水前寺成趣園(熊本市) ※写真と本文は無関係です |
【ダイヤモンドの「From Editors」】
ひょうたんから駒──。今号の特集に至るまでの経緯を振り返ると、こんなことわざがピッタリときます。 6月中旬、食品担当の若手記者が持ち込んだスイス取材はまったく別の企業が対象。物見遊山気分を戒めるため「ついでだからネスレに特集ができないか打診を」と難易度の高い注文を付けました。 本社トップのインタビューはもちろん、財務、M&A、商品展開、海外進出などネスレの強みを徹底的に分析した特集をしたくて、思いっ切り高めの球を投げてみたのです。待つこと数週間、本人の答えは「ネスレは前向きです」。実は、彼の本当の苦難はそこからだったのですが、扉をこじ開けた粘りに感服。今は鉄は熱いうちに打てということわざが身に染みます。
【田中博編集長への助言】
10月1日号の「From Editors」を拝読しました。同号のメイン特集である「凄いネスレ」は「若手記者が持ち込んだスイス取材」の話を聞いた田中様が「物見遊山気分を戒めるため『ついでだからネスレに特集ができないか打診を』」と命じたことがきっかけで生まれたのですね。
これは頂けません。田中様の説明通りであれば「食品担当の若手記者が持ち込んだスイス取材」がなければ、ネスレ特集は生まれていなかったはずです。特集で何を取り上げるべきかは、編集部の問題意識から出発してほしいのです。「海外出張する記者がいるから、そのついでに」では、あまりに安易です。
もう1つ気になるのが「ネスレに特集ができないか打診を」と田中様が述べている点です。今回の「From Editors」を読む限り、「ネスレが前向きならば特集を組めるが、そうでなければ諦める」との印象を受けます。これは「ついで」に特集を企画するよりも、さらに大きな問題があります。
「ネスレが前向きな場合に限って特集を組める」となってしまうと、どうしてもネスレを持ち上げる特集になってしまいます。「この企業の素晴らしさを伝えたい」との動機で特集を組む場合もあるでしょうから、「ヨイショ系」が絶対ダメだとは言いません。
ただ、このやり方だと、企業に対する厳しめの特集を組むのは非常に難しくなります。「御社を大々的に取り上げたいと考えています。協力してもらえませんか」と打診しておいて、記事で厳しく企業を批判するのは難しいでしょうし、相手にも失礼です。
企業を特集で取り上げる場合、まずは「この会社を取り上げるべきだ」との思いから出発すべきです。そして取り上げると決めたら、その企業が取材を拒否しても特集を組むべきです。企業に対しては「御社を特集します。厳しい内容になるかもしれませんが、御社の言い分もきちんと載せるので社長インタビューをお願いできませんか」などと要請すべきです。
取材を拒否されても、ネスレのような上場企業であれば公開情報は容易に手に入ります。企業が取材に協力してくれなくても、取引先、元社員、証券アナリストなどを幅広く取材すれば、記事は作れるはずです。
かつてのダイヤモンドには、企業との関係悪化も厭わない危険な香りの漂う特集が珍しくなかった気がします。「経済ジャーナリズムの鑑だ」などと感心しながら記事を読んだ記憶が残っています。しかし、最近は「落語」「歌舞伎」といった脱線企画が目立つだけでなく、セブン&アイホールディングスなどの企業を取り上げた特集でもヨイショ系が目に付きます。
「鉄は熱いうちに打て」というのはその通りです。田中様にこの助言が影響を与える可能性は低いでしょう。しかし、ダイヤモンドには高い志を失っていない「若手記者」もいるはずです。彼ら彼女らが「取材協力を得られなくても、批判的な切り口でこの企業を取り上げたい」と提案してきた時には、どうか耳を傾けてあげてください。輝きを失った週刊ダイヤモンドが再生するための手掛かりが、そこにはあるはずです。
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※特集「凄いネスレ」については「『Prologue』から苦しい週刊ダイヤモンド特集『凄いネスレ』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/prologue.html)「『ヨイショ』に無理が目立つ週刊ダイヤモンド『凄いネスレ』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_27.html)を参照してほしい。田中博編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。この評価については「田中博ダイヤモンド編集長へ贈る言葉 ~訂正の訂正について」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_22.html)で述べている。
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