佐賀大学(佐賀市) ※写真と本文は無関係です |
まずは「ロボアーム先端、3次元認識可能 キヤノンがシステム」という記事を見ていく。
【日経の記事】
キヤノンは産業用ロボットアームの先端に取り付けられる小型・軽量の3次元認識システムを開発する。ロボットの目として機能し、位置と向きを自動で解析しながら、アームにどこでどのように対象物をつかませるかの指示を出す。生産工程の自動化に生かせる新しいシステムとして工場向けなどに販売する考え。
3次元認識システムは可動式のため、様々な角度から対象物を認識できる。キヤノンは2014年に新規事業として同事業に参入した。
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「開発した」と過去形になっていれば別だが、「開発する」ならば「いつから」は欲しい。さらに言えば、開発を終えて製品化に踏み切る時期をどう見ているかも入れた方がいい。
今回の記事では「産業用ロボットアームの先端に取り付けられる小型・軽量の3次元認識システムを開発する」という話が柱だ。だとすれば、従来の機種に比べてどの程度の「小型・軽量」を目指すのかも必須だ。「小型・軽量」の3次元認識システムをキヤノンがなぜ開発しようとしているのかも触れたい。従来のシステムでは「産業用ロボットアームの先端」に取り付けられないという問題があり、それを解決するための「小型・軽量」化かもしれないが、記事からは何とも言えない。
「キヤノンは産業用ロボットアームの先端に取り付けられる小型・軽量の3次元認識システムを開発する」という記事を書こうとする時に基礎的な技術が身に付いていれば、どんなことが頭に浮かぶだろうか。
「いつ開発を始め、いつごろの製品化を目指すのか。何のために小型化や軽量化を進めるのか(従来のシステムでは何が足りないのか)。どの程度の小型化・軽量化になるのか。その開発はどの程度の難しさなのか。小型化・軽量化で他社に先行できるのか。どの程度の販売を見込むのか。価格は従来型と比べてどうなるのか」--。このぐらいは当たり前に思い付いてほしい。それができていれば、今回のように重要な部分がごっそり抜けた記事にはならないはずだ。
ついでに言うと「キヤノンは2014年に新規事業として同事業に参入した」の中の「新規事業として」は不要だ。「参入」するのであれば「新規事業」なのは自明だ。
次は「栄研化学 大腸がん検査薬、中東地域で拡販」という記事に注文を付ける。
【日経の記事】
臨床検査試薬大手の栄研化学は中東地域で大腸がん検査薬を拡販する。カタール政府が大腸がん検診を普及させる方針を決め、同社の大腸がん検査薬が採用された。来年から同国へ向けて納入を始める。今後、サウジアラビアなど中東地域の市場開拓を進める。
栄研化学にとって大腸がん検査薬は海外向けの主力製品。16年3月期の海外向け売上高は約25%増の24億円。
世界保健機関(WHO)によると2012年の世界のがん患者のうち10%は大腸がん患者で、国家による検診の導入が盛んだ。
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記事の冒頭に「拡販」という言葉が出てきたら、非常に高い確率で出来が悪いとみていい。日経産業新聞や日経MJで「埋めるための記事」を書くときによく使われる言葉だからだ。この記事を書いた記者も、日経産業新聞などを「埋める」過程で悪い知恵を得たのだろう。
「中東地域で大腸がん検査薬を拡販する」という話で記事を作るならば、「大腸がん検査薬の中東での売上高が現状はどの程度で、それをどのぐらい増やすのか」は必ず入れてほしい。記事には「16年3月期の海外向け売上高は約25%増の24億円」と出ているだけだ。
この記事ではキヤノンの記事と同様に「Why」が抜けている。「なぜ中東なのか」は記事に欠かせない要素だ。「世界保健機関(WHO)によると2012年の世界のがん患者のうち10%は大腸がん患者で、国家による検診の導入が盛んだ」といった関連情報は、記事に欠かせない要素を全て盛り込んだ上で、それでも行数に余裕がある場合に入れればいい。
付け加えると「中東地域」は「中東」で十分だ。無駄な言葉はできる限り省いてほしい。
今回取り上げた2本の記事の筆者は「この記事に必ず入れるべき要素は何か。どの要素の優先順位が高いか」といったことをあまり考えずに書いているのだろう。「自分が仕入れてきた情報を何となく並べて、書こうとしていた行数に達したら終わり」といった作り方をしているのが透けて見える。
本来は企業報道部のデスクが指導すべきだが、それができていない。デスクが怠慢だとは思わない。デスク自身が日経の粗製乱造文化の中で育ってきたので、記事の問題点に気付けていない可能性が高い。そこに問題の根深さがある。
※記事の評価はいずれもE(大いに問題あり)。
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