投信を挙げている。
アクティブ型ファンドは2つ、世界8資産ファンドとスマート・ファイブを選んだ。前者は債権比率が20%と比較的低く、株式は国内を中心に先進国と新興国にも投資、国内外のREIT(不動産投資信託)にも投資している。後者は国内中心に債権比率が高く、海外の株やREIT、金にも投資。状況に合わせて投資資産のバランスを柔軟に見直す可変型の投信だ。
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「初心者向けのバランス型ファンド」という表を見ると、「世界8資産ファンド」は信託報酬1.30%、販売手数料3.24%(上限)だ。「スマート・ファイブ」は信託報酬1.55%、販売手数料2.16%(上限)となっている。これだけで論外だ。この2本を「初心者向け」と言い切れるFPアソシエイツ&コンサルティングの神戸孝チーフ・エグゼクティブディレクターは悪い意味で凄い。
投資1年目に4%前後を手数料だけで失ってしまう投信をよく初心者に薦められるものだ。基本的には「誰にとってもダメな投信」だと思えるが「この投信のファンドマネジャーには市場平均に対する超過リターンを得る特別な力がある」などと確信できるならば話は別だ。ただ、それができるならば「初心者」ではない。
バランス型ファンドを「初心者向け」とするのにも賛成できない。海外株、国内外のREIT、金などに最初から投資して、初心者がついていけるだろうか。バランス型ファンドを「初心者向け」として薦める側の論理としては「初心者はよく分からないだろうから、業者に丸投げしてしまえ」との意識があるのではないか。
だが、初心者だから何も分からなくてもいいとは思えない。まずは理解できる範囲で投資すべきだ。「日本株なら何となくイメージが湧く。日経平均の動きはニュースなどでもよく見るし…」といったレベルならば日経平均型のETFなどが選択肢になる。
「それでは分散が不十分」との反論があるかもしれないが、初心者が為替リスクを取ってまで海外REITなどに投資する必要があるのか。ETFならば、個別株に比べれば圧倒的に分散はできている。まず理解できるところから始めて、知識を得てからさらなる分散に乗り出すべきだ。
ついでに、東洋経済が掲げる「6つの鉄則」の1つである「配当を狙うべし」にも触れておこう。
【東洋経済の記事】
長期投資においては株価上昇だけでなく、配当によるインカムゲインも大きな収益となる。株には値下がりリスクもあるとはいえ、歴史的な低金利の環境下では、東証1部の平均(予想ベース)で約1.8%の配当利回りは無視できない。財務状況が良好で業績が安定的に成長しており、かつ配当利回りが高い銘柄は、長期保有に向いているといえるだろう。
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投資初心者に「配当利回りを基準に投資する銘柄を決めるのはどうかな?」と聞かれたら「意味がない」と答えるだろう。配当利回りを預金などの金利と比べる記事のような解説にも意味はない。預金ならば元本とは別に金利が付くが、配当は株主の持ち分を削って出しているものだ。配当すればするほど株式時価総額を目減りさせる力が働く。
増配発表が経営陣の自信の表れと解釈されて株価が上がるアナウンスメント効果もあるので話は少しややこしくなる。だが、理論的には株価100円の銘柄で10円の配当を出せば、株価は90円になる(配当以外の要因での株価変動がない場合)。配当が1円ならば株価は99円だ。配当利回りは大違いだが、株主の損得に影響があるだろうか。
預金の場合、100円の元本に年10円の利息ならば1年後には110円になる。一方、利息が1円ならば101円にとどまる。これを配当利回りと比較しても意味はない。
「PartⅡ 今さら聞けない!50歳からの投資術」では、「株式投資からREIT、FXまで 5分でわかる金融商品講座」という記事にも問題を感じた。金に関する記述を見ていこう。
【東洋経済の記事】
金はあくまで物質なので、当然金利や配当などは生み出さない。参加者の総損益がゼロになるという点ではFXと同じ。購入金額よりも高く売却しなければ利益は出せず、割安かどうかを判断する指標もない。
とはいえ、世界各国で資産価値を認められており、安全性が高い運用先といえる。実際、社会情勢が不安定なときやインフレの際に金価格は上昇しやすい。米ドルとの価格相関もあり、ドル安になると金の価格が上昇する傾向にある。
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この記事のFXに関する説明では「FXは市場参加者の収支がゼロになるため、投資ではなく投機に分類されることもある」と書いている。金は「参加者の総損益がゼロになるという点ではFXと同じ」(総損益がゼロになるのは金先物の場合だと思われるが、ここでは問題にしない)ならば、金も「投機に分類されることもある」はずだ。それで「安全性が高い運用先」と言われても説得力はない。
「安全性が高い=投資元本を失う可能性が低い」という意味ならば、金の安全性は明らかに低い。「世界各国で資産価値を認められている=安全性が高い」と考えるのならば、原油も株式も不動産も「世界各国で資産価値を認められて」いる気がする。これらは「安全性が高い運用先」と言えるだろうか。
※特集全体の評価はD(問題あり)。特集の担当者については、暫定でA(非常に優れている)としていた島大輔、渡辺拓未の両記者への評価を暫定B(優れている)に引き下げる。暫定C(平均的)だった二階堂遼馬記者は暫定D、暫定Bだった堀川美行副編集長は暫定Cとする。
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