2016年9月26日月曜日

「Prologue」から苦しい週刊ダイヤモンド特集「凄いネスレ」

週刊ダイヤモンド10月1日号の特集のタイトルは「凄いネスレ~世界を牛耳る食の帝国」。「落語」や「歌舞伎」をメインの特集に据えるなど経済誌としての看板を下ろしかけているダイヤモンドとしては、貴重とも言える経済物の特集だ。しかし、中身は苦しい。最初の記事となる「Prologue~なぜネスレは凄いのか」で早くも躓いている。
中津城(大分県中津市)※写真と本文は無関係です

記事の問題点について問い合わせを送ったので、その内容を見てほしい。いつものパターンであれば、ダイヤモンドの対応は「無視」だろう。送信から丸1日が経過しているが、回答はない。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 泉 秀一様 臼井真粧美様 土本匡孝様

10月1日号の特集「凄いネスレ~世界を牛耳る食の帝国」の中の「Prologue~なぜネスレは凄いのか」という記事についてお尋ねします。30ページには「アップル、グーグル、フェイスブック──。この20年の間に米シリコンバレー発で誕生したIT企業はわれわれの生活を一変させ、うなぎ上りに企業価値を高めた」との記述があります。これを読む限り、アップルは「この20年の間に米シリコンバレー発で誕生したIT企業」のはずです。しかし、26ページの世界時価総額ランキング(2016年)でアップルの「設立・創業年」は「1976年」となっており、辻褄が合いません。「この20年の間に」は「一変させ」にかかっているとの可能性も考慮しましたが、ちょっと無理があります。

同じページの「(ネスレは)今年150周年を迎えた長寿企業で、赤字は創業来1度のみ。常に右肩上がりの成長を果たしてきた超優良企業でもあるのだ」との説明にも疑問が残ります。報道によると、ネスレの2015年12月通期は売上高が前期比3%減、純利益が37%減だったようです。これでは「常に右肩上がりの成長を果たしてきた」とは言えません。オーガニックグロースで見れば「右肩上がりの成長」を維持しているというのであれば、その点を読者に明示すべきです。注釈なしに「右肩上がりの成長」と述べている場合、通常の売上高や純利益で判断するのが自然です。

上記の2点に関して、記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、同じ記事の中に出てくる「プールや洗車に使用する水は人の権利ではない」というピーター・ブラベック氏(ネスレ会長)の発言は意味不明です。「水」が「権利」ではないのは当然です。この部分はどう理解すればよいのでしょうか。例えば「プールや洗車に使用する水に人の権利は及ばない」ならばまだ分かります。ただ、これだと「洗車時に水を使う権利を人は持たない」と解釈できるので、かなり極端な主張になってしまいます。

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最初の「20年」問題については「アップル=この20年の間に米シリコンバレー発で誕生したIT企業」と思い込んでいたのか、「この20年の間にわれわれの生活を一変させ」と言いたかったのか微妙なところだ。後者の場合、書き方が上手くない。改善例を示しておく。

【ダイヤモンドの記事】

アップル、グーグル、フェイスブック──。この20年の間に米シリコンバレー発で誕生したIT企業はわれわれの生活を一変させ、うなぎ上りに企業価値を高めた。

【改善例】

アップル、グーグル、フェイスブック──。米シリコンバレー発で誕生したIT企業はこの20年の間にわれわれの生活を一変させ、うなぎ上りに企業価値を高めた。

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2番目の「常に右肩上がりの成長を果たしてきた」に関しては、仮にオーガニックグロースで見れば「右肩上がり」だとしても、説明不足が目に余る。ここからは推測だが、筆者はネスレの15年通期の減収減益を知らずに記事を書いたのではないか。業績に関するネスレのニュースリリースを見ると「2015年: オーガニックグロースは4.2%。営業利益は為替の要因を除いた実質ベースで10ベーシズポイント改善」などと、「オーガニックグロース」「為替の要因を除いた実質ベース」などの表現が目立つ。会社側のそうした説明に引っ張られて、「素」の決算内容を確認しなかったと考えれば腑に落ちる。

3番目の問題である「プールや洗車に使用する水は人の権利ではない」という意味不明のコメントについては、特集の中のブラベック氏へのインタビュー記事から、趣旨を推測できなくもない。

【ダイヤモンドの記事(インタビュー)】

私は飲料水や衛生上必要な水へのアクセスは人間の権利であると唱えてきました。ただ、水の全使用量を見るとそれ以外、つまり洗車やゴルフコースの維持などでの使用が98.5%を占めています。だから水の使用に責任を持つべきであり、水の価値を高めるべきだと言っているんです。

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この部分は言いたいことが伝わってくる。「プールや洗車に使用する水は人の権利ではない」というのは「飲料水や衛生上必要な水へのアクセスは人間の本来持つ権利と言えるが、プールや洗車に使用する水についても同じ権利が与えれていると考えるのは間違いだ」との趣旨だろう。結論としては、ダイヤモンド側の言葉足らずが過ぎる。

それほど長くない記事の中に、これだけ多くの問題点があるということを3人の記者には重く受け止めてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でC(平均的)としていた臼井真粧美副編集長の評価は暫定Dに引き下げる。泉秀一記者への評価はDを据え置く。土本匡孝記者への評価は暫定でDとする。

追記)結局、回答はなかった。

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